【指導上の参考事項】
焦性亜硫酸曹達 Sodium metabisulfite (略称 SMS)の特性
北海道農業試験場畜産部飼料化学研究室 |
1. 特性の概要
Silage添加割としての SMS(NS2a2O5)の使用は米国等ですでに実用に供されている現況であるが、わが国においては飼料としてのSilageの重要性があるにもかかわらず、これもでその研究はほとんどおこなわれていない。
本剤の理化学性、添加剤としての効果、特質等に関しては概要次のとおりである。
(1) 理化学性
本剤は焦性亜硫酸のNa塩で、分子式はNa2S2O5で示される。の構造を有する。
分子量190.1、結晶は無色柱状で、7分子の結晶水を含む。水に溶け、アルコールに溶けない。150℃で溶融分解し、また水に接触して亜硫酸ガス SO2を発生する。
(2) 有効性
Silage添加剤としての効果は、
① 空気中酸素O2遮断による嫌気性保持
② PH低下による bacteriaの生育抑制
③ 温度上昇防止による basteriaの生育抑制
④ Silage原料の体内分解抑制
⑤ 発生機水素による還元的消毒殺菌作用
などにありと推察されるが、これらはいずれも水と接触した際におけるその亜硫酸生成機能に帰し得るものである。ゆえにSMSの効果を発揮するためには、適度の水分の存在を必
要とし、過度の原料予乾は、空気中酸素の混入増大と相俟ってむしろ効果を減殺するものと考えられる。
米国では、一般に本剤使用の場合は、予乾の必要なしとされており、この点は従来ともすればサイレージ調製に際し、その予乾工程で天候に災いされることの多かった本邦として
は、殊に本剤の使用の重要な利点の1つと考えられる。
(3) 亜硫酸ガス SO2の性質
ここに発生するSO2は無色、刺激性悪臭を有する気体で、重量はO2の約2倍、18℃3atm-10℃では常圧で液化し、-73℃で個化する。水溶性は極めて大で、水1容に対し、0℃では
79.8容、20℃では39.4容40℃でも18.8容が溶解する。水溶液は空中に放置すれば徐々に揮発し、加熱沸騰すると解離度が減少して、その全部が揮発する。
水溶液はやや強い酸で、これはSO2がH2Oと結合し、亜硫酸H2SO3を生ずるによるものである。SO2は直接にはO2と反応しないが、白金黒またはH2Oの存在により容易に酸化されて
SO3または硫酸H2SO4を生ずる。ゆえにSO2は還元剤として、その水溶液はいろいろの酸化剤に作用し、硫酸や硫酸塩を生ずる。
ゆえにSO2は還元剤として、その水溶液はいろいろの酸化剤に作用し、硫酸や硫酸塩を生ずる。
(4) 他の添加剤との比較
Silage品質の保持向上に対しては、従来ともいろいろな方法が行われているが、その主なものは次の3つである。
1) 物理的処理…予乾、沈圧、被覆、密閉等による水分調節並びに空気(空気中酸素)の遮断
2) 栄養源の添加…米糠、ふすま、穀粒、穀粉、ビートパルプ、尿素、糖蜜、等それ自体栄養価値あるものの添加による栄養価、嗜好性等の直接的向上及び水分調節、発酵性糖源
補給による乳酸生成の促進と、それによる腐敗醗酵の抑制等。
3) 化学的処理…無機酸、亜硫酸ガス、蟻酸石灰SMS等、それ自体は栄養価はないが添加により原料の品質変化を防止する。実際には、これらの方法に、あるいは適宜組合わせて
用いられている。一般にSilage埋蔵中の変化については原料の呼吸作用、酵素作用による分解と、好気的並びに嫌気的微生物活動がその主因をなすものと考えら
れる。栄養源添加の方法は、添加によって直接的に栄養価を高め、また例えば糖蜜のような発酵性糖源を添加して、乳酸発酵を促進するため、ある程度品質変化
の方向を規制し得るものではあるが、本質的に呼吸作用や酵素作用をとめたり、微生物活動を抑制するものではないので、たとえ嗜好性にとむ品質良好なSilageが
できたとしても、成分的には養分の損失はこれは免れない。例えば炭水化物が分解される場合の熱量損失についてみると、乳酸発酵のみに限定すれば約3%にとど
まるが、醋酸発酵においてはほぼ20%におよび、しかもこのような変化は乳酸発酵にふずいして、必ず多少とも起こるものなのである。
無機酸の添加はその点酸度を急増し、前記諸作用を抑制して養分の損耗を防ぐものであるが、一般的使用量では、乳酸発酵まで防ぐことはできないし、残った酸の
中和に多量の石灰を要する。また飼料中多量の無機酸の存在は、家畜栄養上好ましくないものである。
SMSは同じ化学的保存剤であるが、その作用は無機酸より、多面的であり、残留効果に対する顧慮もすくなくてすむものである。
例えばSO2の発生により化学的また物理的に酸素を駆逐するような効果は無機酸添加では得られないし、亜硫酸にしても加酸サイレージに用いられる。硫酸、塩酸
等に比較すると著しく弱い酸であり、また硫酸のような不揮発酸と違って、大気中に放置すれば揮発する性質のものである。ゆえに中和の必要もほとんどない。
SO2の直接使用に機能的にはSMSと同じ効果を有するものであるが、取扱上粉末のSMSの方が一般に便利と考えられる。
2. 試験の一般的目的
一般にわが国は気候湿潤でそのため乾草またはサイレージなどの調製に際しても天候に災いされて品質優良のものを得ることが困難な場合が少なくない。この点原料予乾の必要なしとされる本剤の使用はサイレージの調製に対する天候の制約を軽減する物としてことにわが国などにおいては有利ではないかと考え、草サイレージ添加剤としての本剤の特性効果を明らかにし、合理的使用法確立に質することを目的として次の試験を行った。
試-1 SMS 添加草サイレージおよびふすま添加草サイレージの熟成過程における成分変化とその比較
試-2 SMS 添加草サイレージの貯蔵中における成分変化
試-3 SMS 添加草サイレージ品質に対する原料草刈取り時期(生育段階)の影響
試-4 SMS 添加草サイレージの品質に対する原料草加水または予乾の影響
試-5 流汁損耗の調査
試-6 各種類似薬品の添加効果の比較
3. SMS 添加草サイレージ及びふすま添加草サイレージの熟成過程における成分変化とその比較(試-1)
(1) 目的
草サイレージにSMSを添加した場合の熟成過程における成分変化を調べてその特質を明らかにし、ふすま添加の場合と比較する。
(2) 方法
供試薬剤 : 焦性亜硫酸ソーダNa2S2O5国産品
供試原料 : 畜産部26号地産、6月20日刈取の第1表の牧草を使用、100a当生草量3200kg、この原料草の成分および添加ふすまの成分は第2表
第1表 原料草の状態
草種 | 割合(%) | 刈取時期 |
赤クロバー | 64.2 | 開花期 |
チモシー | 28.2 | 穂孕み期 |
白クロバー | 5.0 | - |
雑草 | 2.6 | - |
