【指導奨励事項】
とうもろこし煤紋病防除試験成績
病虫部、種芸部

Ⅰ 防除方針
 昭和35年度以降3ヵ年間実施した試験結果からみて、煤紋病の防除剤としてマンネブ剤が有効なものと認められた。
 (1) 防除薬剤
  マンネブ剤(マンネブダイセン、ダイセンM)manganese ethylene bis dithiocarbamate 70%(水和剤)
 (2) 散布濃度
  500~600倍液 100~120L/10a
 (3) 防除時期
  7月中旬~8月上旬 3回
  特に雄穂抽出始および絹糸抽出期が重要
Ⅱ 試験成績
 1. 昭和35年度結果
  (1) 胞子発芽阻止効果試験(室内試験)
   a 調査成績
供試薬剤 有効成分 濃度 供試
胞子数
発芽
胞子数
発芽率
(%)
同比率
(%)
銅剤 塩基性硫酸銅(Cu48%) ×300 393.6 137.0 39.95 43.16
塩基性塩化銅(Cu44%) ×300 1308.7 242.0 34.18 39.54
有機水銀剤 DMF(Hg4.0%) ×2000 464.5 37.25 7.32 9.73
PS(Hg2.5%) 461.0 28.75 6.54 8.49
有機硫黄剤 マンネブ(70%) ×500 450.0 16.50 1.42 2.12
ジネブ(65%) 437.5 8.0 1.52 1.64
有機砒素剤 TMTD40%、ジラム20%、
ウルバヂット20%
×2000 491.5 19.0 4.38 5.51
メチル・アルシン・サルハイド5% 523.5 108.2 17.19 19.70
無処理 - - 557.0 429.5 82.43 100.00
 註
  1. 実験方法 スライドグラスによる胞子発芽阻止法
  2. 実験回数 4回実施

   b 考察
 分生胞子の発芽抑制効果の最も強いのは有機硫黄剤であって、有機水銀剤はこれに次ぎ、銅剤が最も劣っている
 有機砒素剤のうち、ひとつが効果を示しているが、これは有機硫黄剤が混入しているためと考えられる。
  (2) 接種試験(ベツト試験)
   a) 調査成績(被害度)
薬剤散布期 接種48時間前散布 接種48時間後散布
接種時期 平均草丈 38.6㎝ 平均草丈 76.0㎝ 平均草丈 38.6㎝ 平均草丈 76.0㎝
薬剤の種類
\調査部位
1~5
6葉
以上
全葉
平均
1~5
6葉
以上
全葉
平均
1~5
6葉
以上
全葉
平均
1~5
6葉
以上
全葉
平均
有機砒素剤 2.18 0.83 1.58 0.95 0.59 0.82 2.30 0.86 1.64 1.41 0.68 1.04
有機水銀剤 1.67 0.69 1.22 0.97 0.54 0.76 2.32 1.15 1.79 0.85 0.54 0.71
マンネブ剤 0.61 0.60 0.59 0.19 0.49 0.35 1.10 0.62 0.86 0.58 0.45 0.53
無防除 2.14 0.83 1.53 1.59 0.72 1.16 2.14 0.83 1.53 1.59 0.72 1.16
 註
  1) 供試品種 W-49×WH
  2) 接種方法 とうもろこし煎汁寒天に30℃で3~4週間培養したものを全面噴霧接種(7月11日~21日接種)
  3) 供試薬剤濃度
有機砒素剤 TMTD 2/10,000
ジラム 1/10,000
ウルバジツト 1/10,000
有機水銀剤 Hg 1.25/100,000
マンネブ マンネブ 1.4/1,000
  4) 被害度は次の基準による(8月19日~20日)
 0;健全葉、0.5;細少の病斑が若干あるもの
 1.0;葉面積の1/4未満が病斑、2.0;葉面積の2/4未満が病斑、
 3.0;葉面積の3/4未満が病斑、4.0;全葉が病斑で覆われるもの、または病斑多数で枯死寸前のもの。
   b) 考察
 供試薬剤中、最も効果顕著なものはマンネブ剤であって、処理後、平均草丈38.6㎝接種区では40日、平均草丈76㎝接種区では30日を経過した調査時においても顕著な差を示している。
 なお、有機砒素剤は葉害が強く、とうもろこしに対しては使用困難である。
  (3) 防除試験(栗山町)
 試験の規模;圃場試験
 供試品種;W-49×WH
 1区面積および区制;1区36㎡ 4区3反覆
 耕種の概要;農家慣行法による
  播種期 5月15日
  栽植密度 75㎝×30㎝
  1アール当たり施肥量 硫安1.3㎏、過石3.6㎏、硫加0.9㎏
 供試薬剤及び濃度 
供試薬剤名 有効成分含有量 10a当り
有効成分
投下量
有機比素剤
(2,000倍液)
TMTD 40% 28g
ジラム 20% 14g
ウルバジツト 20% 14g
有機水銀剤
(2,000倍液)
パラトルエンスルフオンアニリンフエニール水銀  
エチル燐酸水銀  
エチル尿素水銀  
化合水銀合計 5% 3.5g
金属水銀合計 2.5% 1.75g
マンネブ剤
(500倍)
マンガニース・エチレン・ビス・ジチオカーバメート 70% 196.0g

