【指導参考事項】
ランドレース豚の特性に関する調査研究
道立新得畜産試験場

1. はじめに
 昭和36年12月ランドレース15頭を原産地より輸入し、純粋並に雑種繁殖についての産仔の育成や肥育試験を続行中である。輸送中の疲労や飼育環境に対する不慣れ、さらに初産豚の多い事を考慮すると、本種を代表する成績の検討は尚早であるが、民間に於て本種の利用が急速度に進められているので、その指標としてとりあえず、今までの分を取纏め発表する。
 本種は後代検定等により、長年に亘り極めて科学的な改良が加えられたので、産仔、肥育、肉質に於て他品種比較し、優れた能力を本場に於ても発揮している。只輸入豚は原産地の高等登録豚で資質の最高級のものばかりであるから、この成績を以って本種の特性を正しく代表するものとは必ずも考えられない。
2. 調査成績
 (ア) 繁殖成績
 当場の既存3品種に比較すると、学胎率は甚だ良好であり、産仔数はヨークシヤーより1頭少ないが、バークシヤー、ハンプシヤーより3頭多く、死産、濁汰率も少ない。初交配月令は他品種より2ヶ月位早いことも見逃せない。
 第1表  品種別の生産成績の比較
品種 種付
延頭

(頭)
種付
回数
(回)
受胎
頭数
(頭)



(%)
1腹当り分娩頭数


(%)



(%)
1腹
平均
育成
頭数
(頭)



(%)
在胎
日数
(日)
摘要
最多
(頭)
最小
(頭)
平均
(頭)
ランドレース 19 25 19 100 14 3 9.53 2.8 1.6 7.79 87.5 114 初産豚が多いから
分娩仔数は少ない
中ヨークシヤー 1,040 1,137 676 66.4 19 1 10.67 10.48 4.33 6.85 74.8 113.5 昭和26~36年成績
バークシヤー 236 267 137 61.0 15 1 8.16 8.80 3.6 5.67 74.3 115.8
ハンプシヤー 95 105 49 46.2 12 1 7.89 3.0 0.8 5.03 56.1 114.8

 第2表  初産豚の産仔数比較
品種 平均
(頭)
最多
(頭)
最小
(頭)
摘要
ランドレース 10.45 14 3 昭和37年
ヨークシヤー 9.12 15 2 昭和22~25年
バークシヤー 8.00 13 2 昭和22~25年
ハンプシヤー 8.00 13 3 昭和22~25年

 (イ) 仔豚の発育
  (a) 哺乳仔豚の発育、分娩時の仔豚体重がランドレースでは1.39㎏で、分娩仔数の多いのにかかわらず他品種に勝り、発育のスタートで既に他を凌いでいる。又三週令の発育が同様に良好な事は母豚の泌乳能力の旺盛な事を示している(3週令は母乳の最盛期)、更に離乳時7週令では13.36㎏で、他品種より3.0㎏以上大きいことは、其の後の早期肥育に極めて有利である。
 第3表  哺乳仔豚の発育比較
区分\品種 ヨークシヤー バークシヤー ハンプシヤー ランドレース
生時 頭数 11.0頭 7.8 8.57 9.53
総体重 12.39㎏ 9.75 10.67 12.76
平均体重 1.15㎏ 1.28 1.23 1.39
斉一度 52.8% 64.7 59.7 59.1
三週令時 頭数 7.91頭 6.9 6.71 7.90
総体重 34.52㎏ 31.86 30.37 43.77
平均体重 4.39㎏ 4.83 4.46 5.69
斉一度 61.0% 65.8 57.7 65.7
七週令時 頭数 7.5頭 6.7 6.29 7.79
総体重 66.74㎏ 62.13 63.20 100.46
平均体重 8.94㎏ 9.62 10.00 13.36
斉一度 58.7% 6.46 62.4 61.1
 考察
  ① ランドレース19頭、ヨークシヤ56頭、バークシヤー10頭、ハンプシヤー14頭の同時哺育成績である。
  ② 斉一度とは最大仔豚と最小仔豚の体重比である。即ち発育の整一度を示す。

  (b) 生後1ヶ月の発育。離乳時に平均体重のものを種豚候補として同一環境下に飼育して得た結果を次表に示すと、ランドレースが最も優れた発育である。これは種豚としての発育であって、肥育豚の場合はこれより更に速い発育標準に従わねばならない。供試飼料は生澱粉粕の煮たものに配合飼料と少量の魚粉を配合したものを使用した。特にランドレースの原産地で主として用いられている麦類等を用いなくとも順調な発育をとけることが理解出来た。
 第4表  種豚候補の発育
品種 生時 3週
令時
7週
令時
2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月
ランドレース 1,413
1,000

