畑作経営における借地型規模拡大の経済性
【 要約 】 農地の賃貸は売却にいたる過渡的形態として拡大する方向にある。借地による規模拡 大が経済的に成り立つためには、借地の近距離・団地化、長期の賃貸契約に加えて、小 規模経営への優先的あっせん、労働力の確保、高齢者農家保有農地の土地改良、地代 水準の見直しが必要である。
北海道立十勝農業試験場・研究部・経営科連絡先 0155-62-2431
部会名農村計画(農業経営)専門経営 対象畑作分類指導

【 背景・ねらい 】
 ウルグァイ・ラウンドが合意され、畑作物価格は今後抑制的に推移するとみられる。このため、畑作経営は収益性を改善するための行動を早急にとらなければならない。その対策の1つとして、経営規模の拡大が想定される。しかし、農地の拡大を購入でおこなうならば莫大な資金を必要とし、新たな負債問題を発生させる可能性が高い。ここでは、農地賃貸借の存立構造と借地による規模拡大の経済性を明らかにして、畑作経営の規模拡大の条件を示した。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 畑作地帯では経営規模の拡大が進み、農地拡大手段として、有償による権利移動は減 少し、賃借権の設定による借地が増加する傾向にある。法手続きを踏まないものを考 慮すると、借地が農地移動の過半を占めるようになった。
  2. 農地供給者は、負債整理による離農者の比率が減り、高齢者農家、及び早めに経営を 見切って転職する農家が多くなった。後2者は、農地を一時にすべて売却する必要性 が小さい。特に後継者のいない高齢者農家は今後も増加傾向にあるため、借地の供給 基盤は拡大する方向にあり、借地は農地の売買にいたる過渡的な形態として存続する とみられる。
  3. しかし、貸し出される農地には、次の2つの問題が認められた。
     第一は、単収の低い地区の農地供給量が高単収の地区より多く、この地域的な需給の 不均衡が通い作を生じさせ、借地の距離の問題を発生させている。
     第二は、借入当初から借地の単収水準が低いという問題である。これは第一の問題= 地区間の単収差に起因するばかりでなく、同一地区においても高齢者農家の提供する 貸し地の単収水準が多くの場合、低いことからも生じている。これらに対して、土地 改良の実施や堆肥の増投といった地力増進策が取られるのは、長期の賃貸条件にある ものに限られる。
  4. 借地の距離によって生ずる移動時間およびコストを算出した結果、食・加工用馬鈴し ょが両者ともに最大であった(表1)。畑作4品の輪作を前提にすると、5haの借地では 距離1km当たり約 6,950円、10km離れた借地では 1,390円/10aのコスト高であった。
     5.35ha、45haの2つの経営規模によって、借地の地代負担力を計測した(表2)。その 結果、地代負担力を高めるには、規模の小さい経営に対する優先的な借地のあっせん 規模拡大にともなう労働力の調達、単収水準の高い借地の確保が必要になる。これら から、借地で所有地並みの所得を畑作経営が上げていくには、貸し地が予定される農 地=高齢者農家保有農地の事前の土地改良、長期の賃貸契約、地代水準の下方見直し 労働力利用の改革といった経営の外部条件の整備が不可欠である。

【 成果の活用面・留意点 】
 畑作の限界地を対象にしており、野菜の導入は考慮されていない。

【 具体的データ 】


     表1   離れ地への作物別移動時間とコスト
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        通いの のべ   往 復 回 数
               ------------------------ 移動時間 所要費用
        日数 人日数 トラクタ トラック 乗用車
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         日  人日   回   回    回   分    円
 小   麦   19  37   17   19    −  2,100  41,650
 て ん 菜   29  60   21   16    14  3,340  63,982
 ばれいしょ
 食・加工    46  126   21   26    20  5,640  105,869
 でん原用    34  58   19   24    4  2,760  54,866
 小   豆   29  61   16   13    9  3,640  66,909
 菜   豆   28  57   15   13    8  3,600  66,149
 スィートコーン  8  12    9    3    −   660  12,502
 緑   肥    9  14    9    5    −   740  14,407
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 注 1)移動時間は、10kmの離れ地=5haを対象に計算。
   2)10kmの所要時間は、トラクタで30、40、50分の3段階、トラックおよび乗
    用車は20分とした。
   3)所要費用は、移動労働時間(時間当たり1,000円)と燃料・オイル代。

   表2  10a当たり限界土地純収益
  <5haの借地>            (単位:円/10a)
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  利用   35ha→40ha    45ha→50ha
  する    単 収 水 準      単 収 水 準
  労働力  標 準 10%減 20%減  標 準 10%減  20%減
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   3人  21,240 14,900  8,560   7,320  3,260   380
   4人  22,380 16,080 10,400  23,180 16,860  10,540
   5人  30,500 22,660 15,200  20,780 14,500  8,940
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  <10haの借地>           (単位:円/10a)
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  利用   35ha→45ha    45ha→55ha
  する   単 収 水 準      単 収 水 準
  労働力  標 準 10%減 20%減  標 準 10%減 20%減
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   3人  14,880 10,410  5,370   7,870  3,140   360
   4人  23,190 16,820 10,770  20,710 14,630  8,470
   5人  29,280 21,500 14,210  22,380 16,020  10,160
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  注 1)線形計画によるシミュレーション結果
     2)限界土地純収益=(△プロセス純収益−△労働費)/借地面積

【 その他 】

研究課題名:畑作経営における借地型規模拡大の展開条件
予算区分 :道単
研究期間 :平成5年度(平成2〜5年)
研究担当者:坂本洋一、岡田直樹、三好英実*、西村直樹* *:現 中央農試
発表論文等:坂本洋一:畑作経営における借地型規模拡大の展開条件、
      十勝農試研究部経営科研究成績書、1994.

        「平成6年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.513