水産研究本部

試験研究は今 No.543「サケの自然再生産調査について」(2005年3月18日)

サケの自然再生産調査について

  昨年、本道の秋サケ来遊数(沿岸漁業による漁獲尾数と河川遡上した親魚の捕獲尾数をあわせた尾数)が、史上初めて6,000万尾を超え、2ヵ年続きの豊漁となりました。本種の人工ふ化放流事業は、明治半ばに始まりましたが、1970年代に入って施設整備による放流数の増加、給餌飼育による放流稚魚の大型化と適期放流という技術開発によって資源は飛躍的に増大してきました。最近10年で見ると、全道でおよそ10億尾の稚魚が放流され、来遊数は年により変動はありますが、平均すると5,000万尾の高いレベルで推移し、人工ふ化放流事業の現状の目標とする10億尾放流—来遊5,000万尾が現実のものとなっています。これら来遊資源は、秋サケについては、ほとんどすべてが、人工ふ化放流により支えられていると考えられています。
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  秋サケの人工ふ化放流計画は、道が定める方針に基づき、種卵を採るための親魚捕獲河川や河川毎の捕獲尾数、採卵数、放流河川(場所)と河川毎の放流尾数が、地区の要望も踏まえながら、毎年、策定されています。近年、増殖事業コスト削減の取り組みが進められる中で、捕獲河川が集約化され、稚魚の放流は行われるものの親魚の捕獲事業を廃止する河川が増えています。先頃、決定された平成17年度計画においては、稚魚の放流水系数は136で、そのうち44水系では捕獲事業は行われていません。これらの河川や、捕獲河川においてもウライから逃逸したりウライが入っていない時期に遡上した回帰親魚は、河川環境が良好であれば、自然産卵できる状況にあります。しかし、遡上親魚の自然産卵の状況、稚魚までの生き残り、さらには回帰効果については、十分に明らかにされていないのが実情です。そこで、これらを解明するための調査が、根室管内さけ・ます増殖事業協会の多大な協力を得て始まりましたので、紹介したいと思います。

  初年度、調査河川として選定したのは、水産孵化場道東支場からも近い羅臼町と標津町の境を流れる植別川です。本川へは、根室管内さけ・ます増殖事業協会植別川ふ化場で生産された300~400万尾の稚魚が飼育池水路(河口から400メートル上流)から放流されてきましたが、親魚捕獲は平成11年度の見直しで中止されています。植別川は、海別岳の原生流域を源とし、遡上障害となるダムや人工護岸等の河川内工作物が極めて少ない自然河川です。本流の流路延長は20キロメートルですが、河口からおよそ8キロメートル上流から両岸が切り立った崖のハコとなり、10キロメートル上流にあるやや勾配のきつい岩盤滝で、シロサケはここで、遡上がはばまれているようです。ほかのサケ科魚類では、オショロコマ、サクラマス(ヤマベ)、カラフトマスが確認されました。
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  調査内容は、遡上親魚数の推定、産卵床の数と分布状況、稚魚の降河時期と数量、自然産卵由来の稚魚と人工ふ化放流稚魚の河川回帰状況と産卵場所の把握、大きく4つに分かれます。

  遡上親魚数は、河口域やふ化場の排水部に集まった親魚を捕獲・ディスクタグ標識放流し、標識再捕法による推定を考えました。昨秋は、380尾に標識を施し、9月下旬から12月下旬まで週1回、河口から7キロメートル上流までの区間を歩いて、産卵床の位置と数、サケ親魚の目視尾数、斃死魚の数と標識の確認を行いました。サケ親魚は、河口から10キロメートル上流で目視確認され、産卵床は7キロメートル上流までの区間で、およそ130床が確認されました。
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  週1回のペースで歩行調査を行いましたが、ディスクタグ標識魚の斃死魚は9尾しか発見できませんでした。産卵後の斃死魚、瀕死魚が、秋の深まりとともに数を増すオジロワシ、オオワシやヒグマ等によって、歩行調査で眼の届かないところに持っていかれる割合が高いのかとも感じました。また、郵送で1尾の再捕報告を頂いております。なぜか、差出人が記されていませんでした。
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  厳しく長かった冬が去り、これらの産卵床から、いつ、どのくらいのサケ稚魚が降海するのでしょうか。
現在、降河する魚類を連続的に効率的に採捕できるロータリー式スクリュートラップを設置し、降河する時期や稚魚数を推定する準備を進めています。このトラップは、さけます類の稚魚や幼魚の降海数推定調査のためにアメリカで開発されました。2基のフロートにはさまれたコーン(直径1.5メートル)が流れを受けて回転し、降河してくる魚をトラップします。少々の増水であれば、連続的に採集が可能で、コーンの角度を変えることができ、開口部を水面上にあげることもできます。大きさは、全長5.7メートル、幅2.8メートルとやや大きいですが、主な材質がアルミニウムのため、パーツ毎の重さはそれほどでもありません。これまで、道北の増幌川、道南の突符川においてサクラマスのスモルト幼魚降河尾数調査のために用いられた実績があります。
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また、植別川ふ化場から放流される稚魚には、卵の時期にアリザリンコンプレクソン(ALC)という蛍光物質の耳石標識を施していて、降海した稚魚が北太平洋を回遊して回帰してくる3~6年後、河川回帰親魚の標識魚混入率を調べることで、自然再生産由来稚魚と人工ふ化放流稚魚の割合や回帰効果が明らかとなる計画です。
自然産卵由来のサケは、それぞれの地域環境に適した遺伝子を残すことから生物多様性の保全、ならびに良好な産卵あるいは稚魚の生息環境を維持する必要性から河川環境保全においても、また遡上親魚を中心とした食物連鎖による物質循環においても、多大な貢献が期待されます。7ヵ年続く本調査により、自然再生産の実態をいくらかでも明らかにできればと考えています。

(水産孵化場道東支場 竹内 勝巳)

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