天北地域における放牧導入割合別経営モデルの策定と経営経済的評価
[要約]放牧導入割合が高くなるにつれて牧草サイレ−ジと敷草の調製量および糞・尿の舎内産出量が著しく減少し、労働時間も減少する。また、放牧草は高栄養であるために安価な濃厚飼料を利用できることや粗飼料調製の費用も節減できるので所得金額は増加し、所得率は向上する。
北海道立天北農業試験場・研究部・草地飼料科 連絡先 01634-2-2111
部会名 総合研究(農業経営) 専門 経 営 対象 家畜類 分類 指 導

[背景・ねらい]
 天北地域は放牧に適した立地条件にあり、ペレニアルライグラス放牧草地の集約利用技術や季節分娩・集約放牧組合せ乳牛飼養技術、高泌乳牛の放牧技術指標などについて明らかにされている。しかし、そのような技術を導入した場合の草地、施設、機械の適正な組合せや放牧の導入が労働時間や経営経済的成果に及ぼす影響についての体系的な検討はほとんどなされておらず、これらについての究明が要望されていた。

[成果の内容・特徴]
1.天北地域における酪農家1戸当たりの放牧地および兼用地の面積は、それぞれ9.4ha、 3.6haであり、全草地面積の19%、7%を占めている。放牧導入割合の高い酪農家(大区) は、経産牛の放牧なし(0区)の酪農家に比べて、夏期間の経産牛および育成牛の飼養 管理労働時間が少なく、粗収益はやや少ないが費用(飼料費等)も少ないために、所得 金額および所得率は高くなる(表1)。しかし、同じ放牧依存率でも酪農家間の経営成 果の差異は大きい。

2.策定した経営モデルにおいて、放牧導入割合が高くなるにつれて牧草サイレ−ジおよ び敷草の調製・利用量、および処理を必要とする糞および尿の舎内産出量は著しく減少し、また放牧草は高栄養であるために併給する配合飼料の粗蛋白質の含量を低下させ、ビ-トパルプの給与量を増加することができる。各モデルの放牧依存率(年間)は、放牧 導入割合0、小、中、大および大(季節繁殖)区で、それぞれ10、18、25、33および37%と なり、飼料自給率は68%から71%の範囲にある(表2)。

3.経営モデル5タイプにおいて、労働時間では放牧導入割合0区が最も多く、年間合計5, 547時間となり、放牧導入割合が高くなるにつれて減少し、大(季節繁殖)区が最も少なく、0区に比べて638時間減少した(表3)。
 また、各モデルの粗収益は同じであるが、放牧導入割合が高くなるにつれて費用のうち、飼料費、機械の減価償却費と修理費、諸材料費(牧草サイレ−ジ調製用等)などが 減少したために所得金額および所得率は増加し、自家労働1時間当たりの所得金額も増 加する(表3)。

以上、天北地域の酪農経営において放牧導入割合を高めることは、労働時間の短縮お よび経営経済的な見地からみて、有効である。

[成果の活用面と留意点]
 経営条件は酪農家間で大きく異なるので、放牧導入の効果については、経営体個々について検討が必要である。

平成9年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分
課題名:天北地域における放牧導入割合別経営モデルの策定と経営経済的評価(指導参考)

[具体的データ]

表1 調査酪農家の経営概況と経営成果 (1戸当たり、1頭当たり)

放牧導
入割合
農業従
事者 
草地 
 面積
飼養頭数出荷 
 乳量
放牧 
 時間
飼養管理労働時間粗収益費 用所得 
 金額
所得率
経産牛育成牛
飼料給与 合計  合計 
(人)(ha)(経産牛)(t/年) −(時間/頭・日)−(千円/経産牛頭・年)(%)
2.8625038800.1070.2850.08076167117122.2
2.8525041070.0580.2500.07176764423230.0
2.8564435180.0730.2210.09078465222628.9
3.05341314180.0490.2150.03373259822430.4
 注1)調査酪農家の放牧導入割合0区は「経産牛の放牧なし」であり、小、中および大 区はいずれも「経産牛の放牧あり」で、成牛換算1頭当たりの補正放牧地面積の 多少(0.20ha以下、0.21〜0.30haおよび0.31ha以上)により区分した。
  2)調査戸数は、放牧導入割合順に4、5、4および5戸(労働時間調査については、それぞれ 3、1、1および4戸、夏期間の調査値)であった。
  3)所得金額には、乳牛繰入れ評価額の増減などを含む。

表2 策定した経営モデルの概要 (1戸当たり、1頭当たり)

放牧導
入割合
草地 
 面積
放牧草
給与量
濃厚給与量利用・調整量放牧
依存率
舎内産出量試算 
 合計
ビートP 合計 放牧草牧草S敷 草 糞  尿 
(ha)(乾物kg/頭・日)(乾物t/年)−(乾物t/年)−(%)(原料t/年)(千円)
60.601511744278231088826273,280
61.541911777245231882324472,845
61.5823116111212182575822771,900
61.91226116145178163352416468,662

(季節繁殖)
63.51229108164168153747514669,322
 注1)経営モデルの放牧導入割合は泌乳牛に対する放牧草の給与量により区分した。
  2)放牧草給与量は泌乳牛に対する給与量を示す。
  3)1戸当たりの飼養頭数は経産牛50頭、育成牛40頭とし、草地面積は変動とした。
  4)放牧依存率は「(放牧草給与TDN量/給与全TDN量)×100」を示す。
  5)牧草S:牧草サイレ−ジ、ビ-トP:ビ-トパルプ

表3 策定した経営モデルの経営経済的評価 (1戸当たり、1時間当たり)

放牧導
入割合
労働時間費 用所 得
乳牛 
 飼養
飼料 
 調製
合 計飼料費減価
償却費
修理費諸材 
 料費
合 計金 額 率 1時間
当たり
(時間/年)(0区に対する差額、千円/年)(千円/年)(%)(千円)
4,8116805,5476,8753,9711,91939927,3208,39023.51.5
4,6876545,393-177-37-13-44-3928,78224.61.7
4,5266175,190-341-81-28-91-8759,26525.91.8
4,4135785,024-506-469-298-137-2,01710,40629.12.1

(季節繁殖)
4,2945854,909-957-479-303-152-2,47210,86230.42.3
 注1)費用の0区の金額は実数を、その他の区は0区との差額(増減)を示す。
  2)1時間当たりの所得は「自家労働1時間当たりの所得」を示す。
  3)減価償却費および修理費は飼料部門(機械等)の費用を示す。

[その他]
研究課題名:ゆとりある酪農経営をめざした放牧による低コスト生乳生産の体系化
予算区分:国費補助
研究期間:平成9年度(平成7年〜9年)
研究担当者:坂東 健、佐竹芳世、石田 亨(現道南農試専技室)、中村克己
論文発表: