湛水直播水稲に対する合理的施肥法
【 要約 】 北海道における湛水直播水稲の窒素施肥は、移植水稲を対象とした施肥標準並みの8〜10kg/10aが適量であり、基肥6〜8kg/10a+4〜5葉期2kg/10a分施とする。省力化を目指す場合は全量基肥とし、40〜50日(25℃換算)溶出タイプの被覆尿素肥料を2〜3kg/10a相当配合する。りん酸、加里の施肥適量は移植水稲より2kg/10a多い。
北海道立上川農業試験場・研究部・土壌肥料科,
水稲栽培科
北海道立中央農業試験場・稲作部・栽培第一科
連絡先 0166-85-2200
部会名 生産環境 専門 肥料 対象 稲類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 湛水直播栽培法は育苗・移植作業の軽減に有効であるが、北海道においては、これまで施肥に関する検討が十分なされていない。北海道における湛水直播水稲の生育目標を策定するとともに、合理的な施肥法を確立し、直播栽培の安定化を図る。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 湛水直播水稲の乾物生産は移植水稲に比べ、生育の初期に著しく劣るものの、生育中〜後期で旺盛となる。窒素、りん酸、加里、けい酸の養分吸収量も、初期に少なく推移するが、生育中〜後期に著しく増加し、成熟期には移植水稲より多くなる(図1)。このため、生育初期の吸収を促進する必要があり、湛水直播水稲に対するりん酸および加里の施肥適量は、移植水稲向けの施肥標準量より2kg/10a多い。
  2. 初期生育不良地帯の稲作部では総籾数40,000粒/m2で、良地帯の上川農試では総籾数が多いほどそれぞれ高い収量を示すが、登熟歩合75%以上、倒伏程度1.0未満の安定生産を目的とした最適総籾数は35,000粒/m2であり、窒素施肥量は稲作部で8.1kgN/10a、上川農試で9.4kgN/10aである(表1)。湛水直播水稲の最適施肥窒素量は移植水稲向けの施肥標準量並みの8〜10kgN/10aであり、苗立ち数および品種間で差がない。
  3. 窒素の分施が有効で、稲作部では分施時期が後期になるほど増収し、上川農試では5葉期で収量が高い。両場とも、幼穂形成期で倒伏程度が増し、止葉期で蛋白含有率が高まるため、4〜5葉期が分施の適期である(表2)。
  4. 基肥窒素に40〜50日(25℃換算)溶出タイプの緩効性窒素肥料を配合すると、全量速効性窒素肥料区に比べ、平成8年を除く3カ年で増収効果が認められる(表3)。
  5. 初期生育を促進し適正な生育、養分吸収、収量を確保するための目標を表4のように設定する。

【 成果の活用面・留意点 】
 この成果は「きたいぶき」、「ゆきまる」の湛水直播(散播)に適用する。

 平成8年度北海道農業試験会議における課題名及び区分
 課題名:湛水直播水稲に対する合理的施肥法(指導参考)

【 その他 】

研究課題名:低コスト稲作総合技術開発 低コスト湛水直播栽培法の確立
予算区分 :道費
研究期間 :平成8年度(平成5〜10年)
研究担当者:三浦 周・田中英彦・五十嵐俊成・稲津 脩
発表論文等:湛水直播水稲の窒素施肥反応、1996年度土肥学会北海道支部講要集、1996

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.248