森とみどりのQ&A(病虫獣害・病害)
病虫獣害/病害
Q1.いったん、芽吹いたサクラの枝が夏までに枯れてしまったが、病気だろうか?
Q2.サクラのてんぐ巣病について、サクラの品種とかかりやすさ・感染経路・病原菌の種類・被害木の防除方法を知りたい。
Q3.サクラの枝にたくさんこぶがついて徐々に枯れてくるが、どういう病気か?
Q5.ハマナスの葉の色が悪くなり、葉の裏にオレンジ色の粉がついているが、病気か?
Q7.イチイ(オンコ)の葉が、ススがついたように黒く汚くなっているが、原因と対策を知りたい。
Q8.プンゲンストウヒの葉が赤くなって落葉するが、原因と対策を知りたい。
Q9.二葉マツ類(アカマツ、クロマツなど)の枝が枯れるが、原因は?
Q10.シンパク(ミヤマビャクシン)の枝が枯れ込むが、原因は?
Q11.トドマツの葉が「すす」がついたように黒くなっているが、どうしてか?
Q14.ミズキの枝の切り口からオレンジ色のものが大量に流れ出ており気味が悪いが、これは一体何でしょう。
Q15.ツツジに薄い緑色のコケがびっしり着き、弱って枝が枯れ込んできますが、何か良い防除法はないでしょうか。
Q16.リンゴ赤星病の予防のため、近くにヒノキ科のビャクシン属の木(シンパクやカイヅカイブキ)を植えてはいけないが、ビャクシン属以外ならヒノキ科の樹木を植えてもいいのでしょうか。
Q17.海岸に自生しているハマナスが衰弱して枯れてくるが病気でしょうか。
Q18.自宅(道南地方)に植栽しているヤクシマシャクナゲ(樹高約1.2m)の枝や幹が黒くなっています。
Q19.公園の藤棚のフジに「こぶ」がたくさんついているが、病気でしょうか。(道南地方)
Q20.街路樹のプラタナスの葉が枯れ、小枝も枯れてきますが、原因は何でしょう。
Q21.スギ幼齢造林地で枝枯れ被害が発生しているので原因を調べてほしい(道南地方)。
Q22.公園に植栽されたセイヨウブナに葉枯れ、枝枯れが目立つのですが原因は?
Q23.港のそばに植栽されているハマナスが全体的に黒っぽくなり、衰弱して枯れてきていますが、原因は?
Q24.1.モンタナマツの枝にこぶがついて枝が枯れました。
2.アカマツの枝にできた「こぶ」からオレンジ色の粉が吹きだしてきました。原因を教えてください。
Q25.実生苗ではなく挿し木苗でヒバの植林を進めているが、挿し穂の切り口から腐朽菌が侵入して、将来褐色腐朽になることはないでしょうか。
Q26.トドマツ人工林で、ほとんどの幹にスポンジ状で焦げたような黒い斑点が無数に付着していましたが、これは何でしょうか。
Q27.道南地方で養成している1~2mのプンゲンストウヒに先枯れ、落葉症状がみられます。
Q29.スギ幼齢造林地で多くのスギに胴枯れ症状が見られるが、原因は?
Q30.カシワ林の中で1本(直径64cm)だけ樹冠全体の葉がまだら状に変色していますが、原因は?
Q32.3年前に購入したプルーンの葉が黄変して枯死しましたが、枯死原因は?
Q33.アカエゾマツの一部の葉が黄変し、葉には小さくて白い袋状のものがついていますが、何でしょう。
Q34.道央のアカエゾマツ造林地(4年生)で、枯れた針葉には菌糸がからみついていますが、暗色雪腐病ではないでしょうか?
