【指導参考事項】

玉葱導入品種適応性比較試験

北海道農業試験場 園芸作物研究室

1. 試験の目的と経過
 近年米国で発達した雄性不稔性利用玉葱一代雑種及び普通品種を導入在来品種と比較試験を行い、優秀F1については親系統を導入して道内で採種を行うことを目的として、昭和32年より開始された。 試験は次の5種に区分される。
 (1) 特性比較試験  直播栽培により各種F1および品種を比較する。昭和32年度から昭和36年度まで。
 (2) 直播、移植栽培比較試験  一部のF1につき直播移植両栽培法により比較試験を行う。昭和33年度から昭和35年度まで
 (3) 生産力検定試験  有望F1につき実施する。昭和36年度
 (4) 貯蔵性比較試験  (1)(2)(3)で生産された母球の貯蔵性を比較する。昭和32~36年度
 (5) 球質調査  (3)の生産物につき実施。昭和36年度。
 試験は完了したわけではないが、一部のF1はすでに輸入され実用に供されているので、ここに中間報告として発表する。

2. 特性比較試験および直播、移植栽培比較試験
 対照品種としては札幌黄の系統比較試験で最優良であったHA系の農家自家採種種子を用いた。 供試したF1はきわめて多数であるので、すくなくとも2年度、3回以上試験に供したもの以外は省略した。 成績はすべて対照区を100とする指数の平均値で表した。
 指標の解説
 (1) 規格内収量  標準に対するパーセント
 (2) 総収量     標準に対するパーセント
 (3) 良球一球重      〃
 (4) 倒伏       標準の8月下旬における倒伏率を100とする倒伏率の指数。
 (5) 移植増収率  規格内収量、一球重とも同一試験の直播区に対する移植区のパーセント

 対照区(札幌黄HA系)の成績
年度 一区面積
(坪)
反覆 栽培法 10a当
規格内収量
(kg)
10a当
総収量
(Kg)
一球重
(g)
倒伏率
調査
(月日)
倒伏率
(%)
立毛調査
(月日)
草丈
(cm)
葉数
(枚)
昭和32 1.5 1 直播 3,666 3,928 144.6 8/29 85.9 7/12 47.6 6.3
昭和33A 1.5 1 直播 3,326 3,362 131.2 8/30 80.7 8/11 60.0 7.9
昭和33B 1.5 1 直播 2,464 2,524 99.4 8/28 76.6 8/7 58.4 9.4
 〃 1.5 1 移植 3,410 3,542 110.0 8/28 73.6 8/7 64.8 9.1
昭和34A 1.5 1 直播 4,484 4,670 168.5 8/30 93.1 8/10 80.6 10.7
昭和34B 1.0 3 直播 3,984 4,098 151.5 8/26 91.2 8/8 73.6 10.9
 〃 1.0 3 移植 4,806 4,833 176.4 8/26 98.9 8/8 77.5 11.9
昭和35A 1.25 1 直播 4,236 4,925 168.1 8/30 95.1 8/10 68.9 11.1
昭和35B 1.0 3 直播 4,494 4,776 181.2 8/30 81.7 8/10 76.0 11.5
 〃 1.0 3 移植 5,124 5,499 225.6 8/30 97.1 8/10 71.9 10.6
昭和36 1.5 1 直播 2,626 2,946 117.2 8/25 97.0 8/8 69.0 9.3
品種名 作出箇所 直播 移植
試験
年数
試験
度数
規格内
収量(%)
総収量
(%)
良球
一球重(%)
倒伏
(%)
試験
年数
試験
度数
規格内
収量(%)
総収量
(%)
一球重
(%)
倒伏
(%)
移植増収率
規格内
収量(%)
一球重
(%)
Eariy Yellow Globe型
 
U.S.D.A                                         
Abundanse
(B2108×B2215)
U.S.D.A 5 7 99.5 114.4 107.7 66.7 3 3 92.7 101.8 103.6 77.7 118.3 111.7
Champion
(B2146×B2215
U.S.D.A 2 3 110.5 119.9 106.1 30.5 1 1 78.9 80.9 118.6 22.7 98.8 123.7
Contender
(B2133×B2215)
U.S.D.A 4 5 94.8 102.0 107.5 59.6 3 3 99.5 98.6 100.1 83.4 143.2 107.8
Elite
(B5545×B2215)
U.S.D.A 5 6 92.0 98.9 96.8 54.9 2 2 91.6 93.1 104.9 61.1 124.3 120.0
Encore
(B2129×B2215)
U.S.D.A 5 8 104.3 110.8 103.9 81.3 3 3 90.8 97.6 102.0 75.4 113.4 113.2
Premier
(B2117×B2215)
U.S.D.A 5 8 90.3 108.5 107.6 75.5 3 3 91.4 98.5 100.8 76.0 122.7 112.4
Brigham Yellow Globe型
 
