水産研究本部

試験研究は今 No.509「最近の日本海沿岸と他海域産ホタテガイの雌出現率から考えたこと」(2003年10月10日)

最近の日本海沿岸と他海域産ホタテガイの雌出現率から考えたこと

  ホタテガイは生まれた時から性が決まっているのではなく、養殖ホタテガイでは生後4、5カ月頃(殻長約15~18ミリメートル)に一度すべての個体が雄になった後、一部の個体が雌になって(性転換)発育し、満1齢では雌か雄として成熟することが知られています。

  ところが、どのくらいの割合で雌が出現しているのかは余り知られていません。

  ここでは、放射肋数を調べた越冬貝のほか、半成貝などの生殖巣を観察(肉眼で雌雄を判別)し、海底生活している天然貝満1齢個体で初めて雌出現を確認し、また、産地によっては年により雌個体出現率に差があることを確認しましたので、その概要を紹介します。

  調査に用いたホタテガイの雌出現率を海域別に纏めて表に示しました。また、この表の殻高と雌出現率の関係を海域別に区別して図に示しました。表と図から、結果を以下に解説します。
    • 表 各海域ホタテガイの雌出現率
    • 図 各海域産ホタテガイの雌出現率と殻高の関係

北オホーツクでは猿払の天然満1齢貝で雌個体が16パーセント出現!

  北オホーツクの雌出現率で特に注目されるのは、猿払での1999年発生群で満1齢時(殻高45ミリメートル)に16パーセント出現したことです。

  今までの知見では、海底生活をしている天然貝満1齢個体はすべて雄個体であるとされてきたので、高い比率での出現には驚かされました。調査担当者の話からは、1999年群は特に成長が良かったとのことです。毎年天然貝が入手できるのなら、雌個体の出現率を継続して調査したいと思いましたが、連続しての天然貝大量発生はありませんでした。今年は稚貝発生が多いということなので調査できることを期待しています。

  猿払のホタテ漁場に放流され6カ月経った日本海産貝の雌出現率は36パーセント(殻高64ミリメートル)で、宗谷と猿払の天然貝2齢貝(殻高76~81ミリメートル)では44~46パーセントとなっていました。

日本海産越冬貝の雌出現率は1~11パーセント、半成貝は50パーセント前後

  日本海海域の越冬貝(満1齢個体)では、殻高は40~60ミリメートルの範囲にあって、各産地の雌出現率は1~11パーセントにありました。この雌出現率に、産地によっては年級による大きな差が認められました。つまり、北部留萌管内の遠別より北方の稚内市富磯までの産地では年級による差がほとんどみられないけれども、より南に位置する苫前から増毛までの産地では年級による差が大きい(4~10倍)ことがわかりました。北と南で傾向の異なる原因は現段階では解析できていませんが、非常に面白い現象だと思います。また、殻高80~100ミリメートルの半成貝の雌出現率は44~52パーセントとなっており、性比が1対1(雌出現率50パーセント)に近づいていることが確認されました。つまり、満1齢時はまだ、性分化が不十分で、雄個体が大部分を占めているけれども、満1齢時に雄であった個体の内、半数近くがその年の8~10月(1齢3ヵ月から5ヵ月)に性転換を行い、雌の比率が高まることにより半成貝(1齢6ヵ月~2齢未満)では雌雄比が1対1に近づくという訳です。

南オホーツク(羅臼)は日本海より高め、能取湖はサロマ湖の値に近い!

  南オホーツクの羅臼の雌出現率(8~14パーセント)は日本海の値と同じか少し高めですが、能取湖産は31パーセントもあり、特異な値を示していました。これは、能取湖産の越冬貝が、収容個体数が少なく、養成中の湖内での餌料環境が良かったことによる、成長促進と関係しているものと思われました。というのも、能取湖のすぐ近くのサロマ湖で雌出現率は、満1齢のほぼ同じサイズで比較して、分散時(0齢期)に200枚収容群では8パーセントであるのに対して、40枚収容群では16~31パーセントであった(川真田1994)からです。

噴火湾のホタテガイ1齢時の雌出現率は20年前と同じく約40パーセント

  他方、噴火湾の森と室蘭の1齢時(殻高60~71ミリメートル)での雌出現率は38~42パーセントで、1齢8ヵ月(殻高89ミリメートル)で56パーセント、2齢時(殻高107ミリメートル)で63パーセントとなっていました。養殖ホタテガイ1齢時の雌出現率は私が20年前に噴火湾で調べた時(40~45パーセント)とほぼ同じであり、現在1齢時に雄雌ともに産卵しているとされているにしては、まだ性比が1対1になっていないことを改めて確認した次第です。また、2齢時での雌出現率が50パーセントを大きく超えていることについては、標本誤差と考えられるのですが、1齢時の雌出現率も含めて、今一度養殖ホタテガイの成熟度、性比などを地場採苗貝や移入貝などの経歴をはっきりさせて把握する必要がありそうです。

  このように、最近のホタテガイの雌出現率からいろいろと考えてみましたが、雌出現率の多様なホタテガイが、放流後、あるいは本養殖後出荷されるまでの間に示す異常貝率や生残率とどのような関係を持っているのか追跡調査の必要性を痛感しています。それらは、今後のホタテガイ研究で明らかにされるべき大きな課題の1つと思います。
(稚内水産試験場 資源増殖部 川真田 憲治)