2,000
5,884
4,300

8,000
14,140
10,500

21,000
19,970
16,400

25,000
30,184
24,000

42,000
42,230
34,500

53,000
61,640
50,000

75,000
79,200
53,000

96,000
96,800
75,000

115,000
ヨークシヤー 1,260
1,100

1,650
5,050
3,600

7,000
11,050
6,900

14,000
17,630
13,000

24,000
24,740
17,000

34,000
37,050
28,500

55,000
54,000
45,000

66,000
78,800
62,000

95,000
90,440
84,000

98,000
バークシヤー 1,400
1,260

1,550
5,330
4,950

5,720
12,650
12,300

13,000
18,500
17,000

20,000
21,250
20,000

22,500
34,250
32,000

36,500
50,000
49,000

51,000
71,000
70,000

72,000
84,000
80,000

88,000
ハンプシヤー 1,364
1,155

1,600
5,475
4,400

7,000
11,750
9,600

13,200
19,750
16,000

23,000
25,250
22,000

30,000
39,000
31,000

48,000
60,000
59,000

61,000
68,000
62,000

74,000
87,000
80,000

91,000
品種 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月
ランドレース 116,820
97,000

132,000
129,800
119,000

143,000
140,250
130,000

146,000
156,000
150,000

160,000
170,250
160,000

183,000
ヨークシヤー 100,220
91,000

112,000
108,800
93,000

120,000
124,400
112,000

139,000
143,500
130,000

155,000
166,500
155,000

180,000
バークシヤー 90,500
85,000

96,000
104,000
96,000

112,000
116,000
110,000

122,000
126,000

-
137,000

-
ハンプシヤー 100,000
95,000

105,000
105,000
104,000

106,000
118,000
115,000

121,000
139,250
134,000

144,500
150,000

-

 (ウ) 体型、体質
 ランドレースは原産地(米国、北欧)により体型が幾分異なると言われるが、一般的な体型は頭部、頸、肩のくず肉の部位は軽く、薄く出来、上肉の多い中躯、後躯は長く充実し全体として楔型をなしているが雌豚は西洋梨、雄豚はソーセージに似た姿をしている。当場に輸入された15頭についての測尺結果は第5表の通りである。
 第5表  輸入ランドレースの各部測定値(15頭平均)
月令 体重 体長 胸囲 管囲 体高 胸深 前巾 胸巾 後巾 胸囲\体長 後巾\前巾
11月 144.9 145.4 116.9 17.4 70.2 38.6 27.9 28.6 31.6 80 113
対体長割合 0.804 0.12 0.48 0.27 0.19 0.20 0.22 - -

 体質については輸入後間もない現在では不明な点が多い。特に抗病性に対しては重要な課題である。今迄に判明した点は化膿性疾患や、豚肺虫に弱いようである。又、各地で共通的に認められるのは肢蹄の弱い点で、特に後肢の歩様が不安定で、妊娠末期や肥育後期になると犬坐姿勢をとるものが多い。今後繁殖豚は育成中から運動や放牧で四肢を丈夫に訓練する必要がある。
3. 肥育試験
 (ア) 目的、ランドレース利用の大きな目的は現在広く普及している、中ヨークシヤやバークシヤーとの雑種の大量生産であって、其の産肉能力や肥育飼料についての調査が緊要である。今回はその予備的な調査としてランドレースとバークシヤーについて夫々の肥育試験を行った。
 (イ) 試験方法
  (a) 供試豚 ランドレース7頭(種畜として不適当な発育、体型のものをえらぶ)バークシヤー4頭の夫々の離乳後の仔豚。
  (b) 供試飼料 市販仔豚用配合飼料、産肉能力検定用飼料(No.1、No.2)及び煮熟澱粉粕を利用した。
飼料名 一般成分 可消栄養分
水分 粗蛋白 粗脂肪 N・F・E 粗センイ 可消養分総量 可消蛋白質
仔豚用配合 12.47% 19.91 4.62 50.22 4.99 - -
検定No.1 13.24 16.82 3.68 55.66 4.16 67.38 14.45
検定No.2 12.62 15.29 3.27 59.02 3.74 69.04 11.73

 (ウ) 試験成績
  (a) 試験豚の発育 ランドレースはすばらしい発育振りで生体量90㎏になるまでの所要日数で50日、1日増体量170㎏の格差が認められた。
 第6表  ランドレースとバークシヤーの発育比較
個体No. 試験開始
時体重a
試験終了
時体重b
増体量
c(b-a)
所要日数
d
1日平均
増体量
c/d
 
ランドレース 雌24 20.0 90.0 70.0 117 0.598 最長最少
雄30 16.0 93.0 77.0 117 0.658  
雄32 22.0 90.5 68.5 98 0.699 最短
雌27 16.0 92.0 76.0 110 0.691  
雌34 18.0 90.5 72.5 107 0.677  
雌35 21.5 90.0 68.5 103 0.665  
雌36 14.0 93.5 79.5 113 0.703 最多
平均 18.21 91.35 73.14 109 0.672  
バークシヤー 雄54 13.0 90.0 77.0 155 0.497  
雌53 13.7 90.0 76.3 137 0.557 最短最多
雄56 9.7 90.0 80.3 183 0.439 最長最少
雄57 12.1 93.0 80.9 155 0.522  
平均 12.13 90.75 78.62 157.5 0.504  

