水産研究本部

試験研究は今 No.163「簡単な定塩さけの造り方について教えて下さい」(1993年10月29日)

Q&A? 簡単な定塩さけの造り方について教えて下さい

  塩さけは、北海道の秋の味覚を代表する食べ物です。以前は、貯蔵性を考えで25パーセント以上の食塩で10日間程漬け込んだ“堅塩さけ”や10パーセント以上の食塩を用いた“塩さけ”が中心でした。その後、低温流通の完備と消費者の健康志向などにより、低塩化が進んで来ました。数年前からどの部分を食べても塩味が変わらない“定塩さけ”が注目され、市場に定着しています。しかし、昔ながらの“山漬け”も見直されており、塩さけは消費者の好みに対応して多様化の傾向がうかがえます。

  今度、宗谷支庁管内の焼き魚加工業者から“塩分2パーセント前後のサケ・マスフィレーを手軽に造れないか?”との質問があり、簡単な試験を行いました。定塩さけについては、釧路水試などで試験され、本紙No.83に紹介されています。その特徴は、フィレー重量の1?2倍量の20パーセント塩水に24時間漬け込んだ後、塩抜きをする2工程となっています。そこで多量の低濃度塩水を用い、漬け込み工程だけの簡単な方法で“塩分2パーセント前後のフィレー”を造ることを目的として試験しましたので紹介します。

試験1

  10月上旬、稚内沖で漁獲された秋サケをフィレーとし、フィレー重量の7倍量のボーメ5度とボーメ10度の塩水(摂氏4~12度)を用い、室温(摂氏8~12度)で18時間漬け込みました。その結果、フィレー各部位の塩分は、ボーメ5度区では2.5±0.4パーセント、ボーメ10度区では3.3±1.0パーセントとなりました(表1、図)。すなわち、前者のばらつきが小さいことがわかりました。これを焼いて試食してみると、ボーメ5度区は、部位による塩味の差が少なく良好でした。また、ボーメ10度区は、尾肉がやや塩辛いほかは良好ですが、焼き魚としては塩味が強いと判定しました。
    • 図 サケフィレーの成分測定部位
    • 表1 部位別の水分・塩分測定結果(試験1)

試験2

  試験1の結果を踏まえ、枝幸産の秋サケとマスを2枚卸・3枚卸とし、その5倍量のボーメ5度塩水(摂氏1~12度)で18時間(摂氏7~13度)漬け込みました(肉温 摂氏0~12度)。このほかに、凍結3枚卸肉をそのまま漬け込む方法についても試験しました(肉温、摂氏-6度以下~11度)。各区分5枚の卸身(2.4~5.2キログラム)を漬け込むと歩留りは102~111パーセントでした。凍結区の歩留りが最も低く、サケ3枚卸区より8パーセント下回りました。

  漬け込み後の塩分をみると、サケ3枚卸区(1.7±0.6パーセント)・サケ2枚卸区(1.5±0.5パーセント)・マス2枚卸区(2.1±0.7パーセント)はサケ3枚卸凍結区(1.6±1.0パーセント)と比べてばらつきが小さい結果でした(表2)。

  また、全区分とも肉質はブヨブヨした感じはありませんでしたが、サケ3枚卸区では粘着して切りづらくなりました。肉色は、表面のみ退色していましたが、焼くと気になりませんでした。切り身とし、焼いて試食してみると、サケ3枚卸区・サケとマスの2枚卸区は、背肉がやや甘い、腹肉の先端がやや塩辛いなどの意見はありますが、総合してみると、塩味は程良く均一化されていました。しかし、サケ3枚卸凍結区は尾肉と背肉下部の塩味にばらつきを感じました。

  以上の試験結果から、“塩分2パーセント前後の焼き魚用秋サケ、マスフィレー”の処理法としては、フィレー重量に対し、5~7倍量のボーメ5度塩水に1晩漬け込む簡単な方法が適当でしょう。なお、凍結状態のフィレーをそのまま塩漬けすると、部位による塩味のばらつきを生じる一因となります。“定塩さけ”を造るためには、その製造条件を出来るだけ均一にする必要があるでしょう。
(稚内水試加工研究室 佐々木政則)

    • 写真2