【指導奨励すべき事項】
火山灰経年畑における燐酸の多用に伴う加里欠乏症の発現とその対策について
北海道立農業試験場根室支場

火山灰地においては燐酸の多用は常識となっているが、長年耕作した経年畑では燐酸施用によって土壌中に燐酸が蓄積されるため、新墾地に比し作物の生育は促進される。このことは根釧地方のような気象条件下では燕麦、大麦などには好ましいことであるが馬鈴薯や牧草では枯凋が早まる結果却て減収を来すことがあり、特に永年牧草地へ多量の燐酸を追肥した場合や草地跡地の馬鈴薯に燐酸を多施した場合に屡々みられるこの現象の原因を明かにするため試験調査を行なった結果加里欠乏症であることが判った。而して加里欠乏を来す原因として考えられることは、(1) 経年畑は燐酸が蓄積されている半面加里含有量が少くなっていること。(2) 燐酸の多用が作物の生育を促進し、そのため作物体内の加里含量が低下することもあること(後記第2表及第4表の成績)、(3) アルミナ(ばん土)の多い土壌では燐酸と多施するとある種の燐酸化合が形成され、この化合物は加里を吸着固定する性質があるが、根釧地方のばん土質火山灰土ではこのような作用が起っていると推定されること(後記第5表の成績)、(4) 上記の(3)の事項を考えれば固定されないでなお残存している有効態加里の量程度では燐酸多用によって生育が促進されている作物の加里要求に対しては間に合わなくなることが推定されること、などがあげられる。
 以上のことから、ばん土性火山灰地帯では(1) 管理不十分で有効態加里含量の少くなった経年畑を牧草地として数年を経過した牧草畑または永年草地、(2) 同じく経年畑に造成され相当年数を得た草地跡に栽培される根菜類に対しては燐酸を多施する場合は必らず加里も増施すべきである。したがって上記のような場合には地帯別施肥標準(昭和36年改訂)の燐酸と加里の比率よりも加里の比率をやや高めた施肥を行なうがよい。
 試験成績
 馬鈴薯栽培圃は18年間牧草畑であった所、耕起の深さ10㎝、牧草試験地は播種後5年目。
 第1表 燐酸、加里の施用量と馬鈴薯収量(10a当㎏)
K施用量
\P施用量
0㎏ 3㎏ 6㎏ 9㎏ 15㎏
0㎏ 465 508 610 605 560
3㎏ 769 1,592 1,703 1,670 1,764
5㎏ 992 1,992 2,099 2,270 2,244
 備考 施用量は要素10a当、共通肥量5㎏

 第2表 馬鈴薯の時期別養分含有量(%)
 (8月11日の茎葉のみを摘記した)
P施用量
\K施用量
\含有要素
加里3㎏施用 加里5㎏施用
りん酸 加里 石灰 りん酸 加里 石灰
0㎏ 0.59 3.92 1.74 0.47 5.62 1.50
3㎏ 0.57 1.74 2.28 0.54 2.20 2.00
6㎏ 0.55 0.42 3.92 0.46 0.98 2.68
9㎏ 0.60 0.24 3.60 0.52 0.56 3.22
15㎏ 0.58 0.20 2.90 0.57 0.42 2.46

 第3表 燐酸、加里の施用量と牧草収量(乾草10a当㎏)
P施用量
\K施用量
ラデノクローバー チモシー
0㎏ 1 3 5 0 1 3 5
0 7 12 70 92 310 317 474 419
3 14 12 60 88 317 329 423 439
6 13 8 21 83 286 293 426 408
9 12 8 28 81 237 243 449 438
15 3 6 16 84 224 221 434 402
 備考 施用量は要素10a当
  共通肥料 N チモシー5㎏、クローバー2㎏

 第4表 チモシーの時期別養分含有量(%)
 (7月25日のものの摘記した)
P施用量
\K施用量
\含有要素
加里1㎏施用 加里5㎏施用
りん酸 加里 石灰 りん酸 加里 石灰
0㎏ 0.58 0.58 0.30 0.68 1.06 0.44
3㎏ 0.55 0.50 0.32 0.70 0.90 0.40
6㎏ 0.60 0.38 0.33 0.67 0.94 0.46
9㎏ 0.59 0.40 0.32 0.70 0.90 0.40
15㎏ 0.63 0.30 0.33 0.69 0.80 0.38
 備考 施用量は要素10a当

 第5表 燐酸添加量を異にした土壌に加えた加里の水溶性及び置換性加里としての残存量
P添加量
\K添加量
0㎎ 5㎎ 15㎎ 0㎎ 5㎎ 15㎎
0㎎ 4.0 5.2(2.1) 9.7(3.0) 4.1 5.9(1.2) 12.7(2.2)
100㎎ 2.7 3.7(1.2) 6.3(2.0) 3.7 6.4(0.3) 7.0(2.0)
1,000㎎ 1.0 2.1 2.7 1.2 2.1 4.5
  馬鈴薯畑 チモシー畑
 備考 添加量は土壌100gにつき㎎で示す。
  ( )内は水溶性加量、他は置換性加里の量を示す。
  この試験は室内実験であって、あらかじめ土に、りん酸を加えてある期間を経た後加里を添加したものである。