第2表 供用材料の成分表
材料 | 一般成分(無水物中 %) | (原物中 %) | |||||||
粗蛋白質 | 純蛋白質 | 粗繊維 | 粗脂肪 | 粗灰分 | 可溶無窒素物 | 全糖分 | 水分 | カロチン(mg%) | |
原料草 | 14.39 | 12.62 | 28.96 | 3.23 | 8.57 | 44.85 | 20.11 | 78.24 | 2.24 |
ふすま | 16.17 | - | 8.81 | 5.05 | 5.69 | 64.28 | - | 14.28 | - |
処理並びに調製法 カッターにより予め細切した原料草に次の4処理を行い、各8kgあて、給水孔および排水孔をふさいだ1/2万反ワグナーのポットに充填し、鎮圧、ビニールカバ
ー、水蓋で被覆し、さらに各ポットごとに約10kgの重石をのせた。
処理は ① SMS 0.36%添加(規準量)
② ふすま5%添加
③ SMS 0.72%添加(基準倍量)
④ 無添加の4処理とした。
(3) 試料採取および調査
前記処理①、②については、埋蔵後1、2、4、7日および34日、③、④については34日にポットを1ヶ宛供試し中央部を試料おして採取し、色沢、香気、黴発生の有無等について肉眼的
観察を行い、さらに後記の分析を行った。
(4) 結果
第3表 試験サイレージの外観
試料 | 経過 日数 |
色沢 | 香気 | 摘要 |
SMS 0.36% |
1 | 新鮮緑色 | 刺激性新鮮草臭 | |
2 | 〃 | 〃 | ||
4 | 〃 | 〃 | ||
7 | 緑色 | やや刺激性爽快な酸臭 | 表面僅かに白色菌系の黴の発生を認む | |
34 | 緑褐色 | 〃 | 表層より約5cmかびの発生を認む | |
ふすま 5% |
1 | 緑色 | 幾分醗酵臭 | |
2 | やや暗緑色 | 酸臭 | ||
4 | 暗緑色 | 〃 | ||
7 | 緑褐色 | 〃 | 表面僅かに白色菌系の黴の発生を認む | |
34 | 褐色 | 〃 | 表層より約5cmかびの発生を認む | |
SMS 0.72% |
34 | 緑褐色 | 爽快な酸臭 | 同上 |
34 | 褐色 | 酸臭 | 同上 |
第4表 成分分析結果
試料 | 経過 日数 |
新鮮物中(%) mg% | 無水物中(%) | |||||||||
水分 | PH | 酸度* | カロチン | 粗蛋白質 | 純蛋白質 | 粗繊維 | 粗脂肪 | 粗灰分 | N.F.E | 全糖分 | ||
SMS 0.36% |
1 | 79.39 | 5.8 | 7.00 | 2.02 | 14.33 | 11.67 | 25.49 | 4.00 | 9.47 | 46.71 | 19.60 |
2 | 79.07 | 5.6 | 8.75 | 2.17 | 12.55 | 8.11 | 26.36 | 3.11 | 9.33 | 48.65 | 20.51 | |
4 | 79.83 | 6.1 | 4.60 | 1.84 | 13.40 | 10.76 | 28.43 | 4.09 | 9.31 | 44.77 | 21.57 | |
7 | 80.71 | 6.1 | 3.50 | 1.83 | 14.27 | 10.36 | 27.10 | 4.30 | 10.20 | 44.13 | 18.82 | |
34 | 81.25 | 5.4 | 9.25 | 1.62 | 12.14 | 10.18 | 27.91 | 7.11 | 11.65 | 41.19 | 15.50 | |
5% |
1 | 77.78 | 6.0 | 6.60 | 1.91 | 14.74 | 13.36 | 25.90 | 3.55 | 8.05 | 47.76 | 23.05 |
2 | 77.27 | 5.2 | 13.20 | 1.82 | 15.75 | 12.48 | 26.33 | 4.74 | 8.33 | 44.85 | 22.22 | |
4 | 46.93 | 5.3 | 18.88 | 1.80 | 15.68 | 12.79 | 25.47 | 3.71 | 8.14 | 47.00 | 15.95 | |
7 | 77.77 | 5.2 | 19.30 | 1.66 | 15.92 | 13.31 | 25.92 | 3.77 | 8.52 | 45.87 | 21.03 | |
34 | 79.07 | 4.5 | 22.60 | 1.27 | 13.45 | 7.58 | 24.97 | 7.31 | 9.71 | 44.56 | 17.85 | |
SMS 0.72% |
34 | 79.38 | 5.2 | 6.04 | 1.88 | 12.62 | 9.61 | 24.34 | 5.03 | 11.90 | 46.11 | 17.33 |
無添加 | 34 | 80.46 | 4.7 | 16.46 | 1.12 | 13.36 | 10.58 | 27.65 | 3.48 | 10.43 | 45.08 | 15.94 |
無添加 | 無 加 | 75.19 | 無添加 | 無添加 | 無添加 | 14.67 | 無 添加 | 25.63 | 3.55 | 8.06 | 48.09 | 添 加 |
第5表 各種酸含有量(搾汁10cc相当量中和に要するN/50 NaOHcc数)
酸 | SMS定量 | SMS倍量 | ふすま添加 | 無添加 |
総酸 | 46.25 | 30.20 | 113.00 | 82.30 |
不揮発酸 | 28.21 | 12.08 | 99.70 | 63.54 |
揮発酸 | 18.04 | 18.12 | 13.30 | 18.76 |
揮発性脂肪酸 | 4.43 | 2.21 | 12.94 | 15.31 |
醋酸 | 3.31 | 2.06 | 10.74 | 11.42 |
酪酸 | 0.24 | - | 1.14 | 2.07 |
(5) 考察
上記の結果より判断すれば、SMSの添加は、緑度保持の点で明らかに優る。PHの変化は、当初24時間位においては発生するSO2の影響によりむしろふすま添加区よりやや低い値を
示すが、2日以降においては全般的にふすま添加区より高い値を保っており酸度も低く、糖の残存率も幾分多い傾向を示している。これはSMSの添加により酸生成が抑制された結果
と考えられる。カロチンの損耗はSMS添加区では34日後約20%ふすま添加区ではほぼ40%であり、明らかにその有効性を示している。SMS添加はまた純蛋白の保持に有効とされている
が、本試験においても同様の傾向が認められる。
酸の種類別分析結果についてh、SMS添加区の不揮発酸の少ないことについては、おそらくは乳酸発酵自体までSMS添加により抑制されたことが原因の一つではないかと考えられ
