水産研究本部

試験研究は今 No.172「エゾバフンウニ稚仔沈着・育成促進試験について」(1994年1月28日)

エゾバフンウニ稚仔沈着・育成促進試験について

  網走管内では、近年エゾバフンウニ資源の減少がみられ漁業者に不安を与えていますが、平成4年には当歳稚仔である殻径5~15ミリメートルのウニが管内各地で多くみられ、平成5年の調査ではそれらが殻径18~28ミリメートルに成長して比較的高レベルの資源量を示しています。

  しかしながら、稚ウニが沈着し生息している場所が必ずしもその後のウニの成長に適した場所ではありません。そのため海藻の少ない場所に大量に発生した稚ウニをそのままにしておくと、小さいまま高齢なウニになり、身入りが悪く利用価値の低いウニ資源になってしまいます。現に、網走管内にもそのような場所が少なからずあります。

  そこで、このような稚ウニ資源を有効に利用するために、ウニの沈着の多い漁場に簡易稚仔沈着・育成施設を敷設することにより、ウニ稚仔を沈着又は蝟(い)集させ、移殖に適したサイズまで育成し、その後成長に適した漁場に移殖する技術の開発を目指して、サロマ湖で調査しております。沈着状況等については現在調査中ですので、今回は平成5年7~8月に行ったウニの蝟集効果試験について紹介します。

  調査区はサロマ湖の現湖口付近に設定しました(図1)。この調査区は砂地に貝殻が多く混在している底質で、海藻はアマモが主でウニにとってコンブ等の効率の良い餌料海藻はほとんどありません。また、この区域には平成4年に当歳稚ウニが多くみられ、平成5年の調査ではウニが約24個/平方メートル、そのうち殻径18~28ミリメートルの稚ウニが約18個/平方メートルという高密度で生息しており、放っておくと前述のような利用価値の低い資源になる可能性がある区域です。

  今回の簡易施設は、サロマ湖でホタテの養殖に使われているホタテハウスにホタテ貝殻を収容し2段に重ねたものを使用しました。施設の大きさは縦1.2メートル、横0.5メートル、高さ0.3メートルです。

  これらの施設にコンブやアマモをウニが食べられるようにはさみ込んだもの、ウニに食べられないようにタマネギ袋に入れて上方に吊るしたもの、また施設だけのものを用意し、水深約2メートルの場所に置きました。その3、7、30日後にそれぞれ蝿集してきたウニの個体数や殻径組成等を調べました(図2、図3)。

  その結果、施設だけのものに対しては試験期間を通じてウニは50個程度が集まったにすぎませんでしたが、コンブをはさみ込んだ施設に対しては、敷設後3日ですでに668個ものウニが集まっていました。7日後には集まってきたウニの個体数は712個と最大になりましたが、コンブは食べ尽くされていました。施設敷設前の調査区のウニの平均密度は約24個/平方メートルなので約30平方メートルもの区域からウニが集まってきたことがわかります。その後は、コンブは食べ尽くされているので、個体数は減少していますが、30日後でも363個ものウニが施設にとどまっていました。

  コンブをタマネギ袋に入れて上方に吊るした施設では、3日後及び7日後では集まったウニはそれぞれ61個及び31個であり、施設だけのものとほとんど差がなくウニの蝟集効果はありませんでしたが、30日後では403個のウニが集まっており長期的には蝟集効果があることがわかります。また、この場合は30日後でもコンブは腐敗はしているものの残っていました。

  アマモの場合も集まった個体数は低いレベルでしたがコンブの場合とほぼ同様の現象がみられました。

   殻径については、殻径の大きいウニほど早く集まってくる傾向がありました。

  今回の試験で、(1)周囲が貝殻混じりの砂地で餌料海藻が少ない漁場では海藻によってウニを蝟集させることが出来る、(2)海藻が食べ尽くされた後でも、施設からのウニの逸散は比較的小さい、ということがいえます。これらの結果は、このような簡易施設が稚ウニ育成施設として利用出来ることを示しています。しかしながら、実際への応用を考える場合には、底質や海藻条件の違う漁場でのウニの行動や、もっと小型の1齢未満のウニの行動なども調べる必要があるでしょう。
(網走水試増殖部 馬場勝寿)
    • 図1 図2 図3