                                             
Aristocrat
(B2218×B2215)
U.S.D.A 5 6 98.2 103.8 100.1 87.1 1 1 75.7 82.5 101.2 65.2 90.2 110.4
Epoch
(B2246×B2215)
U.S.D.A 3 3 81.5 82.7 83.6 82.9 1 1 82.3 79.5 95.5 51.8 127.5 110.2
Pioneer
(15-108×B2215)
U.S.D.A 3 3 93.1 96.9 91.5 68.0 1 1 82.6 85.9 86.5 97.6 125.4 118.7
Spartan
(Ia 467-8×B2215)
U.S.D.A 3 3 84.5 89.7 84.2 76.8                 
Surprise
(B2207×B2215)
U.S.D.A 3 3 73.6 93.8 88.9 50.9                
Autumn Spice
 
Crookham Co. 5 5 84.1 80.7 81.4 98.0 1 1 84.3 86.5 102.8 76.2 135.7 134.3
Autumn Topper
 
Crookham Co. 5 5 76.5 84.8 81.0 77.3                      
Yellow Sweet Apanish
 
                                                        
Fiesta
(B2190×B12215)
U.S.D.A 5 6 92.0 107.3 103.1 25.9 1 1 87.6 103.5 122.4 15.2 146.0 135.5
Golden Beauty
(B2133×B12132)
U.S.D.A 3 4 120.9 126.8 121.3 60.2 1 1 108.1 109.2 110.7 79.3 131.2 123.5
Pilot
 
U.S.D.A 3 3 101.5 100.7 96.4 88.1                   
Brown Beauty
 
Crookham Co. 5 5 86.8 92.5 92.8 63.9                 
開放受粉品種
 
                                                 
Early Yellow Globe
 
  5 6 104.5 104.2 103.5 81.4 1 1 103.9 102.8 126.7 62.4 146.0 132.3
Brigham Yellow Globe
 
    4 5 84.4 86.7 84.7 56.8 1 1 76.1 78.6 91.4 26.7 108.5 106.0
Downing Yellow Globe
 
     5 5 72.0 87.3 89.7 57.8                  
Yellow Sweet Spanish
(Utah系)
   5 5 61.3 93.0 76.7 6.9                
札幌黄 (HA系)
 
    5 8 100 100 100 100 1 1 100 100 100 100 124.3 117.2

3. 有望品種の比較試験成績
 以上の結果、規格内収量、一球重ともに標準区にまさるものは
 (1) Champion (チャンピオン)
 (2) Encore (アンコール)
 (3) Golden Beauty (ゴールデンビュティ)
 (4) Early Yellow Globe (アーリーイエローグローブ)
 の4品種である。このうちチャンピオンは試験年度すくなく、最近は米国でも採種されていないようであるので除外する。 アーリー・イエロー・グローブは普通品種であるので、系統による変異が大きく、貯蔵性も不良であるので、この収量試験の結果のみを信用できない。

品種名 試験 栽培法 規格内収量
(%)
総収量
(%)
一球重
(%)
倒伏
(%)
草丈
(%)
葉数
(%)
色変わり
(%)
不整形
(%)
青立
(%)
腐敗病虫害
(%)
屑球
(%)
移植増収率
規格内収量 一球重



l
昭和32 直播 79.5 78.8 75.2 100.8 96.0 96.8 0 0.7 0 2.1 6.1    
昭和33A 101.4 111.4 98.9 64.1 118.3 127.8 0 3.4 2.8 2.8 1.4    
昭和33B 136.9 129.3 115.2 76.8 112.2 101.1 0.7 2.8 0.7 2.8 2.0    
昭和34A 94.4 100.9 101.2 91.5 98.5 99.1 0.7 8.0 0.7 0 0.7    
昭和34B 96.3 108.3 104.8 75.1 103.4 98.2 0..3 7.6 2.9 0 2.6    
昭和35A 104.0 117.3 108.8 88.2 102.3 104.5 0.8 7.3 0.8 9.7 0    
昭和35B 84.1 12.5 98.2 53.0 102.2 104.4 0 4.7 6.3 7.8 2.6    
昭和36 137.5 137.5 128.8 100.8 91.9 102.2 0 0 0 11.1 0.7    
平均 104.3 110.8 103.9 81.3 103.1 104.2 0.3 4.3 1.8 4.5 2.0    
昭和33B 移植 81.1 83.6 102.6 57.9 95.7 98.9 1.5 0 2.3 1.5 0 92.7 98.6
昭和34B 102.2 112.4 108.1 94.4 106.2 117.1 0 5.6 0.3 2.8 0.3 128.0 1202
昭和35B 88.2 96.7 95.3 74.0 102.9 117.9 0 4.1 1.6 7.0 0.4 119.6 120.7
平均 90.8 97.6 102.0 75.4 104.9 111.3 0.5 3.2 1.4 3.8 0.2 113.4 113.2