る。 SMS添加区の揮発酸の比較的多いことについては、SMS添加により生成したOS2の残存効果によるものでないかということが考えられる。
揮発性脂肪酸、醋酸、酪酸はSMS添加区はいづれもふすま添加区に比べて、著しく少ない値を与えている。なおSMSの倍量使用はその効果において、常量使用と大差はないようであ
る。
4. SMS添加草サイレージの貯蔵中における成分変化(試-2)
(1) 目的
サイレージの原因に際して、その使用期間は条件によりことなるものであるが、一般に相当の長期間を要する。保存が長期にわたった場合の成分の変化を知るために次の試験を行
った。
(2) 方法
供試薬剤…SMS、国産品
供試試料…当畜産部養蟻試験圃場産赤クロバー2番草、開花中のもの、刈取り期日
処理並びに調製法: カッターによりあらかじめ細切りした原料草にSMS0.36%を添加混合し各8kg宛給水孔および排水孔をふさいだ1/2万反のワグナーポット6ヶに鎮圧しながら充填し、
ビニールカバー、不蓋で被覆、さらに各ポット毎に約10kgの重石をのせ埋葬後15日、25日、35日、70日、100日、140日間貯蔵の6処理を行った。
なお貯蔵に暖房をしない室内で行ったが、140日の試料は凍結していた。
(3) 試料の採取および調査
所定の期間毎に1ヶづつあけて色沢、香気、黴発生の有無などについて、肉眼的観察を行いさらに後述の分析を行った。分析は実験農芸化学(東大)集載の常法にしたがった。
(4) 結果次のとおりである。
第6表 外観
試料記号 | 埋蔵後 日数 |
色沢 | 香気 | その他 |
P-13 | 15 | 緑色 | やや刺激性新鮮臭 | 表層部かびの発生を認む |
P-14 | 25 | 黄緑色 | やや刺激性快酸臭 | 〃 |
P-15 | 35 | 〃 | 〃 | 同上、かびの生育深さ約5cmまで |
P-16 | 70 | 暗緑黄色 | 同上、発酵性酸臭を帯ぶ | 同上、 約10cmまで |
P-17 | 100 | 〃 | 〃 | 〃 |
P-18 | 140 | 〃 | 〃 | 〃 |
第7表 原料草並びにサイレージ分析表(1)
試料記号 | 埋蔵後 日数 |
新鮮物 | 搾汁中 | 搾汁10cc中和に要する N/10 NaOHme数 | ||||||
水分(%) | PH | SMS m/10cc |
酸度 | 不揮発酸 | 揮発酸 | V.F.A | 醋酸 | 酪酸 | ||
P-16 | 原料草 | 84.07 | ||||||||
P-13 | 15 | 85.83 | 5.4 | 10.41 | 9.25 | 5.98 | 3.27 | 1.39 | 1.24 | 0.15 |
P-14 | 25 | 86.10 | 5.4 | 8.56 | 10.41 | 6.32 | 4.09 | 0.77 | 0.88 | 0.09 |
P-15 | 35 | 86.25 | 5.2 | 8.87 | 10.30 | 6.14 | 4.16 | 1.22 | 1.15 | 0.07 |
P-16 | 70 | 86.85 | 5.3 | 7.51 | 11.20 | 5.97 | 5.23 | 1.46 | 1.33 | 0.13 |
P-17 | 100 | 86.82 | 5.2 | 9.41 | 10.87 | 6.43 | 4.44 | 1.75 | 1.66 | 0.09 |
P-18 | 140 | 86.74 | 5.2 | 7.18 | 11.88 | 7.01 | 4.87 | 1.63 | 1.47 | 0.16 |
第8表 原料草並びにサイレージ分析結果(2)
試料記号 | 埋蔵後 日数 |
無水物中 | 無水物中(%) | |||||
カロチン m/100g |
粗蛋白質 | 純蛋白質 | 粗繊維 | 粗脂肪 | 粗灰分 | N.F.E | ||
P-16 | 原料草 | 23.0 | 17.36 | 15.33 | 28.65 | 3.47 | 9.33 | 41.19 |
P-13 | 15 | 18.0 | 16.88 | 12.82 | 27.80 | 4.31 | 10.72 | 40.29 |
P-14 | 25 | 17.0 | 16.09 | 13.45 | 27.76 | 4.57 | 10.99 | 40.59 |
P-15 | 35 | 17.5 | 18.35 | 12.90 | 27.64 | 4.46 | 11.01 | 40.54 |
P-16 | 70 | 168 | 16.09 | 12.61 | 26.70 | 4.42 | 11.94 | 40.85 |
P-17 | 100 | 16.2 | 17.02 | 12.12 | 25.95 | 3.65 | 12.27 | 41.11 |
P-18 | 140 | 16.4 | 15.68 | 12.59 | 28.07 | 4.08 | 11.43 | 40.74 |
(5) 考察
上記の結果によれば、貯蔵中の変化はあまり著しいものではないが長期になるにつれて色沢も緑度を減じ幾分醗酵性の酸臭を加えてくる。またSMS残存量は漸減するが長期にわたる
につれてそのへり方は極めて緩徐になるなどの傾向が認められる。わずかであるがPHの低下酸量の増大も認められた。
しかし一般に貯蔵中の変化はここに現れた範囲では余り著しいものではないと考えられる。ただし140日貯蔵の試料が凍結状態にあったことは若干考慮を要するものと思われるが、こ
のような長期貯蔵したものを使用するのは多くの場合越冬飼料としてサイレージを利用する場合であり、その点、この試料は必ずしも不適当とは考えられない。
5. SMS添加草サイレージ品質に対する原料草刈取時期(生育段階)の影響(試-3)
(1) 目的
SMSのサイレージ添加剤としての有効性については、水分の存在が大きな影響を与えるものと考えられている。一般に草類の組成は水分を含めて刈取り時期(生育段階)によりかなり
異なるのでSMSを用いた場合のサイレージ品質に対する原料草刈取時期の影響を明らかにするためこの試験を行った。
(2) 方法
供試薬剤…SMS国産品
供試原料草…第9表の通り、だたしオーチャードグラス8月20日刈のものについては水分定量以外の分析を行わなかった。
第9表 供試原料草概要
試料番号 | 産地 | 草種 | 生育段階 | 刈取期日 |
M-101 | 当畜産部農蜂試験圃場 | 赤クロバー1番刈 | 開花初期 | 1958.6.16 |
M-102 | 〃 | 〃 | 開花中期 | 1958.6.27 |
M-103 | 〃 | 〃 | 晩花期 | 1958.7.7 |
M-116 | 〃 | 赤クロバー2番刈 | 開花中期 | 1958.8.20 |
