水産研究本部

試験研究は今 No.180「平成6年度水産試験研究事業の紹介<水産孵化場編>」(1994年4月8日)

平成6年度水産試験研究事業の紹介<水産孵化場編>

  前回より、水産試験研究機関で、平成6年度から新たに始める試験研究課題の主なものを取りあげてきましたが、今回は水産孵化場について、ご紹介します。

1.新技術開発研究促進事業

  水産業においては、より有用な性質を持ち合わせた魚種の生産技術の確立が望まれております。

  例えば、成熟による肉質・食味の劣化の少ない高品質で加工向きの魚ですとか、成熟等を抑えることによって逆に成長の早い大型の魚をつくるとか、種々の魚病などに免疫のある病気に強く生き残りの多い魚ですとか、どんな養殖環境にも適応力のある環境変化に強い魚ですとか、そういった水産業にとっては“夢の魚"を試験研究などで探し、作り出していくことです。

  特に、サクラマスやニジマスなどのサケ・マス類については、海面及び内水面漁業者からの大きなニーズがあることから、水産孵化場では平成元年からこれからの研究をすすめてきており、従来にはなかった新しい形質を持った新品種ができるなど、かなりの成果が得られております。

  しかし、これからの技術の導入に対する要望が強いものの、中小養魚業者への技術移転等汎用性や普及できるような技術の開発の問題などがあるため、技術改善とともにより効率的作出手法の開発に加え、やっと開発初期の段階にある技術についても、発展・向上させていく必要があります。

  例えば、不妊化技術と言いまして、成熟や成長の停滞、ブナ化など生産にマイナスとなっている要因を、受精直後の卵に水圧や水温などの物理的刺激を与え、不妊の雌(全雌3倍体化)とすることにより、成長・肉質を良くし、周年出荷を可能にする技術があります。しかし、処理手法で作出ムラができるとか、魚種により作出率が違うとか、作出率の判定手法の未確立など問題がありますので、今後解決していく必要があります。

  また、性比コントロール技術と言いまして、受精時に紫外線照射やホルモン投与により雌を多く作り出す(全雌化)ことによって、大量の種卵生産を可能にしたり、低年齢での成熟を防ぎ肉質劣化時期を短くしたり、放流事業の効率化を図るなど、多くのメリットのある技術があります。この技術は大きな養魚場では、取り入れられつつありますが、雌ができたかどうかの判定は、子孫を調べないと判定できないことや、水温条件で作出ムラができるなどの問題があります。

  そこで、本研究では5ヵ年計画で、これら技術添加できない問題点を解決するとともに、さらに技術のレベルアップを図ることにより、内水面漁業の基礎を担っていく新品種をつくっていきます。

2.湖沼のワカサギ資源増大対策研究

  北海道の湖沼で漁獲されるワカサギについては、昭和59年の約705トン、9.4億円(水産孵化場調べ)をピークに減少し、平成3年度では約584トン、3.2億円となっています。特に網走湖での生産は、全道生産の6?7割を占め、平成3年度では389トン、2.2億円と、非常に重要な魚種となっています。

  網走湖においては、ワカサギ資源の増大策として、人工ふ化放流を実施するなど、維持増大を図ろうとする努力が続けられ、また研究についても主に人工ふ化放流技術の確立や生態などに力が注がれてきました。

  しかし、ふ化放流を実施しても漁獲量が減少傾向にあることや魚体の小型化が目立っており、資源量の維持が望まれています。

  近年では、湖のもつ環境やプランクトンや他の生物などの湖沼の生産力が、ワカサギ資源に大きな影響を及ぼしていることが理由としてあげられており、また、漁獲に占める人工ふ化魚の割合や寄与の度合などが現時点では完全に解明されておりません。

  そこで、本研究では5年をかけて、湖沼の物理・化学的環境の把握と、食べる食べられるという関係からの微小生物・動植プランクトン生産と魚類生産とのつながりや、資源変動要因を調査研究し、湖沼生産力との関係からの基本的なノウハウの蓄積を行うことにより、ふ化放流事業にフィードバックしワカサギ資源の増殖管理手法の確立を目指します。

3.山地渓流における魚類増殖と河畔林整備に関する研究

  近年、本道においても森林と水産資源との密接な関係が見直されております。

  また、社会的にレジャーなどの余暇活動が拡大する中で、森林内の小河川に生息する魚などへの保全に関する関心の高まりも見られ、各地で漁業協同組合関係者による植樹運動の展開されるようになってきています。

  特に、河川への有機物の流入量が、その流域での魚類など生物の生産量に影響を与えているのではないかとか、土砂の流入や一度に多量の水の流入を森林が抑えることにより河川内の生産を安定させているのではないかなどのことがいわれております。

  しかし、一般的な経済林の生態系については多くの研究が行なわれていますが、特殊な環境下にある河畔林の生態とりわけ魚類との関係についてはわからないことが多いです。

  本事業では、渓流域での魚類生息環境と河畔林との関係について、林業試験場と共同研究を行なうことにより、今後の河畔林整備や魚類の保護増殖効果のアップを図り水産資源の増大に努めていきます。
(水産部)