【指導奨励事項】
上川北部傾斜地における深耕に関する試験成績
北海道立農業試験場上川支場畑作課

 上川北部の傾斜地は一般に地力低くまた土壌浸蝕を受け低収地帯となっている。本地方の土壌は埴土系のものもあり、砂礫を含み壌土系のものもあるが、この試験は埴土系の埴壌土の傾斜地を対象として深耕が土壌浸蝕および作物の生育収量に及ぼす影響を知る目的で昭和36、37年の2ヶ年間、傾斜度17°~20の畑作課用地内において燕麦、大豆、甜菜を栽培して実施したものである。
 本試験成績によれば、深耕によって下層土の孔隙量が多くなり透水性が良好となる結果、降雨時の地表流去水量は減少し、したがって土壌流亡もほとんどみられず(これは試験区の斜面距離が短いためと考えられるが)、一面6~7月の寡両時においては普通耕区に比し下層まで水分含有量が多く保水性が大となったことが示されたが、このことは例年春期過乾となる本地帯においては作物生育に好ましい条件と考えられる。各作物とも深耕により生育は旺盛となり増収した。
 36年度は普通耕区、深耕区とも施肥量は同じであるが、37年度は深耕区は増肥したので施肥条件の差があることから、2ヶ年平均の増収割合をみることは困難であるが、燕麦では2ヶ年とも10%余りの増収であり、大豆は36年度は13~18%、37年度は5~10%の増収となったが、37年度は多肥による成熟遅延が認められた。
 甜菜は36年度は約50%と顕著な増収を示し、37年度においては普通耕区が欠株のためいちじるしく低収となったので、増収割合は正しく示し得ないが、深耕区の収量は36年度に匹敵しており、いちじるしい効果のあったことを示している。
 以上のことから上川北部の埴土系傾斜地における生産力増強のため深耕を奨励すべきである、ただ注意すべき点として本試験地は酸性矯正済の圃場であったこと、苦土欠乏対策として、苦土過燐酸または硫酸苦土を施用していること、37年度の施肥量5割増は必ずしも収量増となっていないことである。ゆえに実際に当ってはあらかじめ作土、心土の酸性を調査し少くとも深耕実施後の作土相当部分の深さの土壌の酸性矯正を行い、あわせて苦土を施用すること(10a当り苦土要素として4~6㎏)が必要である、なお施肥量については瘠薄な心土が作土に混ずることから考えてやや多目に(特に燐酸)施す方がよいと考えられる。
Ⅰ 試験方法
 1. 試験区の設置方法
 NE20°の傾斜面に2m×10mの木枠を設置した。
 2. 試験区別
  イ 普通耕区(10㎝の深さに耕鋤)
  ロ 深耕区(30㎝の深さに耕鋤)
  ハ 心土耕区(30㎝の深さに耕鋤しさらにその下を10㎝耕鋤)
 深耕は傾斜地用自動耕耘機に大型プラウを取着けて行った。
 3. 施肥量(10a当)
 (昭和36年度)
燕麦(北洋) 硫安20㎏ 苦土過石45㎏ 硫加10㎏ 各区等量
大豆(北見白) 硫安15㎏ 苦土過石45㎏ 硫加10㎏
甜菜(導入2号) 硫安30㎏ 智硝30㎏ 苦土過石45㎏
魚粕40㎏ 硫加15㎏

 (昭和37年度)
燕麦 硫安20㎏ 過石45㎏ 硫加10㎏ 深耕心土耕区は5割増施
大豆 硫安15㎏ 過石45㎏ 硫加10㎏
甜菜 硫安30㎏ 智硝30㎏ 過石45㎏ 硫加15㎏
堆肥2,000㎏ 苦土成分量で4㎏(硫酸苦土にて施用)

Ⅱ 試験成績
 1. 流去土水量調査
  (昭和36年度)
月別 月別
降水量
(粍)
てん菜(NE20°) えん麦(NE17°) 大豆(NE17°) 備考
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
6月 11.0 8.1 8.1 4.5 38.2 20.0 5.5 5.5 20.0 5.2 土の流亡はみられなかった。
7月 125.5 15.7 15.0 6.5 13.8 3.7 7.3 41.9 19.6 21.6
8月 44.3 36.1 8.6 16.9 45.4 33.4 17.8 28.2 47.9 31.8
9月 136.3 17.0 9.0 1.0 23.8 11.2 8.6 22.5 21.9 15.6
合計 317.1 18.9 11.3 5.5 23.3 11.6 7.2 30.4 24.6 21.5

