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酪農試験場

時の話題:92の1

根釧農試 研究通信  創刊号

1992年11月発行)

**時の話題**

1.ウルグアイ・チリにおけるいも類遺伝資源の探索収集

馬鈴しょ科

農林水産省ジーンバンク事業「植物遺伝資源海外探索」に参加する機会が与えられ、かんしょ、ばれいしょの遺伝資源探索収集のため南米のウルグアイとチリへ3月に約1カ月間、長崎総農林試小村氏と出張した。

ウルグアイは日本の約半分の国土に約300万人しかおらず、首都モンテビデオにその約半分が住み、標高差500m以内の果てしなく広大な草原の国である。探索収集はラスブルハス試験場のカルロス氏とビラロ氏の案内で国内をほぼ一周する形で行った。この国のかんしょの栽培は少なく、食用として家庭菜園がほとんどであるが、ばれいしょは約2万haに栽培されている。収集は、かんしょは農家の家庭菜園から、ばれいしょは畑あるいは自生している道端と浜辺で行った。目的地までの行程は草原の中の国道を時速100~130kmでひたすら走り続け、道端に時折見る家屋、遥か彼方に牛の群れが見える景色ばかりであった。農家の生活は建物を見る限り豊かな暮らしをしているとは思われなかった。秋というのにまだまだ日差しは強く、戸外で涼を求めている姿があちこちでみられた。収集には一日600kmを走破することも珍しくなく、夜遅く宿に着く日もあった。地方の市街地の造りは必ず中心に教会と広場がありヨーロッパ的であった。収集に出発して2日目、サルト市のお祭りに遭遇し、サンバのリズムで踊るトラクタ引き荷台の女王、ビキニ姿、ピエロなどの行列に、これが有名なリオのカーニバルのミニ版かと思いながら貴重なものを見た思いがした。

チリは長さ約4,200km、幅約180kmと細長く、人口は約l,500万で首都サンチャゴに約3割が住み、北から砂漠、温暖、氷河地帯を有する国である。探索収集にはラプラチナ試験場のクビロス氏とJICA派遣の鈴木先生の協力を得た。この国のかんしょはサンチャゴ周辺と北のラセレナ周辺で栽培されているが、その面積は極少なく、消費は食用と菓子用である。一方、ばれいしょは主要作物であり、南のプエルトモント、チロエ島などの比較的涼しい地域では約8万ha栽培されている。消費は大部分が食用で一部フレンチフライなどの加工用である。収集は青空市場、収穫中の畑あるいは農家を訪ねていずれも珍しい在来種とした。特に、ばれいしょはチロエ島とその付近で野生種に近い様々な形をした在来種を収集することが出来た。また、ばれいしょの育種を行っているレムウエ試験場を訪問し、病害虫抵抗性を有する育成系統をいただいた。さらに、ばれいしょの野生種の保存で世界的に有名なヴルディビア市のアウストラル大学を訪問し、保存方法、育種方法などの説明をうけた。

チリでは旅行中残雪を頂く5,000m級の山々を眺望でき、ウルグアイとはまた異なった景色を堪能することが出来た。特に、アルゼンチンとの国境の標高3,000mのポルディジオでは、眼前の岩肌、紺碧の潮が実に美しく感動した。しかし、北からサンチャゴまでの極近くの小高い山々には水不足のため草木が枯れ、赤茶けた山肌が多くみられ、畑、果樹園では、ほとんどが潅漑による栽培であった。両国ともこの季節は果物も豊富でまた美味しく、特に、ウルグアイでは牛肉とビール、チリでは貝などの海産物とワインが印象的てあった。

今回の探索収集はかんしょ33塊根、ばれいしょ50塊茎を輸入した。言葉はスペイン語で全くわからなかったが多くの方々の協力のおかげで小生にとっては楽しい旅であった。