大規模酪農経営におけるフリーストール飼養体系の導入段階での経営不安定要因
【 要約 】 根釧地域の実態調査から、新たにフリーストール牛舎を導入した大規模酪農経営では、繁殖率の低下や疾病の発生により、牛舎への乳牛の収容率が低いため生乳生産量が一気に増加せず、経営の大きな不安定要因となっていることが明らかになった。経産牛100頭を越える規模拡大を行う場合には年間の飼養管理労働が6,000時間に達するため、3名の労働力確保が必要である。
北海道立根釧農業試験場・研究部・経営科 連絡先 01537-2-2004
部会名 総合研究(農業経営) 専門 経営 対象 家畜類 分類 指導

【 背景・ねらい 】
 近年、酪農経営の規模拡大とともにフリーストール牛舎の導入が進んでいる。しかし、技術的には個体管理から群管理飼養技術の確立が求められていることや、経営的にも省力性、収益性など検討すべき課題が多い。また、導入後の経営が必ずしも順調ではないことから、大規模酪農経営の移行初期段階での経営不安定性の要因とその実態を解明する。

【 成果の内容・特徴 】

  1. 根釧地域の47戸の実態調査から、新たにフリーストール牛舎を導入した酪農経営では牛舎への乳牛の収容率(牛床数に対する経産牛頭数)が低く、5年目においてもまだ生産体制を整えていることが明らかになった。このため生乳生産量は一気に増加せず経営の大きな不安定要因となっている(図1)。これは頭数拡大が自家増殖により行われることから増頭に期間を要することや繁殖の低下や疾病の発生などが問題となり(図2)、高い産次数の乳牛を中心に淘汰されることが平均産次数低下(2.9産→2.6産)に結びついている(表1)。したがって、移行後の収入を確保するには事前の準備が求められる。また、乳牛償却費の低下などを図るために、移行時に産次数を低下させないような対応が必要である。なお、大規模フリーストール経営ではスタンチョン飼養に比べて1頭当たりの草地面積が少ない傾向が見られる(図3)。草地不足は飼料購入や家畜糞尿問題に繋がることから規模拡大時には余裕のある草地の確保が求められる。
  2. フリーストール牛舎導入により1頭当たり労働時間が減少するため従事者1人当たりの飼養可能頭数は増加する。しかし、経産牛が100頭を越えると年間飼養管理労働が6,000時間に達するため、基幹的従事者が2人の場合には労働過重が懸念される。経産牛100頭を越える場合には農業従事者数が3人から4人必要となり労働力の確保が求められる。
  3. 50頭から100頭規模へと規模拡大しらA経営をモデルに、フリーストール牛舎導入に伴う経営問題を整理した。投資額はこれまでのところ追加投資を含めて9,000万円弱であるが補助額を含めると1億円を超えていた。農業所得は移行後4〜5年でも800万円程度と少なく移行後は経営が不安定であることが確認された(表2)。所得水準が低いのは生乳生産量が十分でないことや追加投資などによる償却負担の増加のためである。

【 成果の活用面・留意点 】
 フリーストール牛舎導入に際しては事前に十分な経営計画が必要である。また、50頭規模から100頭規模に頭数拡大を行った場合であることに留意する必要がある。

平成8年度北海道農業試験会議成績会議における課題名および区分
課題名:大規模酪農経営におけるフリーストール飼養体系の導入条件の解明(指導参考)

【 具体的データ 】
表1 経産牛増加の動き(単位:%、括弧内:頭)
A経営根室平均
年度始加入率除籍率加入率除籍率
h357頭42(24)37(21)
h46057(34)25(15)
h57927(21)33(26)26.127.5
h67435(26)28(21)27.926.6
h77938(30)28(22)27.924.5
 注)乳検成績より

表2 A経営の経営成果
総額(千円)1kg当生産費(円)
h6h7h6h7
労働費8,1098,7219.610.1
種付料1,0031,3161.21.5
飼料費21,96823,4342627
乳牛償却費2,6184,5103.15.2
建物費5,4574,6876.55.4
農機具費8,0058,1289.59.4
生産管理費7573420.90.4
その他15,30915,6111818
費用合計63,22466,7507578
副産物価額3,2823,34544
生産費59,94263,40671.273.7
支払利子・地代3,1842,6213429
自己資本利子・地代1,1051,1051412
生産費総額64,32970,47676.481.9
農業粗収入63,35465,36075.375.9
農業所得8,3367,4429.98.6

【 その他 】

研究課題名:大規模土地利用型酪農における省力的群管理技術の開発
予算区分:国補(地域基幹)
研究期間:平成8年度(平成6〜8年)
研究担当者:金子 剛
発表論文等:なし

        「平成9年度普及奨励ならびに指導参考事項」 P.361