【普及奨励すべき事項】
焦性亜硫酸曹達添加サイレージの調製について
北海道農業試験場畜産部牧野研究室 |
近年酪農家は、良質安価な自給飼料の合理的利用による経済性の向上にかなりの関心と努力が払われるようになった。とくに草サイレージは、本道の酪農経営上、不利な気象条件に対処し得る技術として、指導機関の尽力により、急速な普及がなされつつある。1957年には、草サイレージが約7000基、トレンチサイロは12000基がつくられ大きな効果を挙げた。
当部では1949年以来、草サイレージの調製法、トレンチサイロの利用法などの方途を明らかにしてきたが、草サイレージの安全なる調製法として、刈取時期、水分調節、細切、加圧、添加物及びサイロ用ビニールの応用、などの技術的問題について、一連の試験研究を行った。草類は、地力の維持増進と、乳牛の栄養などに結びついた経営の安定を図る上に、草地改良と草類利用が緊急な問題とされている。乳牛経済検定組合の成績によっても、夏季間の良質安価な生草の合理的給与と冬季間の安全な草類の貯蔵利用にあることが立証せられている。
しかし、これら草サイレージの調製時にあたって、刈取時期の降雨による養分損耗と品質低下、水分判定の困難性、経済的な添加物利用の問題、などからいまだかなりの失敗と不良品質サイレージがつくられている例も少なくない。他方サイレージは利用家畜が乳牛に限らず馬、緬山羊、豚、取りの利用範囲に適応し、これにともなうサイレージ品質の向上と草質及び生産量の改善のために若刈草の良質安全な調製法が要求されている。これらの点から、サイレージ調整新添加剤として焦性亜硫酸曹達によるサイレージの調製法とその効果について、1956年より3ヵ年の基礎試験と2ヵ年の現地適応試験を行い、一応の結果が得られたので報告する。
なお、本試験は焦性亜硫酸曹達の添加による調製にあたっての実際上の技術的問題点、家畜に対する嗜好性及び現地試験成績を牧野研究室がまとめ、また供試剤の化学的特性については、飼料化学研究室が分担した。また道立新得種畜場及び同滝川種畜場では乳牛、豚、及び取りに関するサイレージの給与試験を行い、現地試験は北海道農業改良課の協力を得て道内全域の改良普及所を通じ70箇所で行った。
Ⅰ 試験方法
1. 試験方針
SMS添加によるサイレージ調製試験については、本剤の特性から3ヵ年の基礎試験と、2ヵ年の現地適応試験を行い、適応性及び効果の確認に努めた。
①サイロ : トレンチ、塔型に分け、さきに得られた成績にもとづき、サイロ用ビニールを使用したが、塔型サイロではSO2ガスの生成があるので、切込中にはサイロ内に入らず、1.5~
2.0m埋草ごとにcutterを空転させ、空気の換流を図りながら埋草し、十分加圧、沈圧を行うことを原則とした。トレンチサイロについては常法に準じて行った。
②原料 : 実際に利用の多い牧草類、とくに赤クロバーを主体とし、肥培管理をおこなった若干若刈原料を主として埋草し、またビートトップにもかなり重点を置き、デントコーンについ
ても多少の検討を行った。
③調製法: 牧草類では、予乾による水分調節には、あまり注意を払わないのが通例のようではあるが、ビートトップでは、固形物の添加による調節を行うよう努めた。
埋草原料はカッターで1.0~1.5cmに細切の上SMSを原料草屯当0.4~0.5%の均等な混合を行った。
取出し給与にあたっては、埋草後30日以上経過したものについて行った。
2. 試験箇所
本試験のセンターを畜産部とし、基礎的諸問題の究明に当たるとともに道内の国立及び道立各畜産場所及び全市長について、道改良課の協力のもとにSMSサイレージ調製に関する
試験打ち合わせ及び講習会を行い、一定規格に基づいて試験を運行し、さらに第1次(調製時)及び第2次(給与時)の調査報告書により、調製法、原料草の状態、サイロその他について
報告をうけるとともに家畜による嗜好性、健康状況及び効果についての調査を行った。
試験箇所及び状況は第1表のように、1956年以来、118回の試験を行った。
①アンケート調査 :
イ 原料草の状況(反収、草種割合、刈取時期)
ロ サイロの状況(塔型サイロ、トレンチサイロとも大きさ、ビニールの使用状態)
ハ 埋草月日及び天候
ニ SMSの添加量及び添加方法
ホ 埋草時の踏圧及び加重の状況
ヘ でき上がりサイレージの状況(色沢、香気、損失割合及び変質程度)
ト サイレージの給与状況(1日平均給与量、飽食量、嗜好程度)
チ 長期給与状況(体重、乳量の乳牛に1日何kg、何日間給与した結果の状態)
リ SMSに対する意見(外観、嗜好性、普及上の問題点)
支庁別 | 地区名 | 年次 | サイロ区分 | 試験担当者名 | |
トレンチ | 塔型 | ||||
石狩 | 豊平町 | 56.57.58 | 8(草) | 22(草、デ) | 試験場畜産部 |
江別市 | 58 | 2(草) | 5(草) | 三股、高野技官、山本技師 | |
恵庭町 | 58 | 2(草ビ) | 1(草) | 金川技師、土田専技 | |
空知 | 滝川市 | 57.58 | 4(草ビ) | 1(草) | 滝川種畜場 |
沼田町 | 58 | 1(草) | 河野専技 | ||
栗山町 | 58 | 1(ビ) | 1(草) | 河野専技、北技師 | |
新十津川町 | 58 | 1(草) | 河野専技 | ||
一巳村 | 58 | 1(草) | 山本技師 | ||
