水産研究本部

試験研究は今 No.165「ニジマスの新しいウイルス病」(1993年11月12日)

ニジマスの新しいウイルス病

  道立水産孵化場魚病科では、道内の内水面養殖魚および海中網いけす養殖も含めたサケ・マス類を主に対象として、病気の診断・治療・予防などの指導を行っています。昨年(1992年)4月以降、道内の十数カ所の養殖場で飼育中のニジマス大型魚(230グラムから1,300グラム)に高い死亡率を伴う病気が発生するようになりました。診断のために魚病科にもちこまれた死亡魚を検査したところ、細菌や寄生虫はみられず、腎臓および体表患部からウイルスが分離されました(ニジマス腎臓ウイルスの頭文字から、以下京RKVと仮称します)。1993年11月現在、RKVの分離された養殖場は12カ所に及びます。RKVによる死亡はニジマスのみで、死亡発生時の水温は5度から11度であり累積死亡率(最初に飼育していた魚に対する死亡した魚の割合)は13パーセントから78パーセントに達しました。この病気による死亡魚の症状を以下に述べます。外観の観察では、特に異常がみられない個体が多いのですが、ミズカビが体表に付着した個体がみられました。一部の個体では、体側部に盛り上がったような部分がみられ、内部は膿が溜ったような状態(潰瘍状)でした。さらに、潰瘍状の部分がくずれて、筋肉がえぐれたような個体もみられました。腹部を開いて内蔵を観察してみますと、ほとんどの個体では、腸管が赤くなり、正常魚に比べて脾臓が大きくなっていました。

  ところで、このRKVはこれまで知られている魚のウイルスとどのような関係にあるのでしょうか。まず、このRKVがどのようなウイルスの仲間に入るかを調べたところ、ヘルペスウイルス科に属すことがわかりました。さらに、北海道大学水産学部微生物学講座の吉水守博士との共同研究で、サケ科魚類のヘルペスウイルスのタイプ2に属すオンコリンカスマソウウイルス(OMV)と同じグループに属すことがわかりました。

  OMVは1978年に北海道で初めて分離されたウイルスですが、その後、北海道・東北地方の多くの養殖場、河川湖沼におけるサケ科魚類の体腔液、腫瘍部位および肝臓ならびに体表の潰瘍患部から分離されています。さらに、感染試験を行いますと、多種のサケ科魚類稚魚に高い死亡率を示します。しかし、これまでOMVは海面養殖ギンザケを除き養殖場等の死亡魚から分離されたことはなく、養殖場等での魚の発病・死亡に関係しているか否かは明らかではありませんでした。したがって、ニジマス大型魚から分離されるRKVは、OMVの病原性(病気を起こす性質)が強くなったものと思われます。

  次に、RKVのニジマス大型魚に対する病原性を確認し、併せて他のサケ科魚類の大型魚と稚魚に対する病原性を感染試験により検討しました。結果は表に示した通りです。大型のニジマス(110グラム)とサクラマス(100グラム)の死亡率が高いことがわかります。今のところ、RKVによる死亡はニジマス大型魚のみですが、今後サクラマス大型魚での発病・死亡も懸念されます。

  ところで、RKVの試験管内での増殖に及ぼす温度の影響を調べてみますと、10度で最も増殖が良く、18度以上になると増殖はみられません。さて、良く知られているサケ科魚類のウイルス病であるIHNの病原ウイルス(IHNウイルス)は試験管内では、20度程度まで増えることができ、魚での発病も14度から15度程度までは起こることが経験的に知られています。大型ニジマスの養殖場での病気発生時の水温が11度以下であることと併せて、RKVはIHNウイルスと比べ、より低温を好むウイルスであると言えます。

  前述のOMVは卵や施設の消毒により北海道内での検出事例は年々減少しています。RKVに関しても今後、卵や池・施設等の消毒、魚の移出入に充分注意するなどの防疫対策をより徹底させるとともに、本ウイルス病の予防・治療方法の早期の確立が必要であります。
(道立水産孵化場魚病科 鈴木邦夫)
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