水産研究本部

試験研究は今 No.179「平成6年度水産試験研究事業の紹介<水産試験場編>」(1994年3月25日)

平成6年度水産試験研究事業の紹介<水産試験場編>

  水産試験研究機関で、平成6年度から新たに始める試験研究課題の主なものについて、その概要をご紹介します。
  今回は、水産試験場についてです。

1.海産魚介類の原因不明疾病の解明と防除技術に関する研究

  本道の漁業は、国際的漁業規制が強まるなか、前浜資源の維持・増大を図るため、栽培漁業の重要性が高まっています。その中でも、ヒラメ、クロソイ等の魚類養殖やヒラメ、ウニ等の種苗放流が近年盛んとなり、養殖規模も年々大きくなってきております。

  これに伴って、寄生虫、細菌、ウイルス等の様々な疾病も年々増加傾向にありその対策が急務とされています。
 
  これまで、道立水産試験研究機関での魚病研究は、淡水魚やサケ・マス類の疾病対策を中心に水産孵化場が行ってきていますが、海産魚介類については、水試が担当していたものの、研究設備の制約があり、その対応に苦慮していた現状にあります。

  平成5年12月に中央水産試験場の新管理・研究棟が完成したのに伴い、最先端の魚病研究設備が整備され、研究体制が強化されることから、現在、北海道で発生している原因不明疾病の症状、繁死率、原因等の現状を把握し、診断法、治療法の開発を行って、対策を明らかにするとともに、今後疾病の対策ガイドブック等を作成する資料としていきます。

  この研究が進むことにより、現在、浜で困っている魚病対策が、これまで以上に進歩することが期待されます。

2.種苗放流技術基礎調査研究

  本道の栽培漁業はサケ・マス、ホタテ、ウニ等を中心に進められてきており、特に種苗放流技術としては、放流後、より減耗が少なくなるようなサイズで、より餌の量が多く害敵が少ない時期・場所の選定、かつ飼育管理費用が少額ですむような手法等が試験研究機関を中心に開発が進み、軌道にのっています。

  さらに、ヒラメについても最近、種苗生産・放流技術が大いに進展し、羽幌町・瀬棚町に日本海栽培センター(仮称)が、平成7年度の完成を目標に本年より施設が着工になり、大量種苗放流が実現する見込みです。

  これらの背景から、栽培漁業に対する期待は一層増し、既存の技術をより深めるとともに、さらに新たな種への対応が求められています。そこで、現在種苗生産技術の開発過程にあるマツカワ、クロソイ、マガレイ、マコガレイについては、種苗放流後の天然魚との比較試験や放流後の移動、減耗及び成長、食性などの解明と併せて放流手法を開発することにより、資源増大に期待がかかっています。

3.ホタテガイ減毒化技術開発試験

  北海道におけるホタテガイ漁業は、順調に生産を拡大し、全道における平成4年度の生産は32万トン、554億円に及んでいます。しかし、毎年のように貝が毒化するため、出荷規制など産業上大きな問題となっており、水産試験場としてもモニタリング事業や予知技術の開発を進めてきています。

  貝毒問題への研究対応は、貝毒プランクトンの発生から各種生物に対する蓄積、代謝、生産物の処理や流通過程まで、総合的に行う必要があります。

  当面は最終段階の流通面にターゲットを絞り、食品の安全性の観点から部位別の安全性の確認や処理加工時の安全基準の確立、貝毒テストの再評価及び物理化学的な処理による減毒化技術の確立を図る調査研究を実施します。また貝毒の発生した海域に生息する生物の分布と貝毒の移行や量的な移り変わりを調査することで、生物の体中での貝毒分解・変換に関するメカニズムを解明していきます。

4.魚類行動制御システムの開発

  牧場に行くと、棚で囲われた中で牛や馬が放し飼いをされ、農家の人のかけ声で、畜舎に集まってくるのをみかけることがあります。これは人間が、日頃から飼い慣らし、学習させていることによるもので、能率的にみても非常に都合の良いことです。魚類においても効率的な培養殖を行うためには、魚種ごとの行動特性を把握し、それに基づいた制御管理を行っていく必要があります。

  特に本道では、ヒラメ、マツカワ、クロソイなどの人工種苗生産技術が進展し、種苗の中間育成や放流試験が各地で行われており、これに伴い種苗放流を効果的に行うために馴致や餌付けなどが行われていますが、十分な効果が得られていないのが現状です。もし放流後の稚仔魚の海中での分散を抑制し、何らかの手法で給餌する時に集めることができれば、非常に効率の良い育成ができるわけです。

  そのため、この試験ではヒラメ、マツカワ等で、光や音などの刺激に対する種苗の反応の仕方や学習能力を評価するとともに、種苗の囲い込み、誘導等を実際の海域レベルで行うにあたり、行動制御のシステムの開発をめざしていきます。

  この研究は新しく中央水産試験場に設置された、水産工学室が担当することになりますが、都道府県の水産試験場では始めての試みとなります。
(水産部)
※水産孵化場の研究事業の紹介は、次号で取り上げます。