  (昭和37年度)
月別 月別
降水量
(粍)
えん麦NE20° 大豆NE17° てん菜NE17° 備考
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
普通耕
(%)
深耕
(%)
心土耕
(%)
5月 57.0 0.4 0.1 0.1 0.6 0.3 0.2 0.4 0.2 0.3 大豆の普通耕区は8月に10a当26,325㎏の流土がみられたがその他はなかった。
6月 87.2 0.8 0.4 0.2 1.9 0.8 1.4 1.9 1.7 1.3
7月 189.0 0.6 0.2 0.2 2.7 0.6 1.0 2.0 0.6 1.1
8月 283.4 1.8 1.2 0.8 3.0 1.8 1.6 4.3 2.0 1.6
9月 164.7 4.5 2.6 2.4 2.2 0.9 0.8 2.0 0.7 1.1
10月 157.1 5.5 2.0 3.1 4.3 1.1 1.1 3.6 1.5 1.8
合計 938.4 2.4 1.2 1.2 2.8 1.1 1.1 2.9 1.3 1.3

 2. 土壌三相調査成績
試験区別
\調査項目
(昭和36年7月23日における燕麦圃場) (昭和37年 月 日大豆圃場)
空気容積 固相容積 水分容積 孔隙率 空気容積 固相容積 水分容積 孔隙率
普通耕 0~10 41.2 37.9 20.9 62.1 23.0 47.4 29.6 52.6
11~20 27.7 47.6 24.7 52.4 13.0 51.0 36.0 49.0
心土耕 0~10 45.0 31.9 23.1 68.9 26.0 41.0 33.6 59.0
11~20 37.8 33.9 28.3 66.1 27.1 33.2 39.7 66.8
深耕 0~10 45.0 34.2 20.8 65.8 31.0 35.2 33.8 64.8
11~20 32.1 36.4 31.5 63.6 26.0 38.0 36.0 62.0

 3. 土壌水分調査表(昭和36年)
調査月日 調査時
の天候
普通耕区 深耕区
6㎝ 12㎝ 18㎝ 24㎝ 6㎝ 12㎝ 18㎝ 24㎝
6月2日 くもり 34.8 35.4 35.2 34.6 41.8 39.4 38.8 38.8
6月5日 35.2 35.0 35.4 34.4 41.2 40.0 39.4 39.4
6月20日 35.8 35.0 34.6 34.6 39.6 39.8 37.8 40.2
6月25日 35.4 34.6 34.4 34.8 38.4 39.2 39.6 40.4
7月5日 くもり 36.0 35.2 34.6 34.6 41.2 39.8 40.0 40.4
7月16日 36.6 35.0 34.8 35.2 40.0 39.6 40.0 38.6
7月25日 36.8 31.4 34.2 35.0 40.0 38.8 38.4 40.4
8月5日 35.6 30.4 33.0 35.8 29.8 38.8 37.2 41.0
8月10日 34.0 23.2 25.8 34.8 15.0 39.4 38.2 40.0
8月20日 34.4 30.2 32.4 25.0 29.8 38.6 27.6 34.1
8月30日 くもり 34.4 31.8 33.0 22.0 27.2 38.2 28.6 33.8
9月5日 くもり 32.4 27.6 29.2 37.0 24.2 38.4 29.4 31.0
9月19日 36.0 35.6 34.2 34.8 39.4 39.2 38.6 29.8
9月24日 くもり 36.0 38.8 34.2 34.8 39.8 39.6 39.4 39.6
10月1日 くもり 35.6 33.8 34.0 34.4 39.8 39.4 37.4 38.6

