水産研究本部

試験研究は今 No.549「アサリ親貝を飼育する!-アサリ種苗生産技術開発試験 I 親貝飼育水温の検討-」(2005年6月22日)

アサリ親貝を飼育する! -アサリ種苗生産技術開発試験Ⅰ 親貝飼育水温の検討-

はじめに

  アサリは日本中どこでも棲息している二枚貝で,潮干狩りを楽しんだり,みそ汁や酒蒸し,アサリご飯にして食べたりと,非常になじみ深い貝です。しかしながら,全国的にアサリ資源は減少しています。そのため,資源管理やアサリ稚貝を他の地域から移殖するなどの対策がとられています。北海道では,道東地域を中心として年間約1,500トンの漁獲があります。他の都府県と比べて資源は比較的安定していますが,その資源維持のために,他県と同様の対策を行っています。ところが,他地域からの移殖は,病気や遺伝的な問題から規制される傾向にあります。アサリの種苗放流を行うにあたり,安全な貝を確保するためにも,北海道産のアサリを用いた種苗生産技術の開発が望まれています。そこで,栽培漁業総合センターでは現在,採卵から着底期稚貝までの生産技術の開発を行っています。今回は,産卵誘発に用いる親貝の適正飼育水温について行った試験結果と飼育中に起こった自然産卵について紹介します。

親貝飼育水温の検討

  栽培センターでは,アサリの種苗生産を行うにあたり,親貝を能取湖から搬入しています。このアサリをすぐに産卵誘発に用いれば,親貝を飼育する必要はありませんが,馴致したり,誘発に用いるまで期間があったりするときは,水槽でしばらく飼育する必要があります。そこで,親貝飼育のための適温を調べるために,アサリを約14度(低水温区),自然海水温(自然海水温区),約18度(高水温区)で平成14年6月27日から8月7日まで飼育しました(図1)。水槽は,5センチメートルの厚さに砂を敷いた角形プラスチック水槽(約80×50×15センチメートル)を用い,そこへ70個体のアサリを収容しました。餌は,植物プランクトン(テトラセルミス)を1日1度(飼育水1ミリリットルあたり25万細胞)与えました。8月7日には,アサリを取り上げて生物測定を実施し,同時に,アサリ軟体部に0.05Mのアンモニア溶液を0.1ミリリットル注射して産卵誘発を行いました。この41日間の飼育の結果,各区とも肥満度の低下が見られました。しかも肥満度の低下は,高水温で飼育するほど大きくなりました。また,産卵誘発を行った結果,低水温で飼育していた30個体のアサリから816万個の卵が得られたのに対し,高水温で飼育していたアサリからは,126万個の卵しか得られませんでした。この飼育期間中,自然産卵は見られませんでした。以上の結果から,比較的低水温で飼育することが肥満度と産卵量の維持に有効であると考えられました。しかし,高水温での飼育では,アサリの代謝量が増大し,エネルギー消費過多から肥満度の低下をまねいた可能性もあります。これには,給餌量を多くしたり,餌プランクトンを変更することで対処できるかもしれません。
    • 図
    • 表

自然産卵について

  平成15年6月30日に能取湖で採集されたアサリを翌日栽培センターへ搬入し,8月19日まで先述の試験と同様に水温別に飼育していたところ,自然産卵が見られました。平均水温17.4度で飼育していた高水温区では,7月29日(水温17.6度)に自然産卵が見られました(図2)。飼育水槽では,水が白く濁り,水槽の砂の上には卵がつもっていました(図3)。また,自然海水温で飼育していた区(平均水温15.0度)でも,8月13日(水温18.3度)に自然産卵が見られました。この年は,7月31日に採集され,翌日搬入されたアサリでも8月12日(水温17.1度)と8月13日(水温17.3度)に自然産卵が起こってしまいました。自然産卵をした親は採卵には使うことができません。これらのことから,親貝の飼育には,17度を越えないように水温を設定する必要があることがわかりました。さて,この年に自然産卵が起こった日にちは,先述したとおり7月29日(新月)と8月12日(満月)および13日でした。これらの日はすべて大潮の日です。水槽で飼育されていたにもかかわらず,大潮の日に産卵したということは,アサリは通常大潮の日に産卵し,また,潮の満ち引きのリズムを覚えているのかもしれません。
    • 図2

今後の課題

  今回行った親貝飼育水温に関する試験の結果,高水温で飼育すると,身痩せが起こり産卵数が減ること,また,自然産卵してしまう可能性があるため,比較的低水温で飼育する必要があることがわかりました。今後は,これらの親貝から容易にかつ大量の卵を得るための技術を開発していく予定です。(栽培漁業総合センター 貝類部 清水洋平)
    • 図3

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