M-118 | 当畜産部5号地 | 〃 | 開花晩期 | 1958.9.2 |
M-119 | 〃 | オーチャードグラス2番刈 | 1958.9.2(及び8.20) |
処理並びに調製法 : カッターによりあらかじめ細切した原料草にSMS 0.36%を添加混合したものを給水孔および排水孔を密閉した1/2万反ワグナーのポットに鎮圧しながら充填し、
ビニールカバー、木蓋で被覆、さらに各ポット毎に約10kgの重石をのせた。充填量は一部生草水分の比較的少ないものを除いて、ポット当り8kg、生草水分の少な
いものは8kg充填は困難なので7kgとした。また一部比較のための無添加のものを調製した。各処理摘要第10表のとおりである。
(3) 試料採取および調査
各処理いずれも埋草後35日に試料を採取供試した。調査内容は従前に準じた。
(4) 結果
次のとおりである。
第10表 使用原料草および処理摘要とサイレージの外観
原料区分 | 試料記号 | 使用原料草 | 同刈取期日 | 生育段階 | 埋葬日数 | SMS添加% | 充填量kg | 香気 | 色沢 |
赤クロバー 1番刈 |
M-101 | (原料) | 58.6.16 | 開花初期 | |||||
P-1 | M-101 | 35 | 0.36 | 8.0 | やや刺激性快酸臭 | 緑黄色 | |||
P-4 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | ||||
P-5 | 〃 | 0 | 〃 | 酸臭 | 褐色 | ||||
M-102 | (原料) | 58.6.27 | 開花中期 | ||||||
P-9 | M-102 | 35 | 0 | 8.0 | 酸臭 | 褐色 | |||
P-7 | 〃 | 0.36 | 〃 | 緑黄色 | |||||
M-103 | (原料) | 58.7.7 | 晩花期 | ||||||
P-11 | M-103 | 35 | 0.36 | 8.0 | やや刺激性快酸臭 | 暗緑黄色 | |||
赤クロバー 1番刈 |
M-116 | (原料) | 58.8.20 | 開花中期 | |||||
P-15 | M-116 | 35 | 0.36 | 8.0 | やや刺激性快酸臭 | 緑黄色 | |||
M-118 | (原料) | 58.9.2 | 晩花期 | ||||||
P-23 | M-118 | 35 | 0.36 | 7.0 | 〃 | 緑黄色 | |||
P-26 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | |||||
オーチャード グラス2番刈 |
E-119 | (原料) | 58.8.20 | ||||||
P-28 | 58.9.2 | 0.36 | 7.0 | やや刺激性快酸臭 | 緑黄色 | ||||
P-29 | 9.2 | 〃 | 〃 |
第11表 原料草並びにサイレージ分析結果(1)
原料区分 | 試料記号 | 生育段階 | SMS 添加% |
新鮮物 | 搾汁中 SMS mg/g |
搾汁中(10cc)含量中和所要N/10 NaOHml数 | ||||||
水分(%) | PH | 酸度 | 不揮発酸 | 揮発酸 | V.F.A | 醋酸 | 酪酸 | |||||
赤クロバー 1番刈 |
M-101 | 開花 | 85.50 | |||||||||
P-1 | 初期 | 0.36 | 87.31 | 5.5 | 10.53 | 8.68 | 5.13 | 3.55 | 1.21 | 1.11 | 0.10 | |
P-4 | 〃 | 86.49 | 5.4 | 12.84 | 9.85 | 5.47 | 4.38 | 1.22 | 1.13 | 0.09 | ||
P-5 | 0 | 87.70 | 4.7 | 18.37 | 14.25 | 4.12 | 3.46 | 3.13 | 0.33 | |||
M-102 | 開花中期 | 82.49 | ||||||||||
P-6 | 0 | 85.03 | 4.6 | - | 17.60 | 14.58 | 2.42 | 2.24 | 2.05 | 0.19 | ||
P-7 | 0.36 | 82.41 | 5.5 | 12.24 | 8.40 | 4.35 | 4.05 | 0.98 | 0.89 | 0.09 | ||
M-103 | 晩花期 | 81.70 | ||||||||||
P-11 | 0.36 | 83.16 | 5.5 | 8.08 | 9.86 | 6.72 | 3.14 | 0.56 | 0.51 | 0.05 | ||
赤クロバー 1番刈 |
M-116 | 開花中期 | 84.07 | |||||||||
P-15 | 0.36 | 86.25 | 5.2 | 8.87 | 10.30 | 6.14 | 4.16 | 1.22 | 1.15 | 0.07 | ||
M-118 | 晩花期 | 76.32 | ||||||||||
P-28 | 0.36 | 77.51 | 5.0 | 11.12 | 12.10 | 7.33 | 4.77 | 1.18 | 1.10 | 0.08 | ||
P-26 | 〃 | 79.21 | 5.1 | 6.94 | 11.52 | 6.68 | 4.84 | 1.35 | 1.23 | 0.12 | ||
オーチャード グラス2番刈 |
E-119 | 9.2刈 | 72.92 | |||||||||
P-28 | 0.36 | *81.09 | 5.6 | 7.27 | 8.73 | 6.47 | 2.26 | 1.48 | 1.37 | 0.11 | ||
P-29 | 〃 | 71.77 | 5.3 | 11.96 | 10.25 | 8.01 | 2.24 | 1.09 | 0.99 | 0.10 |
第12表 原料草並びにサイレージ分析結果(2)
原料区分 | 試料記号 | 生育段階 | SMS 添加% |
無水物中 | 無水物中(%) | |||||
カロチン mg/100g |
粗蛋白質 | 純蛋白質 | 粗繊維 | 粗脂肪 | 粗灰分 | N.F.E | ||||
赤クロバー 1番刈 |
M-101 | 開花初 | 24.3 | 20.43 | 17.42 | 27.73 | 2.89 | 9.12 | 39.83 | |
P-1 | 0.36 | 16.2 | 18.67 | 15.35 | 29.53 | 3.48 | 10.73 | 37.59 | ||
P-4 | 〃 | 17.8 | 19.01 | 15.27 | 27.82 | 4.01 | 11.15 | 38.01 | ||
