作物群落の炭酸ガス固定量長期測定システム
北海道開発局開発土木研究所
1.試験目的
圃場での炭酸ガス交換量(作物の光合成による固定等)の観測は、作物生育管理に重要な情報を与えると同時に、農地利用割合の大きい北海道では・地域環境評価に必須な項目となりつつある。従来の観測は、現地に観測員が張り付いて・しかも限られた短期間の観測しかできなかったが、新しい測定システムを開発したことから、作物の生育期間を通して、無人でかつ精度良く炭酸ガス交換量を計測できるようになった。
この測定システムにより、露地作物が受ける水分ストレスや温度(高温)ストレスなど解明でき、野菜作物等の生育管理技術の向上に資するものと考える。
2.試験方法
(1)地上部2標準位置(群落上と地表より2.2mの位置)の空気の吸入を自動的に切替え、1台のCO、濃度計で、安価で精度良く計測できるように図る。
(2)長期観測で生じる計測値のドリフトを較正するため、標準ガス(決まった濃度を示すガス)を毎日定時に吐出する機能を持たせ、長期間の測定を可能とする。
(3)降雨や露による水が測定回路に侵入するとトラブルの原因となる。水検出器付きタンクと吸入ポンプ停止機能を付加し、雨天時の計測トラブルを回避する。
(4)2高度の炭酸ガス濃度差等の算術情報を収録すると同時に、この情報を電話回線等によりどこからでも、いつでも得る事ができるようにする。
(5)長期間にわたって、マネージメントフリーとする。
図1に測定システムの概要を示す。システムてば、熱収支ボーエン化法により炭酸ガスの輸送係数(大気と耕地の上下での交換を表す係数)を算定し、これに計測した2高度間の炭酸ガス濃度差を乗じて、炭酸ガスプラックスを求める方法を採っている。
計測システムの概要
①熱収支計測関係
2高度の通風乾湿計、放射収支計、地中熱流量計等
②炭酸ガス計測関係
炭酸ガス濃度計、自動切替えサンプリング器
③通信、電源関係
この測定システムを更別村近傍のピート圃場(1996.1997年)と枝幸町近傍の牧草地(1996.1997年)および芽室町近傍のキャベツ畑(1997年)に設け、稼働性等を検証した。
3.試験成績
(1)システムの稼働性
ア 計測データの伝達方法について問題は無く・データの収録・回収は100%である。遠隔地のデータを無人で収録できる機能が確認できた。
イ 炭酸ガスの濃度計測において、炭酸ガス濃度(絶対値)の計測には問題が無い。
ウ 2標高の炭酸ガス濃度差の計測では・夜間や早朝てば不良なデータが含まれる零度は高いが、日中(06:00〜18:00)では安定して計測ができた。
(2)観測結果の特徴
ア 作物にストレスが生じていない場合では、日射量と炭酸ガスフラックスとの関係が下記の式で表現できる(図2)。
y=R/(a+b・R)一yo
ここにy:炭酸ガスフラックス(吸収を正値)・R:日射量、a,b:係数・作物の生長で経時的に決まる。y0:夜間のフラックス(絶対値(放出)でかつ平均値)
イ 水分ストレスや高温障害が生じた日では・作物の炭酸ガスフラックスの値は小さく(生長阻害が生じる)、
この日の気温や土壌水分張力を説明変数として、この炭酸ガス吸収量の低下を計算できる。
ウ ビートでは・炭酸ガス吸収量(固定量)と増重速度が線形な関係を示すことから、炭酸ガス固定量を基にした生長モデルを作成でき、生長過程の再現を行った(図3)。
4.試験結果および考察
(1)広い圃場での作物群落の炭酸ガス交換量を長期に観測できるシステムを開発した。
(2)この測定システムを使って、群落の光合成による炭酸ガス吸収量と生長量の関係、水分ストレス'気温
ストレスと炭酸ガス吸収の特徴解明、生育管理への応用が考えられる。
(3)特に水分ストレスと炭酸ガス吸収量の関係からは、潅水制御(管理)技術について多くの知見が今後・得られるものと判断する。
5.普及指導上の注意事項
(1)広い圃場(一辺が100m以上が望ましい)での計測法であることから、防風林などの影響が生じるその近傍での計測は避ける。
(2)現状で作付け幅が狭い野菜類では、風向きによる観測データの使い分けが必要となる。