  (b) 飼料の消費量 生体量50㎏になるまでの肥育前期の飼料要求率(増体量と摂取飼料の比)は、両種共に3.0前後であり、50~90㎏迄の肥育後期になると、飼料要求率が3.3以上となり、その両種間の差は余り認められない。これは今回供試したバークシヤーの飼料要求率が一般の標準(3.6)より稍低率のためであろうが、第1表に見るような早肥の割合に飼料要求率はそれほど低下しない事を示している。このことは早肥性の雑種豚の肥育試験に於て一般的に認められる傾向である。
 第7表  飼料消費量(㎏)
  品種 平均日数
(日)
平均増体量
(㎏)
飼料の種類 1頭平均消費量
(㎏)
1㎏増体所要飼料
(㎏)
前期 ランドレース 54 32.42 検定 No.1 94.78 2.92
バークシヤー 85 38.12 118.5 3.11
後期 ランドレース 55 40.71 検定 No.2 147.35 3.62
バークシヤー 72.5 40.50 153.0 3.78
全期 ランドレース 109.0 73.14 検定 No.1
検定 No.2
242.14 3.31
バークシヤー 157.5 78.62 271.50 4.45

  (c) 屠体成績 技肉の歩留は稍、バークシヤーが高い。脂肪の厚さはランドレースでは肩、背、腰の差がすくなく、全般的に薄いがバークでは肩の厚いのが目立ち全般的厚脂肪になっていて、格付決定の基準になる背脂肪で0.6㎝の差がある。脂肪の質は肉眼的には差異は認められなかった。屠体の大いさはランドレースが11㎝長く、体長と密接な関係のある椎骨に於ては胸椎が2個多く22型でバークシヤーは20型であった。枝肉半丸を4部位に分割すると、ランドレースはバラ、ハムの割合が多い。又背腰部が長いのでロースの長さはバークシヤーに比して9㎝も長かった。尚食味も早肥に係わらず良好であった。
 第8表  屠体成績
  冷技肉 脂肪の厚さ 技肉の大いさ
重量
(㎏)
屠殺率
(%)
平均 屠体長
(㎝)
背腰長
(㎝)
胸椎数
(ヶ)
腰椎数
(ヶ)
ランドレース 60.6 68.9 3.4 2.1 3.1 2.87 96.0 79.0 16 6
バークシヤー 58.0 69.3 4.65 2.7 3.2 3.50 84.8 70.5 14 6
  大割肉片 ロース
カタ
(㎏/%)
ロース
(㎏/%)
バラ
(㎏/%)
ハム
(㎏/%)
長さ
(㎝)
断面積
(平方㎝)
ランドレース 9.3/30.2 6.2/20.1 5.7/18.5 9.6/31.2 53.0 14.6
バークシヤー 10.1/34.5 6.2/21.3 4.4/14.8 8.6/29.4 44.0 18.7

4. 要約
 本場に輸入せられたランドレース15頭について、繁殖、育成、肥育、肉質について、他品種と比較してみた所、全般的に次の如く極みて優秀な成績を得た。
 (ア) 繁殖成績 (第1表)受胎率、育成率が甚だ良好である。分娩仔豚数が他品種にくらべ稍良好にすぎないのは、初産豚の多いためで、原産地の平均分娩仔豚数は中ヨークシヤーに匹敵する。
 (イ) 発育成績 (第3~4表)分娩仔数が多いに係はらず、生時平均体重が他品種より1.0㎏以上も重くしかも発育が不揃でない。その後の三週令の体重が、やはり1.0㎏重くなっているのは、母乳の泌乳能力の良い事を示している。離乳期の発育はすばらしく、他品種よりも4.0㎏近く重い。このことは将来素豚としての有利な条件で、ランドレースの早期肥育や早期種付を可能ならしめた大きな原動力である。
 (ウ) 肥育成績 (第6表)と飼料消費量(第7表)極めて早肥で、離乳後109日で90㎏に到着し、比較的発育のよいバークシヤーにくらべて50日近くも早肥である。これと平行して飼料の消費量は低下しない。言い換えると早く大きくなるが、それだけやはり多く食うことになる。
 (エ) 屠体及び肉質成績 (第8表)屠殺率はバークシヤーに劣る結果になったが、ランドレースは極めて細長の豚であるから屠数率が悪くなり易いことが、本種に対して警戒を要する点である。脂肪の厚さは甚だ薄くて、しかも平均し将来の市物豚として歓迎される薄脂肪豚として理想的なものである。良質な肉の附着部であるハム、ロース、バラの割合が多く加工肉としての適正を示している。
 以上、述べた如くランドレースは永年にわたり改良を積ねた労作だけに、極めて優れた能力を持っているから、今後中ヨークシヤー、バークシヤーを基礎雌にした1代雑種の薄脂肪豚の大量生産を行うのに適当した品種と言えよう。一方品種の欠点として輸入後日が浅いため目立ったものが見当たらないが、今迄に判明した一般的な傾向は後肢が弱く、歩様の不安定なもの、妊娠や肥育末期になると、体重を支え得ないで犬坐姿勢をとるものが多いこと等である。更に今後民間に普及した場合に、ランドレースの優良資質と民間飼育管理の間に不均合が起きた場合は、却って逆効果の場合も予測しなければならない。