P-5 | 0 | 13.4 | 16.43 | 12.51 | 28.49 | 3.53 | 11.86 | 39.49 | ||
M-102 | 開花中期 | 26.5 | 17.85 | 16.05 | 28.44 | 3.14 | 8.75 | 41.82 | ||
P-6 | 0 | 14.1 | 15.22 | 11.28 | 30.17 | 4.32 | 10.47 | 39.82 | ||
P-7 | 0.36 | 17.9 | 15.57 | 13.07 | 27.46 | 4.07 | 11.52 | 41.38 | ||
M-103 | 晩花期 | 19.6 | 16.43 | 14.52 | 30.06 | 3.64 | 8.27 | 41.60 | ||
P-11 | 0.36 | 14.0 | 14.56 | 11.80 | 30.29 | 4.56 | 10.99 | 39.60 | ||
赤クロバー 1番刈 |
M-116 | 開花中期 | 23.0 | 17.36 | 15.33 | 28.65 | 3.47 | 9.33 | 41.19 | |
P-15 | 0.36 | 17.5 | 16.35 | 12.90 | 27.64 | 4.46 | 11.01 | 40.54 | ||
M-118 | 晩花期 | 18.5 | 15.76 | 14.22 | 31.11 | 3.09 | 9.76 | 40.25 | ||
P-28 | 0.36 | 12.5 | 14.87 | 12.45 | 29.07 | 4.43 | 10.43 | 41.20 | ||
P-26 | 〃 | 10.2 | 14.07 | 11.12 | 28.52 | 3.80 | 11.53 | 42.08 | ||
オーチャード グラス2番刈 |
M-119 | 9.2 | 11.0 | 10.10 | 9.00 | 33.67 | 4.34 | 8.13 | 43.76 | |
P-28 | (8.20刈) | 0.36 | 11.6 | 10.81 | 9.88 | 25.13 | 3.85 | 11.31 | 48.90 | |
P-29 | (9.2刈) | 〃 | 13.0 | 8.74 | 7.33 | 31.66 | 4.03 | 10.74 | 44.83 |
(5) 考察
香気、色沢等外観的所見においてSMS添加のものは添加しないものに比べ、緑度保持、芳香等で明らかに優っていた。化学組成においても無添加のものは添加したものとの間にか
なり著しい差を呈し、PHが低く酸度が大であり、酸の生成が多かった。添加しないものはまた一般にカロチン、粗蛋白質、純蛋白質の保持率が低かった。
原料草の生育段階の影響については余り明らかでないが生育の進んだ状態、したがって一般に比較的低水分の状態においてPHがやや低く、酸度が幾分高くなる傾向が認められ
た。J.W.Bratzlen(1955)等が米国におけるSMS添加草サイレージについて調査した結果によればPHの平均は4.49±0.26とされており、今次試験と比較してかなり低いPH値を示してい
る。また同調査における試料の平均水分はほぼ71%内外でこれもまた今次試験に示された水分よりも著しく低い。
この結果より判断してSMS添加草サイレージの場合少なくともある範囲においては原料草の低水分はPHの低下を招くものと考えられる。PH酸生成などに関する荳科草、禾本科草間
の差異については一般に荳科草の方が幾分酸生成が大であるなどの報告もあるが今回は例数も少なく、かかる傾向は認められなかった。
SMS残存量は搾汁10cc中ほぼ7~13mgであったがこれは新鮮物中甘酸1kg中0.6~1g前後の量となりこれは全添加量の約17~28%にあたる。
6. SMS添加草サイレージの品質に対する原料草加水または予乾の影響(試-4)
(1) 目的
添加剤としてのSMSの特質、北海道ないしわが国の気候的環境条件などから比較的無水分原料を対象として使用する場合が多いと考えられるが実際上はかなり水分にひらきのあ
る原料を対象とすることも少なくないと思われる。また降雨などにより原料草が外部的に水分を増加する場合、あるいは何らかの理由で原料草を刈取り放置する場合なども考えられ
る。本剤の有効性は水分の存在に左右されるところ大とされているのでこれらの影響を推知するためにこの試験を行った。
(2) 方法
供試薬剤…SMS国産品
供試原料草…第13表に示すものを用いた。
第13表 供試原料草
試料記号 | 産地 | 草種 | 生育段階 | 刈取期日 |
M-118 | 当畜産部5号地 | 赤クロバー 2番草 | 晩花期 | 1958.9.2 |
M-127 | 〃 4号地 | オーチャードグラス、チモシー(混播)3番草 | 1958.9.2 |
処理並びに方法 : 埋草は1/2万反ワグナーのポットを用い、いままでの方法に準じて行った。加水量は充填草量の40%とし、充填しながらポット内に徐々に散布した。予乾処理は赤ク
ロバーについて生草7kgが5kgになるまで乾燥して後充填した。SMS添加量は各充填草量に対し、0.36%、予乾処理においては乾燥後重量に対し0.36%及び充填草量
加入量の合計量に対し、0.36%の各処理を行った。(第14表参照)
(3) 試料採取並びに調査分析
35日後、いままでの方法に準じて調査分析を行った。
(4) 結果
第14表、第15表、第16表に示すとおりである。
第14表 処理概要及びサイレージの外観
原料区分 | 試料記号 | 充填草量 (kg) |
加水予乾 | SMS量g | 色沢 | 香気 | その他 |
M-118 | P-23 | 7 | 25.2 | 緑黄色 | やや快酸臭 | ||
P-24 | 7 | 2.8L | 25.2 | 〃 | 〃 | ||
*P-25 | 5 | 予乾 | 18.0 | やや暗緑黄色 | 同土、やや醗酵酸臭あり | ||
P-26 | 7 | 25.2 | 緑黄色 | 快酸臭 | |||
M-127 | P-32 | 6 | 2.4L | 21.6 | 緑黄色 | やや刺激性快酸臭 | |
P-33 | 6 | 21.6 | 〃 | 〃 | |||
P-34 | 6 | 2.4L | 30.2 | 〃 | 〃 |
第15表 原料草並びにサイレージ分析結果(1)
原料区分 | 試料記号 | 新鮮物 | 搾汁中 SMS mg/10cc |
搾汁10cc中含量中和に要する N/10 NaOHml数 | ||||||
水分(%) | PH | 酸度 | 不揮発酸 | 揮発酸 | V.F.A | 醋酸 | 酪酸 | |||
赤クロバー 1番刈 |
M-118 | 76.32 | ||||||||