l






l

昭和32 直播
昭和33A
昭和33B
昭和34A 137.4 141.8 135.4 25.3 11.4 106.5 0 1.3 7.4 0.7 0    
昭和34B
昭和35A 136.4 122.5 121.4 83.9 113.1 101.8 0 3.2 0 0 1.6     
昭和35B 93.9 108.0 111.6 43.6 109.6 99.1 0 1.2 11.0 3.9 0.8    
昭和36 115.8 135.0 116.9 88.0 93.2 87.1 0 0 1.4 18.0 3.5    
平均 120.9 126.8 121.3 60.9 106.8 98.6 0.0 1.4 5.0 5.7 1.5    
昭和33B 移植    
昭和34B    
昭和35B 108.1 109.2 110.7 79.3 115.0 112.3 0 2.1 0.9 1.6 0.9    
平均 108.1 109.2 110.7 79.3 115.0 112.3 0 2.1 0.9 1.6 0.9    

l

l



l


l
昭和32 直播 92.8 101.5 97.6 94.9 96.4 100.0 0 4.9 3.5 14.4 1.3    
昭和33A 88.2 92.5 85.9 57.9 101.5 119.0 0.7 2.8 3.5 7.0 2.1    
昭和33B 122.6 102.7 106.0 71.7 108.4 109.6 0 0.8 6.9 0 3.8    
昭和34A 80.8 89.7 94.3 92.6 94.2 103.7 0 6.8 6.1 0 0.8    
昭和34B
昭和35A 101.1 94.1 94.8 82.2 107.3 102.7 1.6 5.7 0 0 0.8    
昭和35B
昭和36 141.3 144.9 142.5 89.2 98.4 93.6 0 0.7 2.8 12.1 5.6    
平均 104.4 104.2 103.5 81.4 101.0 104.8 0.4 3.6 3.8 5.6 2.4    
昭和33B 移植 103.9 102.8 126.7 62.4 97.1 105.5 0 0 1.5 1.5 1.5 146.0 132.3
昭和34B  
昭和35B    
平均 103.9 102.8 126.7 62.4 97.1 105.5 0 0 1.5 1.5 1.5 146.0 132.3
札幌黄

H
A

昭和32 直播 100 100 100 100 100 100 0 0.7 4.2 3.2 2.8    
昭和33A 100 100 100 100 100 100 0 0 0 5.0 3.6    
昭和33B 100 100 100 100 100 100 0 0 2.2 0 5.9    
昭和34A 100 100 100 100 100 100 0.7 1.4 1.4 0 3.5     
昭和34B 100 100 100 100 100 100 0 1.9 0 10.9 2.5     
昭和35A 100 100 100 100 100 100 0 5.8 0 5.0 1.7    
昭和35B 100 100 100 100 100 100 0 1.5 2.2 1.1 2.6    
昭和36 100 100 100 100 100 100 0 0 1.5 7.4 7.4    
平均 100 100 100 100 100 100 0.1 1.4 1.4 4.1 3.8    
昭和33B 移植 100 100 100 100 100 100 0.6 0 2.4 1.8 0.6 138.4 110.7
昭和34B 100 100 100 100 100 100 0 0 0 0.8 0.3 120.6 116.4
昭和35B 100 100 100 100 100 100 0 0.8 0 7.5 0 114.0 124.5
平均 100 100 100 100 100 100 0.2 0.3 0.8 3.4 0.3 124.3 117.2

