水産研究本部

試験研究は今 No.181「北部日本海におけるスケトウダラ系統群調査について」(1994年4月15日)

北部日本海におけるスケトウダラ系統群調査について

  北海道立水産試験場では、平成2年からロシア共和国太平洋漁業海洋研究所サハリン支所“Sahk-TINRO”(サハ・チンロ)との研究交流を行ってきました。その内容はスケトウダラなどに関して、蓄積された調査データの交換やシンポジウムの開催、さらにはOFCF(海外漁業協力財団)の制度を活用した研修生の受け入れ事業などがあります。

  このほか、平成5年度からは、サハリン周辺海域のスケトウダラ系統群の解明を主眼とした共同調査がスタートしました。

  調査は稚内水試が担当し、平成9年まで継続して行われる予定です。

  調査は、まず魚群分布調査として、漁獲試験・環境調査・生物調査を実施し、スケトウダラ産卵群の分布を明らかにします。得られた標本については、“ミトコンドリアDNA制限酵素多型分析”といわれる分析などを行います。これは、分子生物学的な系統群解析の基盤確立をめざすものです。また、この調査は、サハリン海域のスケトウダラ資源に関する生物学的知見を深め、資源評価精度の向上を図るものです。そして今後、ニシン、ホッケ、イカナゴなど他の共通資源に対する共同研究の可能性をも念頭においています。
  この調査を通じて、資源管理型漁業を推進している北海道と、サハリン東西海域や千島列島周辺海域の資源管理を管轄するSahk-TINROとの相互理解が深められ、両国の漁業関係に新たな信頼関係が構築されるという波及効果も期待しているところです。

  今回の調査には、Sahk-TINROの研究員ヴォロディン.A.V氏が稚内水試の水野研究員と共に北洋丸に乗船し、武蔵堆周辺海域のスケトウダラ分布調査を行ないました。

  採取した標本は、体長、体重、年齢の測定をはじめとして、鰭条(きじょう)や脊椎骨、卵の数まで調べるという精密なものでした。漁業資源部(平成6年4月1日から資源管理部に部の名称が変更されました。)の研究員はもとより宇藤漁業資源部長(資源管理部長)も自ら解剖道具を持ってサンプル処理に当たりましたが、ヴォロディン研究員の稚内での滞在期間が短かったことや、この時期の海象条件が悪く出港が遅れたこともあって、測定時間が足りなくなるほどでした。今後、調査を継続するに当たり、良き教訓を残したようです。

  今回来日したヴォロディン研究員(32歳)は、幸いなことに(?)日常会話は日本語で充分通じ、滞在期間中、お世話をした水試職員にとっては、大助かりでした。調査中は、漁獲物の仕分けや目視観測、海洋調査データの見聞など、精力的に体を動かし、好青年という印象を北洋丸の船員たちに与えたようです。一方、ロシア人には珍しく(?)アルコール度数の高いお酒は好まないようで、歓送迎会の席ではもっぱらビールとワインですませていたようです。

  感心したのは、学生時代に作詞作曲した歌をギターの弾き語りで、日本で一時期流行したフォークのシンガーソングライター顔負けの腕前を披露していただいたことです。今や世界的ブームとなっているカラオケも大好きで、「百万本のバラ」を何度も歌い上げるなど、とてもなごやかな雰囲気で交流が深められました。

  また、4月13日からは、再びヴォロディンさんが参加し、サハリン西海岸ロシア200海里内の調査を北洋丸で実施します。この海域は、日日合弁事業で漁獲したサンプルのデータや過去の漁獲実績がありますが、調査時期・海域ともに本格的な調査となる今回は、過去との比較や新しい手法による系統群の解明など、両国にとって貴重なデータが得られることでしょう。

  さらに、現段階では、平成9年度までの調査計画となっていますが、このような調査がもっと広範囲に行われ、両国の水産資源の未知なる部分の解明をめざして、継続的なデータの交換を行っていくなど、これからも、息の長い研究交流に育てていきたいと考えています。
(稚内水試企画総務部)