P-23 | 77.51 | 5.0 | 11.12 | 12.10 | 7.33 | 4.77 | 1.18 | 1.10 | 0.08 | |
P-24 | 85.21 | 5.4 | 11.79 | 9.79 | 5.87 | 3.92 | 0.86 | 0.79 | 0.07 | |
P-25 | 71.48 | 5.0 | 6.13 | 1308 | 9.65 | 3.43 | 1.04 | 0.96 | 0.08 | |
P-26 | 79.21 | 5.1 | 6.94 | 11.52 | 6.68 | 4.84 | 1.35 | 1.23 | 0.12 | |
オーチャードグラス チモシー 3番草 |
M-127 | 73.13 | ||||||||
P-32 | 82.57 | 5.4 | 8.65 | 8.83 | 5.16 | 3.67 | 1.33 | 1.24 | 0.09 | |
P-33 | 73.82 | 5.2 | 7.30 | 10.27 | 7.42 | 2.85 | 1.14 | 1.00 | 0.14 | |
P-34 | 83.51 | 5.4 | 6.54 | 9.54 | 6.88 | 2.66 | 1.25 | 1.18 | 0.07 |
第16表 原料草並びにサイレージ分析結果(2)
原料区分 | 試料記号 | 充填草量 (kg) |
加水予乾 | SMS 添加量 g |
無水物中 | 無水物中(%) | |||||
カロチン mg/100g |
粗蛋白質 | 純蛋白質 | 粗繊維 | 粗脂肪 | 粗灰分 | N.F.E | |||||
赤クロバー 1番刈 |
M-118 | (原料) | 18.5 | 15.76 | 14.22 | 31.11 | 3.09 | 9.76 | 40.28 | ||
P-23 | 7 | 25.2 | 12.5 | 14.87 | 12.45 | 29.07 | 4.43 | 10.43 | 41.20 | ||
P-24 | 7 | 2.8L | 25.2 | 11.0 | 14.26 | 12.87 | 28.25 | 3.33 | 10.48 | 43.68 | |
P-25 | 5 | 18.0 | 8.7 | 14.58 | 12.30 | 27.45 | 3.21 | 10.72 | 44.04 | ||
P-26 | 7 | 25.2 | 10.2 | 14.07 | 11.12 | 28.52 | 3.80 | 11.53 | 42.08 | ||
赤クロバー 1番刈 |
M-127 | (原料) | 36.4 | 14.28 | 12.07 | 28.81 | 4.37 | 8.09 | 44.45 | ||
P-32 | 6 | 2.4L | 21.6 | 20.7 | 12.84 | 10.68 | 28.37 | 3.09 | 8.46 | 47.24 | |
P-33 | 6 | 21.6 | 15.5 | 13.74 | 10.77 | 26.99 | 3.20 | 9.24 | 46.83 | ||
P-34 | 6 | 2.4L | 30.2 | 24.9 | 12.12 | 10.77 | 29.77 | 3.40 | 8.83 | 45.68 |
(5) 考察
肉眼的観察の結果は予乾した赤クロバー試料P-25が他の物に比べ幾分暗色を呈し、且つ特有の快酸臭をやや感じて醗酵性酸臭を呈ずる事を認めた以外、各処理とも大差なかっ
た。P-25は乾燥後の重量を基準として0.36%のSMSを添加したので他のものに比べ添加の絶対量がすくないこと固形分単位当り、添加量の少ない事、乾燥により充填時の気密性保持
が幾分不良となったこと、水分含量の減少等がこのような状態を招いたものと考えられる。
分析結果は当然の事であるがP-25は水分、残存SMS量が最も少なく、PHも最低で酸の生成量は最高であった。逆に加水試料P-24、P-32、P-34はいずれもPH5.4で他の試料よりも高
い傾向を示した。これ等はいずれも水分82%以上である。搾汁中にあるSMS残存量は添加量の少ないP-25は別として、赤クロバーはオーチャードグラス、チモシー混播率より幾分高い
傾向を示していた。
本試験の結果から見て要するにある範囲ににおける原料水分の減少はサイレージ埋草時の酸生成を促進するものと考えられる。
7. 流汗損耗の調査(試-5)
(1) 目的
サイレージにおける流出汁液による養分損失は時に10%以上にも及ぶといわれる。殊に本剤等の使用によりいままでのように予乾、低水分栄養源添加等で原料水分の状態を考える
こと、高水分材料をそのまま処理する場合このような損耗は一層増大することが予想される。
今次一連の試験を機として試料採取の際、その流出汁もとり、その粗蛋白含量を調べたのでここに報告する。
(2) 方法
その他、酪
(3) 結果
原料草、や製品の含水量、組成等は流出汁液の量、質に大きく影響するものと考えられる。
製品の固形分、粗蛋白質含有率、流出汁液、粗蛋白質含有率を求めた結果は第17表のとおりである。
第17表 原料及び製品の固形分、粗蛋白質含有率、流汁の粗蛋白質含有率
|
|
(4) 考察
この結果によればM-101、M-102等、高水分原料を使ったサイレージの流汁のN含有量は、他のものに比べて一般に高く、M-118、M-119、M-127等低水分原料サイレージの流汁N
含有量は低い傾向を示している。
M-116は高水分材料を使ったものであるにもかかわらず、流汁N含有量はあまり高くない値を示している。この理由は明らかにし得ないがその中P-13、P-14は処理上埋草期間を他
のものより短く各15日、25日とした試料であり、その他のものについてもサイレージ自体のN含量との比較において見れば決して低い値でない。
M-118使用サイレージの中P-24のみが流汁N含量が他のものの倍近い2.11%の値を与えているがこれは40%加水をしたものであり、その影響と考えられる。M-127使用サイレージに
おいてP-32、P-34が同様40%加水を行ったにもかかわらず流汁N含量がいぜんとして著しく低い事については、原料水分が著しく低く、そのため40%加水してもなか総体の水分比率
において80%にも達しなかった事が一つの原因と考えられる。又高水分原料の流汁N含有量は単に絶対量において高いのみでなく、その母体サイレージのN含有量との比較においても
低水分の場合に比べ、一般に高い事が認められる。
この事については、水分含量の高い状態にある草は一般に低水分の場合に比べ、含有する蛋白質の量、質その他の成分組成、体構造等においてNの流出を招きやすい状態にある
事がその原因の一つではないかと考えられる。
8. 各種類似薬品の添加効果の比較
(1) 目的
