水産研究本部

試験研究は今 No.537「ホタテガイの成長特性と適正利用に関する研究」(2004年12月6日)

「ホタテガイの成長特性と適正利用に関する研究」— 最終結果

  平成11年度から実施した委託研究「ホタテガイの成長特性と適正利用に関する研究」は平成15年度で終了しました.この結果,平成11年6月の放流直後から,平成15年5月の漁獲終了時まで,ホタテガイ成長,密度および漁場環境のデータが得られ,資源量推定,密度効果に関して数々の有益な成果を得ることができました.今回はその最終目的である放流ホタテガイ成長モデルの解析結果およびホタテガイ漁場管理策定ついて紹介します.

  放流ホタテガイ成長モデルは,放流漁場下での放流ホタテガイの成長予測を目的としています.成長に影響を与える因子として以下の5つを想定しました.
1.底層水温 Tt(摂氏度)
2.クロロフィルa量 Ct(ミリグラム/立方メートル)
3.生息密度 Dt(個体数/平方メートル)
4.閉殻筋グリコゲン含有量 Gt(ミリグラム/wg)
5.ホタテガイサイズ St(重量グラム,殻高ミリメートル他)

  ここで1から3はホタテガイの代謝や栄養状態に影響を与える外的要因,4および5はホタテガイの成長率を反映する内的要因です.これらの変数を組み合わせて100通りのモデルを計算した結果,底層水温 Tt(摂氏度),クロロフィルa量 Ct(ミリグラム/立方メートル),生息密度 Dt(個体数/平方メートル),ホタテガイサイズ St(重量グラム,殻高ミリメートル他)の4変数を使ったモデルが最良でした.ただしホタテガイサイズ Stは種苗放流時のサイズだけが必要です.

  この最良モデルを応用する場合,放流種苗サイズが決まると,定期的な海洋観測と写真法による密度調査を併用することで,漁場のホタテガイを直接採集することなく非破壊的に成長予測ができる可能性を示しています.このパラメータを利用すれば,表計算ソフトウェアによる予測シミュレーションが可能です.

  図1は実際の平均放流時殻高46.48ミリメートルを初期値として,調査時の海洋変動下で,最良モデルを1450日分計算したシミュレーション結果と,実測値をプロットしたものです.
    • 図1
      図1 最良成長モデルのシミュレーション結果.
  このモデルを漁場管理へ応用する場合,漁獲時のサイズに合わせた放流種苗サイズや放流密度の算定,短期的な成長予測から,成長不良を示す海洋変動パターンの早期発見の2点が考えられ,この観点から,放流ホタテガイ漁場管理に関して図2のようなスキームが考えられます.
    • 図2
      図2 成長モデルを組み込んだ放流ホタテガイ漁場管理のスキーム.
  このスキームによる調査では,これまで主に行われてきた桁網調査によるホタテガイサンプリングは補助的なものとなります.
  注意点は,今回のモデルとパラメータ値の安定性です.経験上,海洋環境の年変動も大きく,漁場ごとに生産力は異なります.そのため,漁場が異なれば同様な調査とモデル当てはめが必要となるでしょう.
(網走水産試験場 資源増殖部栽培技術科長  桒原 康裕)

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