【指導参考事項】
心土耕が土壌の物理性に及ぼす影響と持続性に関する試験
北海道農業試験場農業物理部

目的
 心土耕が土壌の物理性に与える変化と持続性をしらべ耕土改良との資料とする。
Ⅰ 水田心土耕
 1. 調査場所および区分
 第1表  調査場所および区分
分類 施工年次 調査年度 地区名 土性
(1) 昭27(秋) 昭29.30.31 空知郡栗沢町 河成沖積埴土
(2)-1 27(春) 31 雨竜郡秩父別村 〃 埴壌土
(2)-2 29(〃) 埴壌土
(2)-3 30(〃)
(2)-4 31(〃)
(3)-1 31(秋) 空知郡栗沢町 河成沖積埴土
(3)-2 31(春) 雨竜郡秩父別村 〃 埴壌土
(3)-3 31(〃) 上川郡東川村 〃 埴土 

 2. 測定事項および方法
 現場において土層断面を観察し、2~3の測定を行った他、試料を採取して種々な物理性を調べた。採取の方法は、表層を第層、心土耕を施した層を第2層、下層を第3層とし、ノツキングサンプラーを用いた。
 3. 測定結果
 採取土壌について測定した結果を第2表に、現場測定の結果を第3表および第1図に示す。ただし心土耕が土壌の物理性におよぼす影響は主に第2層に現れるので、第2表にはこの層の値だけを記した。また現場測定は代表的なものとして、分類(3)のものをとった。水稲の収量は現地の普及所その他が調査した結果である。
 4. 考察
  (1) 心土耕によって土壌の乾燥密度は小さくなり、したがって孔隙が増え、空気と水の占める容積が増大した。孔隙の増大は主に非毛管孔隙によることがみとめられた。
  (2) したがって土耕区の浸透係数は大きくなり、浸透係数が一般に増加した。しかし土層条件によっては第2層の浸透係数の増加はあっても、土層全体としての浸透速度は対照区よりむしろ小さいものがあり、このような区では作物の生育が良くなかった。
  (3) 土壌の貫入度と硬度の測定結果によれば、心土耕区は普通耕区に比べはるかに膨軟であり、心土耕の影響を最も明瞭に示している。
  (4) 心土耕により根の伸長領域が増大し、根群の繁茂も著しい相違がみとめられた。
  (5) 心土耕の効果は排水良好な埴土地にはっきり現れる。
  (6) 以上のことから心土耕の効果は一養的には
   ⅰ) リ底盤を破砕して土壌を膨軟にし、根の伸長を助ける。
   ⅱ) 浸透を増し、水と空気の供給を助ける。
 とゆうことができる。
  (7) 湛水中の地温は灌漑水温、水深、浸水速度などの影響をうけるため、心土耕の影響を単純に判別することはできないが、心土耕区と対照区が最も条件の類似した位置にある水田について、心土耕区の地温が対照区より高い場合があった。実際日中においては温かい水の浸透が多いことと、この水の占める体積が多いことにより、地温が高まることは考えられる。
  (8) 地温は落水後水の影響が除かれると土壌の影響がはっきりと現れ、膨軟な心土耕区が高温になる。落水後の地温、通気性、乾燥の度合いなどがどのような意味をもつかについては明らかでない。
  (9) 心土耕が土壌の物理性に与えた変化は、大部分5~6年持続すると思われるが、心土耕によって受けた土壌の変化が原因となって、さらに他の変化を誘発し、次第に推移するため、効果が完全にもとに復する状態は認められなかった。このことは水稲の収量に明らかに認められる。
 第2表
 1. 分類-(1)の水田
  経過
年数
区分 水分 湿潤度
(%)
孔隙率
(%)
容気率
(%)
乾燥
密度
容水率
(%)
非毛管
孔隙
(%)
浸透係数
㎝/sec
重量
(%)
容積
(%)