SMSを主原料とする配合製剤およびSMSとほとんど同様の機構で作用すると考えられる。次亜硫酸ソーダ、粒状SMSにつき草サイレージ添加剤としての効力を比較するためこの試
験を行った。
(2) 方法
供試薬剤…①SMS 80%、亜硫酸ソーダ20%の製剤(以下SWと記す)
②SMS 99%、塩化カルシウム1%の製剤(以下SRと記す)
③次亜硫酸ソーダ(以下SGと記す)
④粒状SMS
⑤SMS(粉末)
供試原料草…次の表に示したものを用いた。
第18表 供試原料草摘要
試料記号 | 供試原料草摘要 |
M-101 | 当部養蜂圃場産赤クロバー 1番草開花初期のもの6月16日刈 |
M-102 | 〃 1番草開花中期のもの6月27日刈 |
M-116 | 〃 2番草開花中期のもの8月20日刈 |
M-118 | 当部5号圃場産赤クロバー 2番草晩花期のもの 9月2日刈 |
処理…次に表示したとおりである。いずれも1/2万反ワグナーポットを用いた。いままでの方法にしたがい充填埋草した。なおポット当り原料草充填量はP-31のみ7kg、他は全部8kg
である。
第19表 処理方法
M-101 | P-1 | SMS | 0.36 | 35日 |
P-2 | SR | 〃 | 〃 | |
P-3 | SW | 〃 | 〃 | |
P-4 | SMS | 〃 | 〃 | |
P-5 | ナシ | 〃 | ||
M-102 | P-6 | ナシ | 35日 | |
P-7 | SMS | 0.36 | 〃 | |
P-8 | SMS | 0.72 | 〃 | |
P-9 | SW | 0.36 | 〃 | |
P-10 | SR | 〃 | 〃 | |
M-103 | P-16 | SMS | 0.36 | 70日 |
P-19 | SR | 〃 | 〃 | |
P-20 | SW | 〃 | 〃 | |
P-21 | SG | 〃 | 〃 | |
P-22 | SMS | 0.72 | 〃 | |
M-118 | P-31 | 粒状SMS | 0.36 | 35日 |
(3) 試料採取および調査、分析
前記各試料につき所定期間後、いままでの方法により、試料を採取し、色沢、香気、などについて肉眼的観察を行い、次に記す分析を行った。
(4) 結果
次のとおりである。
第20表 試験サイレージの外観
原料草 | 試料記号 | 処理 | 摘要(%) | 色沢 | 香気 |
M-101 | P-1 | SMS | 0.36 | 緑黄色 | やや刺激性快酸臭 |
P-2 | SR | 〃 | 〃 | 〃 | |
P-3 | SW | 〃 | 〃 | 〃 | |
P-4 | SMS | 〃 | 〃 | ||
P-5 | - | 緑褐色 | 醗酵快酸臭 | ||
M-102 | P-6 | - | 緑褐色 | 醗酵快酸臭 | |
P-7 | SMS | 0.36 | 緑黄色 | やや刺激性快酸臭 | |
P-8 | SMS | 0.72 | 鮮緑黄色 | 〃 | |
P-9 | SW | 0.36 | 緑黄色 | 〃 | |
P-10 | SR | 〃 | 〃 | 〃 | |
M-103 | P-16 | SMS | 0.36 | 暗緑黄色 | 特有の快酸臭 |
P-19 | SR | 〃 | 〃 | やや減じて幾分発酵性の酸臭を呈す | |
P-20 | SW | 〃 | 〃 | ||
P-21 | SG | 〃 | 〃 | ||
P-22 | SMS | 0.72 | 〃 | ||
M-118 | P-31 | 粒状SMS | 0.36 |
第21表 成分分析表(1)
試料記号 | 処理摘要 | 新鮮物 | 搾汁10cc中 SMS mg |
搾汁10cc中含量中和に要するN/10 NaOHml数 | ||||||
水分(%) | PH | 酸度 | 不揮発酸 | 揮発酸 | V.F.A | 醋酸 | 酪酸 | |||
M-101 | (原料) | 85.50 | ||||||||
P-1 | SMS 0.36% | 87.31 | 5.5 | 10.53 | 8.68 | 5.13 | 3.55 | 1.21 | 1.11 | 0.10 |
P-2 | SR 〃 | 87.81 | 5.4 | 11.39 | 9.50 | 6.47 | 3.05 | 1.11 | 1.03 | 0.08 |
P-3 | SW 〃 | 88.43 | 5.4 | 12.93 | 9.25 | 5.35 | 3.90 | 0.87 | 0.81 | 0.06 |
P-4 | SMS 〃 | 86.49 | 5.4 | 12.84 | 9.85 | 5.47 | 4.38 | 1.22 | 1.13 | 0.09 |
P-5 | - | 87.70 | 4.7 | - | 18.37 | 14.25 | 4.12 | 3.46 | 3.13 | 0.33 |
M-102 | (原料) | 82.49 | ||||||||
P-6 | - | 85.03 | 4.6 | - | 17.00 | 14.58 | 2.42 | 2.24 | 2.05 | 0.19 |
P-7 | SMS 0.36% | 82.41 | 5.5 | 12.24 | 8.40 | 4.35 | 4.05 | 0.98 | 0.89 | 0.09 |
P-8 | SMS 0.72 | 84.33 | 5.6 | 26.55 | 7.42 | 3.06 | 4.36 | 0.51 | 0.48 | 0.03 |
P-9 | SW 0.36 | 83.76 | 5.5 | 5.21 | 10.0 | 7.14 | 2.86 | 0.88 | 0.81 | 0.07 |
P-10 | SR 〃 | 85.02 | 5.4 | 15.82 | 11.73 | 8.03 | 3.70 | 0.91 | 0.83 | 0.08 |
M-116 | (原料) | 84.07 | ||||||||
P-16 | SMS 0.36% | 86.85 | 5.3 | 7.51 | 11.20 | 5.97 | 5.23 | 1.46 | 1.33 | 0.13 |
P-19 | SR 〃 | 88.54 | 5.2 | 11.55 | 13.62 | 8.51 | 5.11 | 1.32 | 1.26 | 0.06 |
P-20 | SW 〃 | 88.46 | 5.0 | 8.01 | 14.61 | 12.58 | 2.03 | 1.09 | 0.92 | 0.17 |
P-21 | SG 〃 | 89.84 | 5.3 | 11.15 | 12.18 | 7.46 | 4.72 | 1.35 | 1.27 | 0.08 |
P-22 | SMS 0.72 | 88.45 | 5.6 | 24.48 | 6.89 | 2.69 | 4.20 | 0.47 | 0.45 | 0.02 |