4. 生産力検定試験
 生産力検定試験は昭和36年度より1年限りであるが、アンコールとゴールデン・ビューティにつき行った。
 1区 4.125㎡  4反覆
試験法 品種名 規格内収量(g) 一球重
(g)
総収量
(g)
欠株率
(%)
屑球
(%)
色変り
(%)
青立
(%)
不整形
(%)
腐敗
(%)
7月22日 8月17日
総葉数
(枚)
草丈
(cm)
倒伏率
(%)
抽苔
(%)
直播 アンコール 14,558 139.0 16,798 0.43 0.43 0.20 1.05 0.23 10.33 9.09 61.23 50.85 0
ゴールデン・ビューティ 14,580 146.8 18,135 0.23 0.43 0.00 3.15 0.20 13.95 8.59 64.75 27.98 0
札幌HA黄系 13,550 128.8 15,030 3.98 0.43 0.20 0.20 0.43 7.68 8.41 60.78 90.70 0
移植 アンコール 17,015 172.5 19,268 5.00 0.20 0.00 0.00 0.40 13.00 8.80 71.30 81.95 0.20
ゴールデン・ビューティ 18,450 178.2 20,730 3.33 0.00 0.20 0.23 0.00 13.38 8.84 72.95 35.53 0.20
札幌黄HA系 15,945 156.3 17,038 7.93 0.45 0.23 0.00 0.00 6.85 8.66 69.13 92.30 0.00

5. 貯蔵試験
 不萌芽健全球率
   品種名 昭和32年度 昭和33年度 昭和34年度 昭和35年度
3月10日 5月10日 3月11日 5月7日 4月13日 5月17日 4月9日 5月8日
直播 アンコール 65 24 88 44 80 70 89 56
ゴールデン・ビューティ 62 88 60
アーリーイエローグローブ 29 9 58 0 75 36
札幌黄 50 5 54 4 83 36 78 36
移植 アンコール 89 59 64
ゴールデン・ビューティ 52
札幌黄 61 19 30
 F1は一般に貯蔵性高く、札幌黄より不良なものは特殊なもの(早出し用品種など)を除きほとんど見出されない。 アーリーイエロー、グローブは貯蔵性不良である。

6. 球の形状と変異
 (横径÷高さ)×100を指数として比較した。

品種名 栽培法 個体数 指数 標準偏差
アンコール 直播 96 109.0 11.74
ゴールデン・ビューティ 直播 93 107.6 10.10
札幌黄(HA) 直播 99 114.7 10.24
アンコール 移植 98 107.9 14.26
ゴールデン・ビューティ 移植 95 106.9 11.12
札幌黄(HA) 移植 93 115.4 13.51

7. 概評
(1) アンコール (Encore;B2129A×B2215C)
 アーリー・イエロー・グローブ型 F1
 生育旺盛で多収である。耐病性は札幌黄より幾分強い。貯蔵性は高い。皮色、むけ具合、皮の厚さなどは札幌黄と類似している。欠点はやや腰高なこと、F1としては不整形球がやや多く、揃いが充分でないこと、年により腐敗が多く出ることがある。 
 輸入種としては比較的早生で、倒伏期は直播の場合在来系よりも一週間程度遅い。移植増収率はあまり高くないが、晩生であるので移植栽培の方が安全である。然し直播にも使用できる。抽苔性がやや高い疑いがあるので、極端な早播(3月前半)はさけ、生育後期には薬剤撒布を入念に行って腐敗を防止すべきである。
(2) ゴールデン・ビューティ Golden Beauty; B2133A×B12132B)
 イエロー・スイート・スパニッシュ型 F1
 生育きわめて旺盛で多収である。貯蔵性も高い。やや腰高であるが揃いは非常によい。食味は甘みが強い。生育末期には耐病性やや弱く、とくにコクハン病にやや弱い。皮は薄く、皮色は淡色である。 多収の年は腐敗しやすい。きわめて晩生で直播の場合、倒伏期は在来系より10日以上遅れる。昭和37年度は倒伏せず青立になった圃場があった。晩生過ぎて直播では特性を発揮し得ず、移植増収率は相当高い。移植栽培専用とすべきであろう。
 このF1も抽苔性がやや高い疑いがあるので、極端な早播はさけ、腐敗を防ぐ対策が必要である。
(3) アーリー・イエロー・グローブ
 普通品種
 米国の普通品種としては最も多収性を示す品種である。普通品種としては、不良球少なく、休憩も腰高すぎず、皮の色厚さなども札幌黄に似ている。
 当場で供試したのは Idaho州のCrookham Co.の種子で、優秀な系統と認められるが、系統による変異も恐らく、かなり存在するものと思われる。年により変異も大きく、収量はやや不安定である。貯蔵性は不良で、貯蔵期間は札幌黄よりも1ヵ月くらい短い物と推察される。倒伏期はアンコールと同程度であるが、相当の変異(系統・年)を見込まねばならない。移植栽培の適応性については試験度数が少ないが、恐らく移植に適する品種であろう。然し直播にも使用できる。これも腐敗がやや多い傾向があるから注意が必要である。貯蔵性が不良なので、なるべく早期に出荷するように注意すべきである。