水産研究本部

試験研究は今 No.523「キヒトデによるヒモマキバイとアヤボラの捕食について」(2004年5月14日)

キヒトデによるヒモマキバイとアヤボラの捕食について

はじめに

  近年、道東海域を中心にヒトデ類による漁業被害および駆除後の処理が大きな問題となっています。北海道では平成14年度より水産林務部の重点施策『漁業系廃棄物リサイクル推進事業』を開始しました。この事業には複数の機関が参画しており、釧路水産試験場はヒトデの生態調査などを担当しました。今回はその調査結果の一部を紹介します。

  なお、事業の概要および釧路水産試験場の担当課題については、『試験研究は今 No.486』で紹介しましたのでそちらをご覧ください。

調査の背景

  釧路支庁管内のトウダイツブ(ヒモマキバイおよびその近縁種の俗称)の漁獲量は平成5年以降減少しています(図1)。このトウダイツブは主にツブ篭により漁獲されていますが、平成10年頃からツブ篭へ入るヒトデの増加が漁業関係者から報告されてきました。入篭するヒトデはキヒトデ(写真1)と呼ばれる種類で、昔からホタテガイやマガキ、アサリなどを食べる害敵生物として知られています。
  このような状況から、キヒトデによる捕食がトウダイツブの漁獲量の減少要因ではないかと予想されましたので、キヒトデが実際にトウダイツブを捕食するのか確かめるために調査を行いました。また、同時に混獲されるアヤボラ(俗称ケツブ)についても調査しました。
    • 図1
      図1 釧路支庁管内のトウダイツブの漁獲量 (釧路市内漁協分を除く) 
    • 写真1
      写真1 キヒトデ (最大腕長約20センチメートル)

ヒトデの摂餌様式について

  調査結果を紹介する前に、ヒトデ類の摂餌様式について簡単に説明します。ヒトデ類の餌のとり方は大きく3タイプに分けられます。1つ目は餌を丸呑みして胃の中で消化するタイプ。2つ目は胃を反転させて口から体の外へ出し、餌を包んで消化するタイプ。そして3つ目は前の2つのタイプの中間で、飲み込むことができる大きさの餌は丸呑みして消化し、飲み込むことができない大きさの餌は口から出して反転させた胃で消化する1と2を併用するタイプです。キヒトデは3番目のタイプに該当します。

   以下に紹介します水槽内でのキヒトデの飼育試験は、丸呑みできない大きさの個体に対する捕食を、採集したキヒトデの胃内容物調査は丸呑みできる大きさの個体に対する捕食を確認するために実施しました。

結果

(1)水槽内での飼育試験
  同じ水槽でキヒトデ、ヒモマキバイ(トウダイツブ)、アヤボラを44日間、餌を与えない状態で飼育し、キヒトデによるこれら2種の巻貝に対する捕食状況を観察しました。その結果、キヒトデの摂餌意欲を確かめるために投入した生きたアサリについては捕食が確認されましたが、飼育期間中にこれらの巻貝がキヒトデに捕食されることはありませんでした(表1)。

  なぜアサリは食べてヒモマキバイとアヤボラは食べないのか不思議でしたので、飼育最終日に試しにこれらの殻を取り除いて与えたところ、キヒトデはこれらを捕食しました。このことから、少なくとも2種の巻貝の体内にキヒトデに有害あるいは嫌悪する物質が含まれ、このために捕食されなかったということではありませんでした。
表1 水槽内での飼育観察結果
    • 表1
(2)胃内容物調査
  トウダイツブの漁場で採集されたキヒトデの胃の中身を調査しました。100個体の観察を行ったところ、94個体は胃の中身が空っぽで、残り6個体の胃からは二枚貝やヨコエビ類が観察されましたが、トウダイツブやアヤボラは観察されませんでした。

まとめ

  殻を除去したヒモマキバイはキヒトデに捕食されたものの、自然状態においてはこのような状況はありえないことです。2つの調査結果からは海の中でヒモマキバイがキヒトデに捕食されているとは考え難く、トウダイツブの漁獲量の減少原因はキヒトデによる捕食ではなく、他に原因がある可能性が高いと考えられました。それではいったい何が原因なのか?これは今後解決しなければいけない課題です。
( 釧路水産試験場 資源増殖部 秦 安史 )