水産研究本部

試験研究は今 No.156「サケの稚魚に大切な沿岸域の餌生物」(1993年8月27日)

サケの稚魚に大切な沿岸域の餌生物

図1
  春に孵化場から放流されたサケの稚魚は、河川から海に降り、沿岸域、沖合域、そして外洋域へと回遊します。約半年間、我々の飼育管理下で大切に育てられた稚魚たちですが、放流と同時に自然界で、幾多の試練を乗り越えて生きていかなくてはなりません。特に、生活場所を海に移した時に稚魚が経験する試練は大きなものです。淡水から海水へと環境の大変化、様々な外敵(捕食者)との遭遇、そして充分な餌をとるための戦いなどいろいろです。これらの中で、我々が最後に稚魚にしてやれることの一つとして、沿岸域の餌が豊富にある時期に遅れることなく、稚魚を放流してやることです。このような考えのもとで、日本海増毛町の極く沿岸域(岸から280メートル)で、稚魚の餌となる動物ブランクトンの調査を行っています。
  これまでの調査の結果、ちょうどサケ稚魚の放流時期にあたる春季には、ソコミジンコ類(図1)が大変、増加することがわかりました。この種類は、一般に海藻、石、砂粒などと接触を保って生活すると言われています。そして、道北の宗谷沿岸域、道東の釧路沿岸域、遠くはカナダのブリティッシュコロンビア州ナナイモ沿岸域でもサケ稚魚放流期に増加して、稚魚が海に降りて最初に巡り会う重要な餌生物であるという報告があります。そこで、このソコミジンコ類に注目して、過去4年間の2月から4月までの増毛沿岸域における季節消長をみてみます(図2)。

  一般に、ソコミジンコ類の消長は変動が激しく、短期間で増減します。1990年を除いて、必ず1回の極大が観察されました。稚魚が放流される3月下旬から4月中旬にかけて、年変動はありますが、1立方メートルあたり約50~100個体のソコミジンコ類が存在していました。4年間の調査を通じて1990年は様子が違っていました。ソコミジンコ類はいつまでたっても増加の兆しはみられず、その個体数は大変少ないものでした。このようなソコミジンコ類の増減は何に左右されるのでしょうか。その一つに水温が考えられ、特にソコミジンコ類が増加する前の冬季の水温の影響が大きいように思われます。1990年1月~2月の水温は、他の3年間が約4~5.5度であったのに対して、それより1~2度高い5~7.5度で推移していました(図3)。水温の高低はソコミジンコ類の増加に何らかの影響を与えていると考えられます。
    • 図2
図3
  実は、沿岸域のソコミジンコ類の個体数が大変少なかった1990年に放流されたサケ稚魚たちは、昨年は3年魚そして今年は4年魚で増毛沿岸に回帰します。しかし、昨年のサケの来遊量が減少し、今年の予想量も近年になく低水準です。今後はさらに調査を続けて、放流されたサケの稚魚が沿岸に出てからどんな環境におかれていたのか、また、この時期の餌生物量が3~4年後のサケの回帰量と何らかの関係があるのではないかという点を明らかにしていこうと考えています。
(水産孵化場増殖部研究職員 浅見大樹)