乳牛の糞尿量および糞尿窒素量の低減
【 要約 】  乳牛の糞尿量は初産牛、経産牛各々49.6、64.3kg/日、糞尿窒素量は225、289g/日である。糞量は繊維摂取量と、糞窒素量はCP摂取量と各々正の相関があり、尿量および尿窒素量はTDN/CP比と負の相関がある。また、飼料中の窒素およびアミノ酸バランスを保つことより、尿窒素量はかなり低減される。
北海道立根釧農業試験場・研究部・酪農第一科 連絡先 01537-2-2004
部会名 畜産・草地(畜産) 専門 動物栄養 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 乳牛の糞尿利用・処理施設の設置にあたり、基準となる糞尿量のデータが少ないことから、根釧農業試験場で実施した出納試験のデータをもとに、糞尿量および糞尿窒素量を明らかにするとともに、それらの低減を図るための飼料的要因を検討する。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 乳牛の糞尿量および糞尿窒素量
    方法:供試牛は初産牛128頭、経産牛131頭を用い、牧草サイレージ主体飼養の自由採食で出納試験を行い、予備期17日間、本期4日間とする。給与飼料はCP含量が初産牛・経産牛各々16.6、15.5%、TDN含量が70.0、71.5%、乾物摂取量は各々15.5、20.9kg/日である。
    1. 糞量は初産牛、経産牛の平均で各々35.8、51.4kg/日、糞窒素量は146、179g/日である(表1)。糞量はNDF摂取量と正の相関があり、良質粗飼料の給与などでNDF摂取量を下げることにより糞量は低減できる。また、糞窒素量はCP摂取量と正の相関がある。(表2)
    2. 尿量は初産牛、経産牛の平均で各々13.8、13.0kg/日、尿窒素量は78、110g/日であり、各々TDN/CP比と負の相関がある(表1、2)。また、尿量は尿窒素量とも相関(初産牛、経産牛各々 r=0.65、0.78、P<0.001)がみられることから、飼料中の蛋白質とエネルギーのバランスを保つことにより、尿量および尿窒素量は低減できる。
  2. 飼料蛋白質の効率的利用による糞尿窒素量の低減
    方法:供試飼料は牧草サイレージ主体の混合飼料(粗濃比55:45)で、CP含量13、15、17%の3水準設け、CP13、15%区にはアミノ酸バランスを考慮して魚粉を2%給与する。供試牛は泌乳中期の経産牛6頭を用い、1期3週間の32ラテン方格法で窒素出納試験を実施する。
    1. 乳量、乳蛋白質量、糞尿量および糞窒素量は処理間に差がなく、尿窒素量は各区各々69、98、125g/日と有意差がみられることから、飼料中の窒素およびアミノ酸バランスを保つとにより、乳生産を低下させずに尿窒素量は低減できる(表3)。
    2. 乳中と血中の尿素窒素の相関は高く(r=0.97)、飼料中CP含量を反映する。また、それらは尿窒素量とも有意な相関がみられ、尿窒素量低減の指標として有用である。

【 成果の活用面・留意点 】

  1. 糞尿量および糞尿窒素量は、乳量水準および飼料構成などにより異なることを考慮する。
  2. アミノ酸レベルでの飼料設計は、まだ研究段階と考えられる。
平成8年度北海道農業試験会議における課題名及び区分
課題名:乳牛の糞尿量および糞尿窒素量の低減(指導参考)

【具体的データ】

表1.初産牛・経産牛における乳量、体重、乾物摂取量、糞尿量および窒素出納
乳期頭数乳量体重乾物摂取量糞尿量窒素出納
尿摂取N糞N尿N乳N蓄積N
初産牛前期5126.7A527A15.9A34.712.1A431A152A76AB124A79
中期4122.5B548AB15.3AB36.913.6A405AB147AB72A108B78
後期3618.8C567B15.3B36.016.4B391B138B90B94C69
全乳期12823.154515.535.813.84111467811076
経産牛前期5537.6A65022.5A50.713.4574A196A115179A84
中期3629.0B65620.1B51.113.0497B174B117148B58
後期4025.5C67819.4B52.512.4463B161B97130C74
全乳期13131.566020.951.413.051917911015674
注)異文字間に有意差あり(P<0.01)

表2.経産牛における糞尿量および糞尿窒素量に及ぼす要因との相関係数
泌乳成績体重飼料摂取量
乳量蛋白質量体重MBS乾物CPTDNNDFADFTDN/CP
糞尿量 0.110.100.130.13**0.340.140.19**0.58**0.510.07
尿0.200.140.010.02*0.26**0.450.090.150.12**-0.58
窒素量 **0.65**0.63-0.12-0.12**0.69**0.77**0.58*0.250.17**-0.33
尿*0.250.220.170.17**0.30**0.570.14-0.02-0.20**-0.65
注)左肩の印は有意差を示す( *:P<0.01 、**:P<0.001)

表3.糞尿窒素量低減試験の乳量、乾物摂取量、糞尿量、窒素出納および血液成分
区分乳量乾物摂取量糞尿量窒素出納尿素窒素血清アミノ酸
尿摂取N糞N尿N乳N蓄積N血液メチオニンリジン
CP13%区29.520.652.810.5435a16169a15054a7.3a8.7a2.448.18
CP15%区30.320.954.611.5503b17498b15774a10.6b12.0b2.248.05
CP17%区30.521.555.213.2573c171125c154124b15.2c15.5c1.997.08
注)異文字間に有意差あり(P<0.05)

【 その他 】

研究課題名:環境保全型飼養技術の確立 1.糞尿窒素量の低減技術の確立
予算区分 :道 費
研究期間 :平成6〜8年度
研究担当者:扇勉・峰崎康裕・西村和行・糟谷広高・藤田眞美子・小倉紀美
発表論文等:第92回日本畜産学会大会

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.319