上川 | 美瑛町 | 58 | 1(ビ) | 2(草ビ) | 河野専技、小椋技師 |
旭川市 | 58 | 1(ビ) | 管野技師 | ||
名寄市 | 58 | 1(ビ) | 竹田技師 | ||
剣淵村 | 58 | 1(草) | 江端技師 | ||
後志 | 喜茂別町 | 58 | 1(ビ) | 1 | 薄田技師 |
倶知安町 | 58 | 1(ビ) | 松本技師 | ||
京極村 | 58 | 1(草) | 高野専技 | ||
狩太町 | 58 | 1(ビ) | 角田技師 | ||
檜山 | 今金町 | 58 | 1(ビ) | 1(草) | 高野専技、石川技師 |
北檜山町 | 58 | 1(ビ) | 滝沢技師 | ||
渡島 | 八雲町 | 58 | 1(草) | 土田専技 | |
当別町 | 58 | 1(草) | トラピスト修道院 | ||
長万部町 | 58 | 1(ビ) | 小林技師 | ||
上磯町 | 58 | 1(ビ) | 時田技師 | ||
胆振 | 伊達町 | 58 | 2(草ビ) | 1(草) | 土田専技、木田技師 |
豊浦町 | 58 | 1(ビ) | 土生技師 | ||
日高 | 門別町 | 58 | 2(ビ草) | 1(草) | 土田技師、滝沢技師 |
新冠村 | 58 | 1(ビ) | 小崎技師 | ||
十勝 | 新得町 | 57.58 | 6(ルタバガ) | 2(草) | 新得種畜場 |
新得町 | 58 | 1(ビ) | 長沼技師 | ||
芽室町 | 58 | 1(草) | 高野技官、遠藤専技、丹代技師 | ||
豊頃村 | 58 | 1(草) | 遠藤専技、谷口技師 | ||
本別町 | 58 | 1(草) | 遠藤専技 | ||
音更町 | 58 | 1(草) | 1(草) | 十勝種畜牧場、音更農改 | |
足寄町 | 58 | 1(ビ) | 尾沢技師 | ||
帯広市 | 58 | 1(ビ) | 本井技師 | ||
幕別町 | 58 | 1(草) | 遠藤専技、平野技師 | ||
釧路 | 弟子屈町 | 57.58 | 2(草ビ) | 釧路拓殖実習場 | |
弟子屈町 | 58 | 1(ビ) | 高野技官 | ||
標茶町 | 58 | 1(ビ) | 高野技官、長尾技師 | ||
浜中村 | 58 | 1(ビ) | 太田技師 | ||
白糠町 | 58 | 1(ビ) | 伏見技師 | ||
鶴居村 | 58 | 1(草) | 高野技官、長田専技 | ||
根室 | 根室市 | 58 | 1(草) | 高野技官、長田専技 | |
別海村 | 58 | 1(ビ) | 留目技師 | ||
中標津町 | 57.58 | 2(草燕) | 道立農試根室支場 | ||
網走 | 小清水町 | 58 | 1(草) | 1(草) | 三股技官、松村専技 |
興部町 | 58 | 1(草) | 生駒技師 | ||
紋別市 | 58 | 1(ビ) | 一条技師 | ||
北見市 | 58 | 1(ビ) | 大井技師 | ||
女満別町 | 58 | 1(ビ) | 山田技師 | ||
小清水町 | 58 | 1(ビ) | 前橋技師 | ||
宗谷 | 浜頓別町 | 58 | 1(草) | 三股技官、伊藤技師 | |
中頓別町 | 58 | 1(ビ) | 片山技師 | ||
豊富村 | 58 | 1(ビ) | 佐藤技師 | ||
留萌 | 遠別町 | 58 | 1(草) | 1(草) | 遠藤専技、西技師 |
苫前町 | 58 | 1(ビ) | 関技師 | ||
天塩町 | 58 | 1(ビ) | 今岡技師 | ||
幌延村 | 58 | 1(ビ) | 本間技師 | ||
計 | 59 | 59 | (計 118基) |
② 一般分析 : 常法により定量した。
③ 有機酸及びPH : 有機酸は常法により行ったが、総酸より揮発酸量を控除したものを不揮発酸とした。醋酸として表示した。PHはガラス電極法によった。
④ 消化試験 : Total sollection 法によった。
⑤ 可消化成分 : 本試験の消化率及びMORRISON氏並びに BRATZLER氏らの消化率を引用した。
⑥ 供試添加剤 : 1956年には MONSANTO chemi-cal co製の “Medo-green”1957年には同じく“Meta-green”及び三菱商事取扱いによる焦性亜硫酸曹達(“Daiya-green”)を用い、
米国製品と国産品の効果を検討した。この結果、両者には特性上の差がないことを認めたので、1958年の基礎試験には国産品を使用した。
SMSの粒度は次のごとくである。
第2表 SMSの粒度(%)
メッシュ | US-SMS | J-SMS |
6 以下 | 0.0 | 0.0 |
30 〃 | 6.2 | 0.0 |
50 〃 | 29.3 | 0.3 |
100 〃 | 31.7 | 5.6 |
150 〃 | 26.6 | 70.1 |
200 〃 | 3.0 | 13.7 |
200以上 | 3.2 | 10.3 |
⑦ サイロ用ビニールの使用 : 塔型、トレンチサイロともサイロ用ビニールの0.075~0.10mmを常法により使用した。ただしトレンチサイロでは、高水分原料に対しては、側面は原反
ビニールを周囲に装着させ、1ヶ所をテープの貼合わせをし、底面は寸法に合わせた1枚を敷き、過剰水分の排出に便ならしめた。