水産研究本部

試験研究は今 No.530「目合選択性試験-厚田ニシン漁期前調査-」(2004年9月22日)

目合選択性試験 -厚田ニシン漁期前調査-

  今年のニシンの豊漁で既に耳にした事もあると思いますが、北海道では日本海ニシン資源増大プロジェクトを平成8年から行っています。中央水試資源管理部では、その一環としてニシン資源の有効利用を図るため資源管理基礎調査を実施してきました。そのなかでメインとなっているのが、ニシン漁期前調査-目合選択性試験-です。これは刺網目合*1の大きさによるニシンのとれ具合の違いを調べて、自然産卵するニシン親魚を守ろうという調査です。

  調査結果はプロジェクト報告書*2に詳しく報告されています。その概要をかいつまんで紹介すると、1寸*38分目合では尾叉長23cmぐらい(2年魚)が良く掛かり、2寸では27cmぐらい(3年魚)が良く獲れるというものです。小さい目合では小さなニシンが、大きな目合では大きなニシンが獲れるという事です。

  小さな目合ですと、小さなニシンから大きなものまで掛かりそうですが、ニシン刺網の場合そうはなりません。小さな目合では大きなニシンは掛かりにくくなります。網目に魚が刺さるようにして掛かるため、小さな目合の網目では大きなニシンの刺し込み具合が不十分になり、網から外れやすいのです。

  しかし、ここで大切なのは「大きな目合では小さなニシンは掛からない」ということです。2年魚を自然産卵させるために漁獲せずに保護して、翌年、3年魚になってから獲ると、体重が1年間1.5倍以上になりますから、金額や漁獲重量の点からみて効率的で生産性が高いのです。

  ところでこの調査は、タイトルにもありますように1月中旬から始まるニシン漁期の前に試験調査を行い、漁況予報としても利用されています。漁業者の期待はこちらの方が大きいようです。ところが、調査で漁獲された量と商業漁獲量との相関はあまり高くありません。というのも、この漁期前調査でたくさん獲れたときは来遊量も多い傾向がみられますが、逆にあまり獲れなかったときは、漁獲量が少ないこともあるし、たくさんのときもあるからです。調査で獲れない理由には、潮回りが悪るかったり、来遊時期が遅れていたり、色々考えられるわけです。つまり漁期前調査で少ししか獲れなくても大してがっかりする事はないのです。

  この調査で得られる情報はそれだけではありません。ニシンの大きさ、年齢や成熟度も重要です。どの大きさの網目を使ったら効率良くたくさんのニシンが獲れるか、メスの卵巣(「数の子」の原料)の成熟度のすすみ具合は早いか遅いか、など漁師さんの興味はもっぱらこちらにあるのかも知れません。

  さて、今年、平成16年1月の調査ではびっくりするくらいのニシンが網に掛かりました。刺網9反*4で1.7トンのニシンが獲れました。それまでの最高が平成11年12月の65kgでしたから、実に27倍。調査に協力頂いている漁師Sさんの作業場はニシンで埋め尽くされました。3年魚が多いことは分かっていたのですが、年明け前の調査では10kg程度しか獲れませんでしたから、ここまで獲れるとは考えていませんでした。ただ、漁が早く始まった小樽や増毛でニシンが大漁していたので、Sさんの胸中には大漁の期待があったのでしょう。網揚げにはいつもより大きな船で出かけました。

  刺網目合別には2寸2分で833キログラムと一番たくさん獲れました。1寸9分では413キログラムで、2寸2分目合の約半分の漁獲効率となりました。掛かったニシンの大きさはどの目合でも27センチメートル前後が多く、3年魚主体。卵巣の成熟度はかなり進んでおり、値段も期待できそうでした。翌日には、これらの調査結果を厚田にある水産技術普及指導所K主査を通じて関係者に配布しました。

  その甲斐あってか、石狩、厚田、浜益では1月25日の解禁からわずか1週間で246トンもの水揚げがありました。これは平成15年の刺網総漁獲量184トンを上回る量です。年齢は予想どおり3年魚が主体で漁獲物の9割以上を占めていました。

  その後、ニシンの水揚げは順調に推移して3月末の漁の終わりまでに700トンを超え、小樽を加えると850トンに達しました。石狩湾系ニシンとしては過去最高。かつて日本海沿岸を繁栄させた北海道サハリン系ニシンの70万トンには比ぶべくもないですが、スーパーにも型の良いニシンがたくさん出回っていました。国産の「数の子」が生産されたとニュースにもなりました。

  さて、これだけ増えたニシン資源はこれからどうなるのでしょう。もっと増える?今年をピークに減ってしまう?これを知るためには、何故ニシンが増えたのかを調べなくてはなりません。

  ニシンが増えたのは人工種苗を放流したからでしょうか?平成13年のニシン稚魚の放流尾数は136万尾です。回収率をちょっと高めに3パーセントと見積もり、全て3年魚で水揚げされたとした場合、期待される放流魚の漁獲量は10トンぐらいです。これではとても850トンの説明は付きません。

  やはり自然の生産力には敵わないようです。今年たくさん獲れた3年魚が生まれた平成13年、実はこの年のニシン親魚もかなり多かったのです。たくさん親魚が産卵して、生まれた仔の生き残りが良い場合にニシンは増えるのです。

  これまでニシン漁獲物の年齢を調べた結果、平成7年,8年と13年の生き残りが特に良かったことが分かってきました。ところが13年に続く14年生まれはかなり生き残りが悪い見込みです。これは毎年初夏に行なう石狩川河口域での稚魚調査から推定することができるようになりました。

  こうして考えると、来年は今年より増えるとはまず考えられません。今年の3年魚の生き残りが漁獲物の中心となると考えられます。その後も平成7年や13年の様に生き残りの良い年が来るまで、漁獲量は少しずつ減っていくと予想されます。

  試験場では、漁期前調査の結果から刺網目合を2寸以上にすることを提案しています。はじめに述べたように、2寸以上では2年魚はほとんど掛かりませんから、産卵する親魚を確保する事ができます。

  そうして自然産卵で生まれた稚魚、未成魚を保護して生き残り率を高めることが大切です。放流事業が始まって、漁業者の皆さんが浜辺によってくる4~5センチメートルの小さなニシンを大切にするようになったと聞いています。ニシンを日本海の特産として、孫の代まで利用できるよう皆さんの協力をお願いします。
最後になりましたが、石狩湾漁業協同組合、石狩地区水産技術普及指導所の皆様にはいつも調査に協力を頂きお礼を申し上げます。 
注)*1:網目の大きさ。*2:平成11年~13年度 日本海ニシン資源増大プロジェクト報告書、179-227。*3:1寸は約3センチメートル。*4:3反で長さ約450メートル。商業漁業ではこれを10組使用する。
(中央水産試験場資源管理部 三宅博哉)
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