生態系に配慮した自然石護岸排水路の環境変化
[要約]自然石を用いた排水路では、淵におけるアメマスの生息密度が瀬の4〜6倍大き
く、河床の粗砂の部分に貝の生息が多く、河畔の植生は整備後帰化植物を中心に遷移する。
北海道立中央農業試験場・農業土木部・農村環境科連絡先01238-9-2001(284)
部会名総合研究(農業物理)専門用排水対象農業工学分類指導
[背景・ねらい]
農村環境を保全するため生態系に配慮した排水路の整備が試行錯誤的に進められており、
計画整備手法の確立が必要とされているので、自然石を用いた排水路において、水温・魚や
貝の生息環境・植生の変化を調査し、今後の排水路整備に関する基礎的知見を得ることを目
的にする。
[成果の内容・特徴]
1.排水路の整備においては河畔林の伐採が伴う。河畔林が残っている区間の水温差(0.8
℃)は、伐られた区間の水温差(1.9℃)の半分以下である。さらに、上流区間の平成7年
と8年の結果より、河畔林を伐る前の水温差はO.8℃で、伐った後は3.7℃になる(表
1).これより河畔林は水温抑制効果がある。水温の過剰な上昇は魚類の生息に悪影書を与え
るため、排水路整備に関しては河畔林を極力残すか、植栽することが望まれる。
2.アメマスの淵における生息密度が、瀬に比べて4〜6倍大きくなる(図2)。よって、
整備においては落差工を設置することは、淵が形成されるため有効である。
3.カワシンジュガイは、河床の土砂の粒径により生息数が変わり、粒径加積曲線で50%通
過する粒径であるD50がO.42〜2.0m(粗砂)の場合に生息が多い(図3)。これよ
り、貝の生息が確認される排水路においては、河床が粗砂で構成されるような工法が必要であ
り、また、生息場所を設置する場合は、粗砂を河床材料に用いることが望ましい。
4.植生を草高で比較すると、施工後(H8年)のほうが施工前(H7年)より、調査時期
が1ヶ月程遅いのにも関わらず小さいため、施工の影響が見られる。また、出現率の多い
(10%以上)植物のうち帰化率を求めると、平成7年が8%、平成8年が40%になり、帰
化植物を中心とした推移が見られる。
[成果の活用面・留意点]
1.本情報は、生態系に配慮した排水路の計画・整備における参考知見になるが、事前調査に
おいては、①河畔林の被覆状況、②生物の生態、③瀬と淵の個数と形態、④校生の種類と生息
場所などの調査項目が必要である。
2.本情報は、3年間という短期間の一事例の試験から引き出された結論であるから適用範囲
には制限がある。しかし、計画・整備における参考知見として、また受益業家に対する説明資
料として有益である。今後、同様のデータを蓄積し、知見の普通化を図る必要がある。
平成9年度北海道換業試験会議成績会議における課題名および区分
課題名:生物の生息環境を考慮した排水路整備手法(指導参考)
[その他]
研究課題名:生態系に配慮した排水路の整備計画手法の開発
予算区分:道費
研究期間:平成9年度(平成7〜9年)
研究担当者:山田雅彦・寺元信幸・長谷川昇司
発表論文等:なし