 防除時期 第1回7月18日、第2回7月26日、第3回8月4日
   a) 調査成績
供試薬剤名
及び供試濃度
区別 7月26日 8月4日調査
病葉率
(%)
程度別病葉率(%) 平均
病葉率
(%)
被害度
0 1 2 3 4
有機砒素剤
2,000倍液
A 0.9 84.6 14.4 0.3 0.1 0.6 15.4 3.54
B 0.4 87.0 12.3 0.4 0 0.3 13.0 2.86
C 0.8 72.8 24.3 1.2 0 1.7 27.2 6.70
平均 0.7 81.5 17.0 0.63 0.03 0.87 18.5 4.37
有機水銀剤
PS剤
2,000倍液
A 0.8 82.2 14.9 1.7 0.7 0.5 17.8 4.48
B 1.8 72.8 24.6 1.2 0.2 1.2 27.2 6.48
C 2.3 60.9 34.8 2.2 1.0 1.1 39.1 9.32
平均 1.7 72.0 24.8 1.7 0.63 0.93 28.0 6.76
マンネブ剤
500倍液
A 0.4 96.2 3.5 0.1 0 0.2 3.8 0.9
B 0.4 98.4 1.0 0.4 0 0.2 1.6 0.52
C 0.4 96.8 2.8 0.1 0 0.3 3.2 0.84
平均 0.4 97.1 2.4 0.2 0 0.23 2.9 0.75
無防除 A 1.6 60.3 34.6 2.5 1.5 1.1 39.7 9.7
B 1.2 68.3 26.4 1.9 1.3 2.1 31.7 8.5
C 1.8 64.3 25.9 5.2 1.8 2.8 35.7 10.58
平均 1.5 64.3 29.0 3.2 1.54 2.0 35.7 9.49

   b) 考察
 8月4日における調査結果では、マンネブ剤が最もまさっているが、その後アワノメイガの被害が多く、成熟期の調査が不能となった。
 2. 昭和36年度試験結果
  (1) 胞子発芽阻止効果試験(室内試験)
   a) 調査成績 
供試薬剤 有効成分 濃度 供試胞子 発芽胞子 発芽率 同比率
マンネブ剤 マンネブ70% ×600 270.5 12.3 4.55 5.28
ジネブ剤 ジネブ65% ×400 306.5 23.5 7.67 8.90
銅剤 塩基性塩化銅(Cu50%) ×500 549.8 41.0 7.46 8.66
フアーバム剤 フアーバム60% ×600 373.8 20.8 5.56 6.45
無処理 - - 854.0 734.0 86.15 100.00
 註
  1) 数字は4回実験の平均をもって示す。
  2) 実験方法はスライドグラスによる発芽防止法