2 普通耕 35.9 53.7 84.7 63.4 9.7 0.96     1.03×10-6
心土耕 31.1 41.5 63.4 65.5 24.0 0.92     1.90×10-4
3 普通耕 34.6 58.4 94.9 61.6 3.2 1.03     4.46×10-7
心土耕 37.4 55.7 87.5 63.7 8.0 0.93     1.49×10-5
4 普通耕 39.8 63.8 99.4 64.1 0.3 0.96     2.83×10-7
心土耕 36.5 59.5 97.3 61.1 1.6 1.04     1.97×10-6


2 普通耕 36.9 57.9 91.0 63.6 5.7 0.99     6.07×10-7
心土耕 38.5 57.1 84.8 67.4 10.3 0.89     1.15×10-4
3 普通耕 40.9 64.2 96.5 66.5 2.3 0.90     4.82×10-7
心土耕 36.9 55.0 88.6 62.1 7.1 1.01     2.40×10-6
4 普通耕 37.6 59.7 94.6 63.1 3.4 0.99 60.5 2.7 3.47×10-7
心土耕 37.2 57.7 91.0 63.4 5.7 0.97 59.3 3.2 2.19×10-6

 2. 分類-(2)の水田
  経過
年数
区分 水分 湿潤度
(%)
孔隙率
(%)
容気率
(%)
乾燥
密度
容水率
(%)
非毛管
孔隙
(%)
浸透係数
㎝/sec
重量
(%)
容積
(%)


4 普通耕 40.5 60.4 94.4 63.8 3.5 0.89     1.62×10-5
心土耕 43.6 61.4 91.4 67.0 5.8 0.79     8.11×10-5
2 普通耕 36.6 53.5 84.6 63.2 9.7 0.93     9.50×10-5
心土耕 42.7 64.0 97.2 65.4 1.4 0.86     1.09×10-4
1 普通耕 39.8 59.1 92.5 63.9 4.8 0.90     1.72×10-4
心土耕 35.0 52.7 85.0 62.0 1.3 0.98     3.55×10-3


4 普通耕 42.3 61.2 92.9 65.9 4.7 0.84 59.0 4.8 1.49×10-5
心土耕 48.6 65.5 92.0 71.2 5.7 0.69 53.2 13.8 7.94×10-5
2 普通耕 44.8 64.1 93.1 68.8 4.7 0.79 64.0 4.8  
心土耕 43.6 61.3 89.7 68.3 7.0 0.79 63.3 5.0  
1 普通耕 43.4 63.7 95.6 66.6 2.9 0.83 65.6 0.9  
心土耕 40.0 60.7 94.6 64.2 3.1 0.91 59.7 4.5  
0 普通耕 36.0 56.9 87.7 61.6 4.7 0.96 54.1 7.5 5.90×10-4
心土耕 42.5 63.7 97.3 65.5 1.8 0.86 61.0 4.5 5.27×10-7


4 普通耕   61.8   64.6   0.85      
心土耕   76.7   74.2   0.63      
2 普通耕   62.1   68.6   0.79      
心土耕   66.2   69.3   0.77      
1 普通耕   60.0   63.2   0.94      
心土耕   71.1   72.9   0.85      
0 普通耕 46.8 67.4 97.1 69.4 2.0 0.77      
心土耕 49.5 68.7 95.5 71.9 3.2 0.70      

 3. 分類-(3)の水田
  分類 経過
年数
区分 水分 湿潤度
(%)
孔隙率
(%)
容気率
(%)
乾燥
密度
容水率
(%)
非毛管
孔隙
(%)
浸透係数
㎝/sec
重量
(%)
容積
(%)


(3)-1 0 普通耕 30.3 52.5 96.1 54.6 2.1 1.21 42.4 12.2 1.55×10-5
心土耕 35.1 55.8 92.6 60.3 4.5 1.03 58.3 2.0 1.23×10-6
(3)-3 0 普通耕 24.6 45.7 96.3 47.9 1.8 1.40 47.7 - 5.54×10-4
心土耕 30.0 50.5 89.0 53.7 6.2 1.18 37.6 19.0 8.44×10-4


(3)-1 0 普通耕 29.3 44.2 90.8 54.9 10.6 1.20      
心土耕 37.7 59.7 96.3 62.0 2.3 1.00      
(3)-3 0 普通耕 38.0 60.6 96.4 62.9 2.3 0.99      
心土耕 39.7 59.7 90.6 65.9 6.2 0.93      

