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酪農試験場

根釧農試研究通信:4号の3

根釧農試 研究通信  第4号

1994年3月発行)

研究成果

3.乳牛の飼料利用効率向上のための選抜指標

酪農第一科

1.試験のねらい

飼料中のエネルギ-を乳エネルギ-に変換する能力をより高める方向に選抜するための指標として、GEEに代わって乳エネルギ-に対す維持および産乳に要するエネルギ-の比が提案されましたが、この指標は体蓄積分が無視されています。しかも、最近の乳牛は糞中への損失・熱発生量に変化が少なく、乳生産への割合が増加し、メタンへの消失と体内への蓄積エネルギ-量が、低下していると指摘されています。すなわち、大型化及び高乳量などの資質改良にともないエネルギ-変換効果も変化しつつあると思われます。

そこで、本課題では体蓄積分を考慮したエネルギ-利用効率を表す、生産現場デ-タに適応可能な簡易指標を作出し、簡易指標のフィ-ルドへの活用の育種学的意義も明らかにしました。

2.簡易な飼料利用性指標の作出

エネルギ-出納を把握するため56頭の初産牛の3乳期(延べ156乳期)を用い、4~5日間の全糞尿採取法によりエネルギ-代謝試験を行いました。

摂取エネルギ-の利用性を把握するためにエネルギ-出納試験を行った結果は、泌乳前期(56頭平均)、泌乳中期(49頭平均)および泌乳後期(48頭平均)で、日平均DMI (乾物摂取量)は各々16.97、17.13および15.75㎏、日平均排糞量は各々5.23㎏、5.44および5.21㎏、日平均排尿量は各々11.84、13.37および16.13㎏、GE(総エネルギ-)消化率は各々69.21、66.95および66.80%、また、ME(代謝エネルギ-)摂取量はそれぞれ195.26、184.49および171.29MJ/㎏でした。また、乳エネルギ-および体蓄積エネルギ-は、各々77.43;-0.86、66.36;-0.86、66.36;-0.65および56.19;-0.74MJ/㎏であり、乳生産および体蓄積エネルギ-に対するMEエネルギ-の比はそれぞれ40.28、36.33および33.23%でした。

粗飼料の日DMIは泌乳ステ-ジが進むにしたがって増加するが、濃厚飼料のDMIが減少し、合計のDMIおよび排糞量はほとんど変化せず、排尿量が増加するため、乾物消化量・率が約2㎏および3%低下しました。しかし、TDM摂取量はやや減少し、且つ、乳量も減少しますが、ME摂取量は増加するため利用効果は約7%低下しました。代謝試験から得られたデ-タに基づいて、簡易な飼料利用性指標を表す推定式を求めました。飼料利用性効率をより簡易に把握するために、乳エネルギ-と体蓄積エネルギ-を加えたものに対する摂取エネルギ-の比を、MBS(代謝体重)、PCM/MBS(代謝体重が一定の時にPCM1㎏生産に必要なエネルギ-)、ME/PCM(PCMが一定の生産が為されるときの体重維持NEmと増体NEgに必要なエネルギ-;ただし、NEm=0.077×体重0.75、NEg=DG×0.3793×体重0.384とした)、BWC/MBS(代謝体重が一定の時の体重変化に必要なエネルギ-)、Fat%(脂肪率)、Day(分娩後日数)およびPCM(乳蛋白補正乳)量等の形質で推定する式を作成しました(表1省略)。

3.簡易な飼料利用性指標の遺伝的パラメ-タ-推定

相加的遺伝子の分散成分、永続的環境効果の分散および残差効果の推定は制限最尤推定法(REML)を用い、遺伝パラメ-タ-および育種価推定には血縁関係を考慮したBLUP法アニマルモデルにより推定しました。

飼料利用性効率の遺伝的改良量は、(乳生産+体蓄積)または乳生産に対するME、粗飼料からのエネルギ-による指標で、当たり0.0005ポイント、-0.0002ポイントでした。

摂取飼料のうち租飼料から得られるエネルギ-による飼料利用性が改善されるならば、より多くの草地が利用され、人畜共通のエネルギ-の節約につながると考えられます。しかし、粗飼料からのエネルギ-による乳生産効率は、マイナスでしたから、種雄牛を通して改良する必要性があることが示唆されました。

4.種雄牛の選抜の可能性

乳牛改良によって極めて重要な要素は、種雄牛の選択であるが、現時点では種雄牛の飼料利用性の遺伝的能力は評価されていません。そこで、種雄牛の産乳および飼料利用性の遺伝的能力がどの程度変異を有するかを検討しました。産乳能力のBVは最大幅98.7㎏であり、飼料利用性のBVの最大幅は0.0152~0.2310の範囲であった。産乳と体蓄積エネルギ-に対する摂取MEの割合は、-0.0192ポイントとやや低く、C.V.も最も小でした。このことは飼料利用性簡易指数(乳生産+体蓄積)/MEが、年次とともに低下することに表わされました。産乳と体蓄積へのエネルギ-に対するMEおよび摂取粗飼料のエネルギ-の比の平均は、-0.0192ポイント、および0.0034ポイントで、C.V.は-2.5および2.7とMEによる評価がやや大きな変異を有しました。しかし、乳生産に対するME、摂取粗飼料のエネルギ-の比は平均0.01といずれも大きく異なりませんでした。さらに、C.V.もほぼ同程度の大きさの変異を示し、改良の余地が示唆されました(表2省略)。

5.まとめ

実験値による飼料利用性効率は、ある程度期待された結論を導き出せました。しかし、重要なことは現在の酪農現場で得られる形質を用いた、より実用的なエネルギ-利用効率を把握することです。しかも、酪農現場での家畜のエネルギ-利用状況は、必ずしも代謝実験室における牛達と同様ではないということも理解しておくべきでしょう。しかし、乳牛群としてのエネルギ-利用効率を向上させるためには、雌牛の淘汰のみならず種雄牛における選抜が欠くことができません。したがて、種雄牛側の飼料利用性能力も把握するため乳検組織等を通じて、必要な形質を取り上げ分析し、必要な機関に公表するシステムの構築が急がれるでしょう。