M-118 | (原料) | 76.32 | ||||||||
P-31 | 粒状SMS0.36 | 78.92 | 5.4 | 10.79 | 12.05 | 8.52 | 3.53 | 0.84 | 0.80 | 0.04 |
第22表 成分分析表(2)
試料記号 | 処理摘要 | 無水物中 | 無水物中(%) | |||||
カロチン mg/100g |
粗蛋白質 | 純蛋白質 | 粗繊維 | 粗脂肪 | 粗灰分 | N.F.E | ||
M-101 | 24.3 | 20.43 | 17.42 | 27.73 | 2.89 | 9.12 | 37.83 | |
P-1 | SMS 0.36% | 16.2 | 18.67 | 15.35 | 29.53 | 3.48 | 10.73 | 37.59 |
P-2 | SR 〃 | 18.1 | 18.85 | 14.79 | 28.71 | 3.17 | 11.76 | 37.51 |
P-3 | SW 〃 | 17.5 | 18.03 | 15.32 | 26.04 | 5.01 | 10.99 | 39.93 |
P-4 | SMS 〃 | 17.8 | 19.01 | 15.27 | 27.82 | 4.01 | 11.15 | 38.01 |
P-5 | - | 13.4 | 16.63 | 12.51 | 28.49 | 3.53 | 11.86 | 39.49 |
M-102 | 26.5 | 17.85 | 16.05 | 28.44 | 3.14 | 8.75 | 41.82 | |
P-6 | - | 14.1 | 15.22 | 11.28 | 30.17 | 4.32 | 10.47 | 39.82 |
P-7 | SMS 0.36% | 17.9 | 15.57 | 13.07 | 27.46 | 4.07 | 11.52 | 41.38 |
P-8 | SMS 0.72 | 21.3 | 16.99 | 14.38 | 26.84 | 3.83 | 9.76 | 42.58 |
P-9 | SW 0.36 | 18.1 | 15.67 | 13.92 | 28.89 | 4.10 | 10.84 | 40.50 |
P-10 | SR 〃 | 17.0 | 15.36 | 13.82 | 28.75 | 4.22 | 10.73 | 40.94 |
M-116 | 23.0 | 17.36 | 15.33 | 28.65 | 3.47 | 9.33 | 41.19 | |
P-16 | SMS 0.36% | 15.8 | 16.09 | 12.61 | 26.70 | 4.42 | 11.94 | 40.85 |
P-19 | SR 〃 | 18.2 | 15.69 | 13.10 | 29.11 | 4.72 | 11.81 | 38.67 |
P-20 | SW 〃 | 17.2 | 15.48 | 12.20 | 28.30 | 4.70 | 11.93 | 39.59 |
P-21 | SG 〃 | 17.5 | 16.07 | 12.42 | 28.62 | 4.36 | 10.49 | 40.46 |
P-22 | SMS 0.72 | 19.0 | 16.67 | 14.13 | 26.59 | 4.09 | 10.42 | 42.23 |
M-118 | 18.5 | 15.76 | 14.22 | 31.11 | 3.09 | 9.76 | 40.28 | |
P-31 | 粒状SMS0.36 | 3.8 | 14.44 | 12.06 | 32.55 | 3.74 | 9.71 | 39.56 |
(5) 考察
外観的所見については香気、色沢等添加剤の種類による差はほとんど認められなかった。無添加サイレージは2例とも緑度香気ともに他のものに比べ劣っていた。
SMSの倍量使用は外観的にはあまり差を示さなかった。埋草期間70日のものは35日のものに比べ、色調も暗褐化し、香気においてもやや醗酵性の酸臭を加えていた。
PHは添加しないものは4.6、4.7と低い値を示し、SMS倍量は5.6やや高く、その他はほぼ5.3~5.5の値を示し、酸度もほぼこれに対応する数値を与えている。添加量による差は認め
れるが種類の差は同様認められない。
SMS残存量は、埋草期間が長くなるとわずかに減少の傾向を与えたがP-9(SW、35日)P-10(SR35日)は他のものに比し著しく少ない値を示し、またSMS倍量区は残存量もまた倍前後
の値を示した。
カロチン保持量は無添加区が低く、SMS倍量区は常量区より幾分高い値を示したが粒状SMSを使用したP-3では異常に低い値が示された。この理由は不明である。
純蛋白質含硫率についてSMS倍量区は幾分高く、無添加区は低い値を示した。同様の傾向は粗蛋白質含有率についても認められるが前者におけるほど明らかではない。
以上要するに今回用いた、各添加剤の効果について添加量の多少による差は認められたが種類如何による差はこれを認めなかった。
9. 要約
(1) SMSの添加はサイレージの緑度ほど、香気の良好化に有効である。
(2) SMSの添加は埋草過程における酸生成、PH低下を溶成する。
(3) SMSの添加は殊にカロチン、純蛋白質の保持率を向上する。
(4) SMSの添加効果は貯蔵期間の長くなるにつれて緩徐ではあるが漸減する。
色沢の暗緑色化、快酸臭の減少、醗酵性酸臭の発生等が35日と7日の試料間の差として認められた。埋草期間の延長にともなってPH低下、酸度の増大蛋白質含有率の低下等の
低傾向がわずかではあるが認められた。
(5) 刈取時期の影響については草の生育段階の進行にともなう、水分減の影響以外余り明らかでなかった。
(6) 生育段階の差、予乾、加水等による、水分含量の多少の影響については、高水分の場合に比べ、低水分原料を用いた場合は一般に幾分PHが低くなる傾向をみとめた。一般にあ
る範囲において、水分の増加に醗酵を抑制し、減少は、これを促進するように考えられる。予乾はまたカロチン保持率をかなり、低下させた。
(7) SMSの残存量は、添加量の増減にともなって増減する。0.36%添加の場合の残存量は新鮮物1kg当り、ほぼ0.6~1g前後で添加量の17~28%に当る。
(8) サイレージ流出汁液のN含有量について高水分原料サイレージの流出汁N含有量は低水分原料サイレージのそれに比べ、絶対量においてかなり高いのみでなく、母体サイレージの
N含有量との比率においてもまた高い値を示した。
(9) 次亜硫酸ソーダ、及びSMSを主としてこれにNa2SO3、あるいはCaCl2を加えた配合製剤、粒状SMS等はいずれもSMSと大差ない添加効果を示した。