   b) 考察
 前作と同様にマンネブ剤が最も有効であるが、フアーバム剤も有望のようである。
  (2) 防除試験(現地試験)
 前実験に供試した殺菌剤について、栗山町で現地試験を実施したが、発病がきわめて少なく成績をとることができなかった。
 ただし、供試薬剤中、塩基性塩化銅(クプラビツト・ホルテ)が薬害がはげしく防除剤として不向きのようである。
 3. 昭和37年度結果
  (1) 試験場所 夕張郡栗山町雨煙別 沢田松太郎方圃場
  (2) 耕種概要
 供試品種 W-49×WH(単交配1代雑種デントコーン)
 播種期 5月23日
 栽植密度 75㎝×30㎝
 10a当施肥量 硫安37.5㎏、過石37.5㎏、硫加11.25㎏
  (註) その他は農家慣行法による。
 薬剤散布期 7月12日、7月18日(雄穂抽出始)8月8日(絹糸抽出期)の3回
  (註) 第1回目はヨトウムシ、第2~3回目はアワノメイガ防除のためエンドリン乳剤500倍液を加用した。散布量は第1、2回まで100L/10a、第3回は120L/10aとした。
  (3) 供試薬剤および区別
   1) 無防除
   2) ダイセンM manganese ethylene bisdithiocarbamate 70% 400倍
   3) ダイセンM 600倍
   4) ダイセン Zinc ethylene bisdithiocarbamate 65% 400倍
   5) スミサン35 dichlon 15%+zineb 35% 400倍
   6) スミサン35 600倍
   7) ダイセンM+TPTC maneb 35%+TPTC 5% 600倍
   8) PMI wp Hg 2.5% 1,000倍
   9) ブラエスM ブラストサイジンSラウリル硫酸塩 1.0%+PMA1.0% 1,000倍
  10) ブラエスM 1,500倍
  (4) 1区面積および区制 1区20㎡3反覆(乱塊法)
   a) 試験成績
    (1)試験経過の概要
 生育初期に附近が牧草地と山林であったためアワヨトウの被害を受けたがエンドリン乳剤の散布によって防除した。
 煤斑病の試験圃場における初発は非常におそく8月初旬にいたり散発し8月8日頃から増加の兆をみせ9月中旬頃まで漸増したが、全体の発生は中程度であった。
 なお、試験区の中に雄性不稔種の「W-49×WM-13R」が混在したため収量調査は中止のやむなきにいたった。
    (2) 発病調査成績
 各区中央畦(30株前後)について調査した。被害度は前年度と同様、自然枯死葉をのぞく生葉全葉について病斑密度を0、1、2、3、4および5に分けて調査し、その平均値で示す方法をとった。 
処理区別 8月31日調査 9月24日調査
病株率
(%)
病葉率
(%)
病葉率
(%)
被害度
1 無防除 60.01 10.46** 86.27 2.41
2 ダイセンM ×400 7.42** 1.41** 40.69* 0.54**
3 ダイセンM ×600 7.95** 0.92** 56.12* 0.91**
4 ダイセン ×400 12.03** 1.54** 56.46* 0.86**
5 スミサン35 ×400 9.28** 1.12** 50.90* 0.83**
6 スミサン35 ×600 3.45** 0.37** 65.61 1.10**
7 ダイセンM+TPTC ×600 3.76** 0.43** 39.63* 0.53**
8 PMI ×1000 33.03** 4.74** 81.72 2.02
9 ブラエスM ×1000 5.01** 0.57** 54.90* 0.89**
10 ブラエスM ×1500 14.31** 2.38** 65.37 1.13**
L.S.D 5% 22.89 4.35 24.68 0.63
1% 31.39 5.76 n.c 0.87
 註 3区平均値で示す。

   b) 考察
 防除効果 水銀剤(PMI)を除いていずれも防除効果をあらわし、しかも使用濃度に比例している。
 薬害 供試した範囲内では、さほどの害作用はなかったが、スミサン35は軽い薬斑を生じた。
 附 防除時期試験
  供試薬剤および区別
  ダイセンM400倍液を用いて下表の区別によった。
区別 防除時間
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
7.12 7.18 7.24 8.2 8.8
1 - - - - -
2
3 - -
4 - - -
10a当散布量 100L 100L 120L 120L 120L
 註 害虫防除は前試験に準じて行った。

    a) 試験成績
 調査は前試験と同様の方法で行った。
区別 散布期日 8月31日調査 9月24日調査
7.12 7.18 7.24 8.2 8.8 病株率
(%)
病葉率
(%)
病葉率
(%)
被害度
1 - - - - - 36.37 5.16 77.93 1.78
2 3.74** 0.40** 40.76 0.53**
3 - - 9.47** 1.27** 55.79 0.83**
4 - - - 8.65** 1.10** 62.31 1.01
L.S.D 5% 6.67 1.34 n.c 0.51
1% 10.11 2.02 n.c 0.78
 註 3区平均値で示す。

    b) 考察
 本試験の範囲内では防除効果との関係が判然とせず、むしろ防除回数に問題があるようである。