 第3表  浸透速度、土壌硬度、地温
  分類 区分 浸透
速度
㎝/day
土壌
硬度
地温℃
時刻 5m 15m 20m


(3)-1 普通耕 2.4 26.9 11.5 5.8 4.3 3.0
心土耕 16.8 21.8 6.0 4.4 4.2
(3)-2 普通耕 59.2 28.9 14.8 1.6 3.0 4.2
心土耕 0 24.6 1.6 3.2 4.7
(3)-3 普通耕 0   15.8 0.5 2.0 3.4
心土耕 0.6   0.7 2.0 3.5
            10㎝ 20㎝ 30㎝ 40㎝


(3)-1 普通耕 0.2   12.0 19.3 19.5 19.1 18.2
心土耕 0.4   18.0 12.3 18.1 18.2
(3)-2 普通耕 0.2   14.0 23.8 24.1 24.9 22.6
心土耕 0   23.8 23.7 23.3 22.5
(3)-3 普通耕 0   14.5 26.5 25.8 25.6 25.6
心土耕 0.4   27.0 26.1 24.9 25.8

 第4表  収量率
分類 経過年数 調査年度 対照区 心土耕区
標準施肥 3割減肥 3割増肥
(1) 2 昭.29 100 106 111 115
(1) 3 昭.30 100 120 118 105
(1) 4 昭.31 100 114 104 110
(2)-1 4 昭.31 100 - - -
(2)-2 2 昭.31 100 100
103
121
123
109
100
(2)-3 1 昭.31 100 84 105 98
(2)-4 0 昭.31 100 67 - -
(3)-1 0 昭.31 100 ≒100 - -
(3)-2 0 昭.31 100 67 - -
(3)-3 0 昭.31 100 120 111 101
 注
  1) 減肥、増肥は主としてNについて
  2) 分類(1)の3割減、3割増区は普通耕区の3割減、3割増区をそれぞれ100としたとき。

Ⅱ 畑地心土耕
 1. 調査場所および区分
 第5表  調査場所および区分
分類 地区 施工年次 調査年次 経過年数
(1) 江別市西野幌 28.29.30.31 31 3.2.1.0
(2) 雨竜郡沼田町北竜 25.28.29.30 32 7.4.3.2
(2)' 雨竜郡沼田町北竜 25.28.29.30 33 8.5.4.3
(2)'' 雨竜郡沼田町北竜 25.28.29.30 34 9.6.5.4
(3) 天塩郡豊富村 27.28.29.32 33 6.5.4.1
(4) 稚内市沼川町開進 28.29.30.32 33 5.4.3.1
(5) 枝幸郡浜頓別町字日ノ出 28.29.30.31.32.33 33 5.4.3.2.1.0
(6) 紋別郡興部町字豊野 31.32.33 34 3.2.1
(7) 紋別郡滝ノ上第1区 30.31.32 34 4.3.2
(8) 紋別郡滝ノ上大正 29.31.32 34 5.3.2
(9) 紋別郡湧別町信部内 27 35 8
(10) 紋別市小向 31 35 4
(11) 紋別郡湧別計呂地A 33 35 2
(12) 紋別郡湧別計呂地B 31 35 4

