【指導上の参考事項】

麦斑葉モザイク病について

北海道農業試験場病理昆虫部病害第一研究室
北海道農業試験場作物部第二研究室

 

 この病害は北米において“Barley stripe mosaic” といわれ、1951年にウイルス性病害であることが発見された。わが国では1956年に岡山において道産ビール麦に初めて発生が知られ“麦斑葉モザイク病”と名付けられた。
 この病害は減収を起こすことはもちろん、長い間未解決のビール麦の不稔の一因とも考えられるにいたっている。

 

Ⅰ 成績
 1. 寄主範囲
   汁液接種試験の結果、小麦、裸麦は著しく感受性高く、大麦、ライ麦これに次ぎ燕麦は稀に感染する。アカザには局所病斑を容易に多数生ずる。
 2. 種子伝染
   ガラス室内に播種し、実生の発病を見た。結果は次表のとおりである。

  ビール麦「春星」の種子の“麦斑葉モザイク病”ウイルス保毒率
生産地 圃場別 播種数(粒) 調査数(株) 発病数(株) 発病率(%)
1 上富良野 採種圃 302 294 0 0
2 中富良野 302 301 1 0.3
3   〃 302 293 1 0.3
4 富良野 302 281 0 0
5   〃 178 130 1 0.8
6   〃 302 284 2 0.7
7 富良野 302 267 4 1.5
8 南富良野 302 272 3 11
9   〃 302 278 1 0.4
10 津別 302 272 0 0
11 置戸 302 281 1 0.4
12 小清水 302 270 0 0
13 中富良野 原種圃 302 284 0 0
14 女満別 302 269 1 0.4
15 恵庭農場 302 279 0 0
16 北農試士別分場 原々種圃 302 279 0 0
  4706 4334 15 0.4

  麦類種子の“麦斑葉モザイク病”ウイルス保毒率
品種名 生産支場名 播種数(粒) 調査数(株) 発病数(株) 発病率(%)
裸麦
(丸実16号)
北海道立農業試験場
       天北支場
210 172 0 0
女満別試験地 210 196 0 0
北見支場 210 199 0 0
根室支場 210 131 0 0
十勝支場 210 161 0 0
1050 859 0 0
食用大麦
(六角大関)
本場 215 195 0 0
天北支場 210 91 1 0.5
女満別試験地 210 206 0 0
根室支場 210 190 0 0
十勝支場 210 183 0 0
1055 965 1 0.1
食用大麦
(札幌六角)
本場(A) 215 202 50 24.8
本場(B) 210 202 52 25.7
天北支場 210 195 24 12.3
女満別試験地 210 204 39 19.1
根室支場 210 175 26 14.9
十勝支場 210 178 34 19.9
1265 1156 225 23.2

 3. 収量におよぼす影響
    供試品種: ビール麦(モラビヤM40)  裸麦(丸実16号)  春小麦(農林29号)
    接種   : 4月3日播種した麦が2~3葉を生じた頃(5月23日)カーボランダム法で汁液接種した。但し小麦は初期の接種に失敗したものが多く、6月7日再接種して100%感染したも
            のである。
  麦斑葉モザイク病のモラビヤ(M40)の収量に及ぼす影響
茎数 穂数 稈長(cm) 穂長(cm) 抽穂度 1穂
総粒数 不稔粒数 同率(%)
モラビヤM40
   無処理
 
12.5

9.4
※※
111.1

12.6

10.1

30.8

3.5

11.2
接種 15.0 9.6 97.4 12.5 6.0 31.1 8.1 26.1
1株 千粒重(g) 出穂期 成熟期 調査数
総粒重(g) 粒重割合(%) 総粒数
モラビヤM40
   無処理
※※
8.64

100

184.5

47.31

7.5

8.3

100
接種 4.69 54 120.5 38.29 7.7 8.10 100
LSD  5%:稈長 4.3cm、不稔粒2.8、同率 8.6%、千粒重 6.41g、1%:粒重2.09g

  麦斑葉モザイク病の裸麦(丸実16号)の収量におよぼす影響
茎数 穂数 稈長(cm) 穂長(cm) 1穂 1株 千粒重(g)
総粒数 不稔粒数 同率(%) 粒重(g) 粒数
無処理 13.0 8.1 82.4 5.6 58.1 2.4 4.8 8.0 277.6 29.01
接種 11.9 5.0 37.4 4.6 54.3 47.1 82.5 0.21 9.4 15.49
処理間差
1.1

2.6

45.0

1.0

3.8

44.7
※※
77.7
※※
7.79
※※
268.2
※※
13.52

  麦斑葉モザイク病の小麦(農林29号)の収量におよぼす影響
茎数 穂数 稈長(cm) 穂長(cm) 1穂 1株 千粒重(g)
小穂数 不稔穂数 同率(%) 粒重(g) 粒数
無処理 11.2 7.3 108.3 10.9 18.5 1.0 0.6 4.73 167.5 29.47
接種 11.7 6.8 67.0 8.9 17.4 8.6 45.8 0.75 46.8 15.75
処理間差
-0.5

1.3

41.3

2.0

1.1
※※
7.6
※※
45.2
※※
3.98
※※
120.7
※※
132.7

 以上のごとく、モラビヤでは罹病株は茎数は増加するが、草丈は低く、また穂数は減少し、粒重及び粒数でそれぞれ46%および20%の減収、不稔率は15%増加を示している。
 また裸麦も稈長、穂数及び穂長が減少し、粒重および粒数ともに97%減収、不稔率は78%の増加を示し、小麦でも稈長および穂長に減少がみられ粒重および粒数はそれぞれ84%および72%減収、不稔率は45%の増加を示した。

 

Ⅱ 指導上の注意

 ウイルス性の病害に対しては、一般に治療薬剤がなく、またこの病害は現在のところ媒介昆虫は不明である。従ってその防除法としては次の方法が考えられる。
  (1) 健全種子の播種
  (2) 罹病株の徹底的抜取除去
  (3) 圃場の清掃(中間寄主の除去のため)
  (4) 原種体系の確立