水産研究本部

試験研究は今 No.171「クロバキンナンソウの加工について」(1994年1月21日)

クロバギンナンソウの加工について

  昨年の12月3日付けの北海道新聞と朝日新聞の両紙で、釧路水試で実施している事業の一部が紹介されました。
  新聞の見出しは、「雑海藻捨てずに活用」、「雑海藻から健康食品」というタイトルで、ご覧になった方もおられることと思います。
  これは、釧路水試が十勝、釧路、根室の3支庁管内の水産関係者を対象として毎年実施している水産関係試験調査事業協議会における話題提供として行った講演内容について取材を受け報道されたものです。
  釧路水試の加工部、利用部の両部門ではこれまでに水産試験研究プラザ等での提起を受けて道東産雑海藻の利用加工に関する試験研究を行っていますが、今回はそのなかからクロバギンナンソウを取り上げ、その特徴とこれを用いたゼリー状食品の製造方法について紹介します。
図1
  ギンナンソウは、スギノリ科の紅藻でクロバとアカバの2種類があり、いずれの種も北海道の沿岸に広く分布しています。クロバギンナンソウは長さ3~6センチメートル位の小さな海藻(図-1)で、潮間帯付近の岩の上に群生している光景がよく見られます。
  ギンナンソウの利用としては、厳冬期に採取された幼葉が、一部「ほとけの耳」と称されて味噌汁の実として珍重されますが、そのほとんどは採取されていないのが現状です。
  古い統計資料によると昭和10年代には全道でギンナンソウの採取が盛んに行われ、その生産量も乾燥品で年間2,000トンにも及んでいたことが記されています。
  この当時のギンナンソウの用途としては、壁の漆喰(しっくい)等の建築材料や糊料として用いられていましたが、建築様式の変化した今日では全く利用されていない状況にあり、各地で開催される水産試験研究ブラザ等を通じて付加価値の向上が求められていました。
  一般成分は表-1に見られるようにコンブ等の褐藻類に比べ紅藻類であるクロバギンナンソウは大豆に匹敵するほどタンパク質の含量が多いことが最大の特徴です。
  これは、光合成の強力な補助材としてのビリタンパク系色素を保持していることによるものと考えられますが、今後の試験の中でアミノ酸組成及び灰分のミネラル組成等を明らかにしていきたいと考えています。
  クロバギンナンソウを用いたゼリー状食品の製造工程は図-2に示すとおりですが、製造工程に沿って注意する点を簡単に説明しますと、
    • 図2 ゼリー状食品の製造工程
  1. 原料の乾ギンナンソウは特有の色調と臭気をもつため、3パーセントの塩水中で水戻しを行い、手でよく、揉んで洗浄する。この後、干場に広げて天日乾燥を行う。この操作を3回程度繰り返すことにより独特の臭気がなくなり、色素も太陽光線により分解されて白色の乾燥原料が得られます。塩水を真水に変えてこの処理を行いますと、ギンナンソウの藻体が軟化、溶解しその後の処理が困難になりますので注意が必要です。
  2. (1.)で得られた原料を流水中(真水)で10分間晒(さら)して脱塩します。
  3. 調味・煮熟 調味配合割合は?の原料に対してソルビトール15パーセント、食塩2パーセント、グルタミン酸0.5パーセントとなります。
  4. 煮熟したゲル状物を薄く型枠に流し込み60度で乾燥し(一定の大きさに切断し製了します。なお、製品の製造歩留まりは、乾燥原料に対しおおよそ300パーセントでした。試作品は紅藻類特有の艶(つや)と歯触りに富み、試食の結果は概ね良好でした。
平成6年度は、さらに積極的に残された問題点を究明し、より幅広い利用途の拡大を図り、様々な機会を通じてその結果を紹介して行きたいと考えています。
(釧路水試利用部 船岡輝幸)