水産研究本部

試験研究は今 No.517「沖合底びき網漁獲物の高鮮度保持技術開発」(2004年2月5日)

沖合底びき網漁獲物の高鮮度保持技術開発

はじめに

  北海道の水産業において、沖合底びき網漁業は漁獲量全体の17%を占めています。対象魚種はスケトウダラをはじめ、ホッケ、カレイ類、キチジなど多魚種にわたり、食用原魚の安定的な供給はもとより、地域経済を支える大きな役割を担っています(図1)。
しかし、近年の国際的な漁業規制や本道周辺海域の資源量低下などによって沖合底びき網漁業は大幅な減船を余儀なくされ、水揚げの減少が続いているのが現状です(図2)。
これらのことから、沖合底びき網漁業の発展には、水産資源の持続的利用体制の構築はもとより、生産コストの削減を図るとともに漁獲物の付加価値を高めることにより、経営の安定化を図る必要があります。生産コストの削減等については、現在、省人・省力化のための漁労設備等の導入が行われていますが、付加価値向上についての取り組みは不足している状況にあります。このため、道立中央水産試験場は小樽機船漁業協同組合および社団法人北洋開発協会と共同で「沖合底びき網漁業における漁獲物高鮮度保持技術の確立」に取り組むことになりました。これは国の委託事業である「平成15年度先端技術を活用した農林水産高度化事業」に採択されたもので、今年度から3カ年で行うことになっています。以下、この試験事業の内容を簡単にご紹介します。
    • 図1
      図1 北海道の主要漁業生産量(平成13年)
    • 図2
      図2 沖合底引き網の生産数量と金額の推移

研究内容と研究体制

本研究は次の3項目を中核として行います(図3)。
1.省力化沖合底びき網漁船における漁獲物冷却システムの開発
  小樽機船組合が中心となって、省力化沖合底びき網漁船「新世丸」において冷却海水を導入した鮮度保持方法を開発します。適切な冷却海水と氷の割合、浸漬時間を把握するとともに、揚網直後から水揚げまでの魚体温度や鮮度の変化を調べます。なお、対象魚種はスケトウダラ、ホッケ、カレイ類を予定しています。

2.冷却処理を施した沖合底びき網漁獲物の市場性と経済効果の評価
  (社)北洋開発協会が中心となって、1.で開発した冷却システムにより鮮度保持を行った漁獲物について、鮮魚およびその加工品の市場性を調べ、経済効果を検討します。生鮮魚はスケトウダラ、カレイ類、加工品はスケトウダラのすり身、ホッケのフィレー製品等について試験を予定しています。
3.冷却処理を施した沖合底びき網漁獲物の科学的品質評価
  道立中央水産試験場が中心となって、陸揚げされた漁獲物について鮮度や物性、表皮の色調等を調べ、科学的な品質評価を行います。また、漁獲物の一般生菌数、腸炎ビブリオ最確数などを調べ、衛生的危害に対する品質評価を行います。

目標とする成果

  沖合底びき網の漁獲物について、付加価値を高めるための最も合理的な鮮度保持条件を明らかにすることにより、沖合底びき網漁業の採算性の向上と漁獲物および加工品の高品質化を目指します。
(中央水産試験場 加工利用部 成田正直)
    • 図3
      図3 研究内容と研究体制