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畜産試験場

育種の原理

育種 breeding
家畜を望ましい性質を持つように改良すること。これは集団中の望ましい遺伝子の頻度を高めることであり、唯一方向性を持つ育種の手段が選抜である。
選抜 selection
親として選ぶこと。親として選ばないのは淘汰である。
量的形質 quantitative traits
肉質、体重、血圧など、質的と考えられる形質以外の全ての形質は量的形質と考えられる。
遺伝子型値 genotype value
ある遺伝子型に特有な効果であり、その遺伝子型の表現型値の平均より相対的に設定される。
相加的遺伝子効果 additive gene effect
ある遺伝子の作用が同じ形質に関与する他の遺伝子の作用に対して加算的である遺伝子の効果
優性効果 dominance effect
ヘテロ接合体の遺伝子型値が両ホモ接合体の遺伝子型値の中間よりずれる場合、優性効果があるという。
育種価 breeding value
ある個体の個々の遺伝子座においてある形質に働く相加的遺伝子効果の総和を育種価という。実用的にはある個体の育種価はその個体の子どもの平均値の集団平均からの偏差の2倍としても定義される。「ウシのブリーダーはウシを売るのでなく育種価を売るの だ」という言葉がある。
分散 variance
データのちらばり具合を示す尺度で平均からのデータのずれの2乗を平均したもの。2つの独立な変量の和の分散はそれらの分散の和に等しいという相加性は量的形質の分析にとって最も重要な法則である。
例)表現型値=遺伝子型値+環境効果、表現型分散=遺伝分散+環境分散
共分散 covariance
2つの変量間の関係を示す尺度で、それぞれの変量の平均からのデータのずれの積を平均したもの。共分散をそれぞれの変量の標準偏差で割り標準化したものが相関係数である。
最小2乗法 least-squares methods
推定値と実測値の差(誤差)の2乗和が最小となるように線や棒を引く方法
BLUP法 best linear unbiased prediction
様々な環境要因をモデルに組み込んで補正しながら育種価を予測するために考案された方法。いろいろな状況に対応した汎用性があり、個体間の血縁関係の情報を組み込むこともできるので、ウシの育種価予測にはこの方法を用いることが多い。
遺伝率 heritability
個体の表現型値がどの程度その遺伝(遺伝子型値)によって決まるのかを示す尺度を広義の遺伝率という。
遺伝率(広義)=遺伝分散/全分散
また、個体の表現型値がどの程度育種価(相加的遺伝子効果)によって決まるのかを示す尺度を狭義の遺伝率という。
遺伝率(狭義)=相加的遺伝分散/全分散
選抜育種において重要なのが狭義の遺伝率で、普通遺伝率とは狭義の遺伝率のことを示す。いっぽう育種価は、
育種価=遺伝率×表現型値(集団平均からの偏差)
として推定でき、表現型値の選抜に基づく1世代あたりの遺伝的改良量は
遺伝的改良量=遺伝率×選抜差(選抜個体の平均-集団平均)
として予測できる。
数値例1: F2集団の抗病性の遺伝的特性
ある原虫病に黒毛和種純粋種は強くヘレフォード純粋種は弱いとする。抗病性の検定は原虫を感染させその後の原虫寄生率の経過を観察して「つよさ指数」を計算して評価するものとする。純粋種では黒毛和種はつよさ指数100で、ヘレフォードは0、それら両品種のF1は60であったとする。表現型値は遺伝子型で全て決まり、環境効果が全く無かったと仮定すると、F1同士の交配により作成されるF2集団の遺伝的特性は以下の表のようになる。