水産研究本部

試験研究は今 No.544「アサリに寄生するパーキンサス属原虫の道内における分布について」(2005年4月15日)

アサリに寄生するパーキンサス属原虫の道内における分布について

はじめに

  パーキンサス属原虫(Perkinsus spp)はアピコンプレックス門に属する原虫で、二枚貝や巻き貝に寄生することが知られています。人体に影響はないとされていますが、海外ではこの原虫の仲間が原因となり、アワビ、カキ、ホタテ等の資源に大きな被害を及ぼした例がいくつか報告されています。

  日本国内では1998年に熊本県と広島県のアサリにパーキンサス属原虫の寄生が報告され、翌年に北海道東部と北部太平洋を除いた全ての地点で本原虫の寄生を受けていることが公表されました。そこで、水産試験場では北海道沿岸各地に生息するアサリを採取しパーキンサス属原虫の検査を行い、その詳細な寄生状況を得たので、ご紹介いたします。

パーキンサス属原虫の生活史

  パーキンサス属原虫は海水中で遊走子を形成します。この遊走子は、寄生虫が宿主の細胞から出て他の貝に感染することのできる形態で、運動性があります。これが貝に接触すると内部に侵入し、鰓や外套膜、内臓の結合組織に寄生し栄養体を形成します。栄養体とは、寄生虫が宿主の細胞内で成長、増殖している時期で、原虫の成体に相当する形態です。運動性はありません。そして貝が死ぬと栄養体は海水中でまた遊走子を形成するという生活史を持っています。
    • 図
      図.パーキンサス属原虫の生活史(S.Auzoux-Bordenave et.al.1995より)
    • 図

      図.パーキンサス属原虫に感染したアサリ
      内臓の結合組織中の栄養体(矢印)

調査地点

  アサリの生息する津軽海峡1地点、南部日本海2地点、石狩湾3地点、北部日本海2地点、オホーツク海4地点、北部太平洋3地点、噴火湾1地点の計16地点からアサリを採取しました。

検査方法

  アサリから鰓と外套膜を取りだし、チオグリコレート培地を用いて25度、5日間暗所で培養し、ルゴール液で染色し栄養体を顕微鏡下で観察する培養法で行いました。

結果と考察

  パーキンサス属原虫は津軽海峡から石狩湾、北部日本海の8地点のアサリから検出されました。一方でオホーツク海、太平洋側のアサリからは全く検出されませんでした。このようにパーキンサス属原虫は日本海側沿岸域すべてに分布し、太平洋側沿岸からは全く検出されないという結果から、分布は日本海を北上する暖流の影響や、夏場の水温の影響を受けているのではないかと考えられました。

  アサリでは本原虫の感染が直接貝の死亡に結びつくとは今のところ考えられていませんが、産卵時に何らかの悪影響を及ぼし、資源量の減少につながるのではないかと言われています。いずれにせよ、感染の拡大を防ぐためには感染地域である日本海側のアサリを未感染地域の太平洋側に持ち込まないことをようにしなければならないと考えております。(中央水産試験場 資源増殖部 西原 豊)

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