 2. 土地条件および土性
  (1) 台丘地、埴土および埴壌土
  (2) 洪積、平坦な台丘地、埴土、心土は灰褐色
  (3) 3~4°の傾斜をもつ波状形段丘地、埴土、堅密、心土は灰黄褐色粉塊状
  (4) 4~5°の傾斜をもつ波状形段丘地、埴土、堅密、心土上層は灰褐色、下層は灰黄褐色
  (5) 平坦、埴土、堅密、心土は黄褐色
  (6) 1様な傾斜地4~5°、心土はなはだ堅密で黄褐色
  (7) 3~4°の傾斜をもつ波状形段丘地、心土は黄褐色の埴土で粉塊状、堅密
  (8) 5~6°の傾斜を有する波状形段丘地、起伏多い、心土は埴を含む褐色の埴土、粉状構造、堅密
  (9) 0.5~1.5°の傾斜をもつ段丘地、心土は暗灰褐色の埴土および埴壌土、かなり堅密
  (10) 1.5~3.5°の傾斜をもつ殖丘地帯、心土は黄褐色の埴壌土でやや堅密
  (11) 7~15°の傾斜地帯にあり、心土は小礫に富む壌土でかなり堅密
  (12) 7°以上の傾斜地、心土は黄褐色の小礫に富む埴壌土、堅密
 3. 測定事項および方法
 水田の場合と大体同じである。
 4. 測定結果
 調査結果の主なものを図および表によって示したが、小さな試料によって圃場の状態を代表させることには若干無理があると思われ、かならずしも一様な結果は得られていない。しかし数多くの測定により、大体の傾向は明らかになったと思われる。層位の1層は耕土層、2層は心土耕を施した層、3層は下層上である。
 5. 考察
  1. 心土耕区と普通耕区の相違は第2層に最もよく現れ、水田よりも畑の場合に、より明瞭である。第6表によれば心土耕によって土壌は密度を減じ、孔隙と水分を増したが、湿潤度の増加に対して容気率がその割でもないのは、増えた孔隙が空気よりも水で満たされていることを示している。実際容水率すなわち毛管孔隙の増加が著しかった。しかし重粘な土地、および排水施設を施した地区においては湿潤度は減じ、非毛管孔隙の増加が大きかった。非毛管孔隙の経年変化は第2図の通りである。
  2. 第3~5図からわかるように、透水性、通水度、土壌硬度などが最も心土耕の影響を明瞭にあらわすfactorであることは水田の場合と同じである。
  3. 変化した物理性の持続については、湛水を行わない畑地の方が水田よりも持続性があり、7~8年たっても完全には元にもどらなかった。一般の物理性および圧縮性など(第6図)よりも透水性、硬度などの方が持続性が大きく、見掛け上復元したように見えても案外効果の長いこと示唆している。
  4. 心土耕による地温の上昇は畑地の場合、とくに明らかである。
  5. 物理性の変化と持続性は排水良好なほど大きく、また連年施工することにより一層増大した。
  6. 畑地においては普通輪作を行っているため、この影響も考慮に入れなければならないが、心土耕の効果として明瞭なものは以上の通りである。作物の収量も同じ理由で比較することはできなかったが、心土耕区のあるものがたまたま対照区と同じ作物であった場合(たとえば野幌、対照区、施工後0年区、デントコーン)に、心土耕区の収量が多かったことが聞きとられている。
 第6表  土壌の物理性(野幌)
  層位 含水率
(%)
容積含水率
(%)
湿潤度
(%)
容水率
(%)
容気率
(%)
空隙率
(%)
乾燥密度
g/㎝3
普通耕区 1 19 19 27 49 50 69 0.78
2 30 36 54 55 24 67 0.83
3 28 43 73 47 16 59 1.11
心土耕区
(28年)
1 21 22 33 55 45 67 0.82
2 33 35 49 47 36 71 0.71
3 21 38 75 36 13 50 1.39
心土耕区
(29年)
1 25 28 43 55 38 66 0.85
2 33 37 53 55 33 76 0.76
3 25 40 69 45 18 57 1.17
心土耕区
(30年)
1 30 30 42 57 42 72 0.69
2 38 46 66 62 24 70 0.74
3 36 52 83 37 10 62 0.92
心土耕区
(31年)
1 47 55 72 68 68 76 0.61
2 39 44 61 75 75 73 0.68
3 30 45 71 47 47 63 1.02

 第7表  平均地温  ℃ 10h~18h(野幌)
施工年次
\深さ㎝
31 30 29 30
10 19.8 20.4 20.5 21.3 21.9
20 18.7 19.1 19.3 20.6 19.8

 
第2図  2層土壌の非毛管孔隙(沼田)

 
第3図  2層土壌の通気度(沼田)

 
第4図  各層における浸透速度(沼田)

 
第5図  2層における土壌硬度(沼田)

 
第6図  荷重1.65㎏の時2層土壌の圧縮量(沼田)

 
第7図  2層土壌の物理性(沼田) (排水良、排水不良地)