 4. 農期間における降水ならびに蒸発量(㎜)
  5月 6月 7月 8月 9月 合計
上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬
降水量 平均 17.1 28.0 26.9 30.3 16.6 29.3 30.6 38.1 77.4 35.2 82.4 50.1 44.2 46.6 39.2 592.0
S36 19.0 54.5 78.5 12.1 7.1 24.5 48.9 21.5 97.6 4.1 42.9 3.7 99.9 83.8 30.4 628.5
S37 11.0 26.8 17.2 45.7 35.2 6.3 23.5 85.6 79.9 176.4 64.3 42.7 101.1 22.0 41.6 781.3
蒸発量 S36 33.6 25.3 17.2 29.0 26.1 31.1 32.6 31.5 16.7 35.8 25.4 27.3 19.7 13.8 14.3 369.5

 5. 土壌硬度(昭和36年8月10日燕麦収穫直後)
試験区別 普通耕区 深耕区 心土耕区
調査位置 10㎝ 20㎝ 30㎝ 10㎝ 20㎝ 30㎝ 10㎝ 20㎝ 30㎝
硬度 17 21 23 10 10 22 9 10 12
 注 数値の大なる程堅いことを示す

 6. 作物収量調査
  昭和36年
 えん麦
試験区別 10a当収量(㎏) 1L重量
(g)
総重量 茎稈重 子実重量 収量割合
普通耕 595 245 294 100 970
深耕 655 280 322 110 960
心土耕 735 330 324 110 960

 大豆
試験区別 10a当収量(㎏) 1L重量
(g)
千粒重量
(g)
虫食歩合
総重量 茎重 子実重量 収量比 粒数
(%)
重量
(%)
普通耕 350 170 150 100 700 191 33.0 24.5
深耕 375 180 169 113 710 201 30.9 31.1
心土耕 420 190 177 118 705 207 42.3 46.3

 てん菜生育調査
試験区別 発芽 7月15日調査 8月20日調査 収穫期における調査

(月日)
良否
整否
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
根周
(㎝)
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
根周
(㎝)
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
根周
(㎝)
根長
(㎝)
分岐根
普通耕 5.29 稍不良
稍不整
34.0 13.3 8.7 47.7 21.7 21.2 48.8 23.3 24.1 15.5 1.2
深耕 5.28 良整 45.3 13.7 11.1 63.3 20.3 22.7 55.7 21.7 25.3 17.5 1.0
心土耕 5.28 48.2 13.3 11.1 60.8 19.7 22.8 49.7 20.7 25.5 18.4 0.2

 てん菜収量
試験区別 10a当収量(㎏) T/R
(%)
総重量 頸葉重量 菜根重量 収量比 10a当個体数
普通耕 4,545 2,250 2,295 100 6,700 98.6
深耕 5,490 2,070 3,420 149 7,050 60.5
心土耕 5,170 1,870 3,300 144 7,070 56.7

  昭和37年
 えん麦
試験区別 10a当収量(㎏) 1L重量
(g)
千粒重量
(g)
総重量 茎稈重 子実重量 収量比
普通耕 585 290 287 100 415 27.9
深耕 700 335 319 111 370 28.9
心土耕 760 365 322 112 390 28.7

 大豆
試験区別 10a当収量(㎏) 1L重量
(g)
千粒重量
(g)
虫食粒数
総重量 茎重 子実重量 収量比
普通耕 460 220 206 100 613 212 34.8
深耕 570 270 225 109 713 214 23.0
心土耕 510 240 217 105 724 210 23.2

 てん菜生育調査
試験区別 発芽 7月2日調査 収穫時における調査

(月日)
良否
整否
草丈
(㎝)
葉数
(枚)
草丈
(㎝)
生葉数
(枚)
枯葉数
(枚)
根周
(㎝)
根長
(㎝)
分岐根
(本)
普通耕 5.27 稍不良
不整
14.4 7.4 35.7 24 11 20.3 10.9 4.3
深耕 5.20 良整 22.6 8.6 63.3 29 4 24.7 20.3 2.1
心土耕 5.20 26.3 11.4 58.0 27 3 25.3 21.4 1.9

 てん菜収量
試験区別 10a当収量(㎏) T/R
(%)
根中糖分
(%)
総重量 頸葉重 菜根重 収量比 個数
普通耕 1,519 750 769 100 6,700 97.5 19.52
深耕 6,479 3,655 2,824 367 8,000 129.4 18.58
心土耕 7,493 4,284 3,209 417 7,750 133.5 17.89