Q35.ジャイアントセコイアの新梢先端部が萎凋、褐変枯死します。
Q36.シャクナゲ(ニッコウシャクナゲ)の葉先が枯れてきました。
Q37.チシマザクラ苗木の枝に黒っぽいこぶ状のふくらみがいくつもみられます。
Q38.天然老木、若い庭木を問わず、イチイの新葉に黒点が生じ、新梢は触れると簡単に落ちてしまうが何でしょう。
Q41.庭木のクロマツの枝先がたくさん枯れて元気がありません。
Q43.漁協所有のミズナラ林、町有カシワ林で枝枯れが目立ちますが原因は。
Q44.ソメイヨシノにサクラてんぐ巣病が激発したため断幹しましたが、萌芽枝にもてんぐ巣病が発生してきました。
Q46.8年生トドマツ造林地でてんぐ巣病と思われる被害が1割程度発生しています。
A1.おそらく、「胴枯病」でしょう。この病気は北海道のサクラの大敵で、各地のサクラの衰退の原因になっています。患部はやや陥没してヤニを生じ、やがて多数の小隆起(病原菌の菌体)が現れます(写真)。
枯れた枝は病斑を残さないよう健全部を含めて切り取り、切り口には有機銅塗布剤(バッチレート)またはチオファネートメチルペースト剤(トップジンMペースト)を塗っておくとよいでしょう。
A2.サクラの品種とかかりやすさ・感染経路・病原菌の種類
サクラの種類や品種間で著しい発生程度の差異があります。ソメイヨシノやコヒガンザクラなどは極めて弱く、病樹の退廃が著しいです。病原菌の菌糸は、病枝や冬芽の中で越冬します。病枝の葉は小型化し、開葉後まもなくその裏面に白い粉(胞子)を生じてやがて黒変・萎縮します。この胞子が飛散して新たに感染するほか、枝および冬芽の表面に付着して越冬した胞子も伝染源になります。病原菌はタフリナ菌という糸状菌の一種で、子のう菌類に属します。
・被害木の見分け方・防除時期
「てんぐ巣病」にかかると、枝が異常に多く分岐して鳥の巣状やほうき状になり、花をつけず(写真)、やがて枯れてしまいます。病枝につく葉は小型で、こうした「てんぐ巣」症状を示す枝の基部はこぶ状にややふくらんでいます。防除は、冬季~早春に行います。芽が開く前に病枝基部のふくれた部分(ここに病原菌が生息する)を含めて病枝を切り取り、切り口に殺菌・癒合促進効果のあるチオファネートメチルペースト剤(トップジンMペースト)を塗ります。切り取った病枝は感染源となるので、サクラの周辺に放置せずにゴミとして処分する必要があります。本病は苗木や幼齢木から発病し、病巣は年々大きくなります。防除の手間および病樹の負担を少なくするためには、病巣が小さいうちにこまめに防除するのがよいでしょう。
A3.「こぶ病」と思われます(写真)。「胴枯病」のようにすぐには枯れませんが、こぶがたくさんつくと枝が枯れ込んでくるため、この病気は北海道のサクラの衰退の原因の一つになっています。病原は細菌の一種であることがわかっていますが、病気の生態や効果的な防除法はわかっていません。こぶがついた枝が少ない場合は枝を切り取って焼却するとよいでしょう。しかし、全体の枝にこぶがつくことも多く、この場合は枝を切り取るわけにもいきません。「こぶ病」にかかっていても、木が衰弱枯死するまでには、まだかなりの期間花を楽しめるので、あせって伐採する必要はないでしょう。
一般に、サクラを新植する場合は、苗木の時点で「こぶ病」や「胴枯病」に罹病していないかどうか確かめることが大切です。
A4.「レウコストマ胴枯病」ではないでしょうか。本病の場合、患部の樹皮が黒変し、樹皮上には多数の白点(病原菌の菌体の一部)が現れるのが特徴です(写真)。白点部分からは、やがてチョコレート色の粘塊(病原菌の胞子の塊)が噴出してきます。この病気は、北海道ではナナカマドの衰退原因の一つになっていますが、通常、健全なナナカマドには発生しません。
対策としては、植栽環境を整えて、健全な発育を促すことが必要です。また、枯れ枝は発見次第切除し、切り口にはチオファネートメチルペースト剤(トップジンMペースト)を塗るとよいでしょう。
A5.「さび病」と思われます。葉のほかに、葉柄、果実、伸長中の当年枝にも発生し、いずれも患部からはオレンジ色の粉(病原菌の胞子)が吹き出します(写真)。秋になるとオレンジ色の胞子は消失し、患部はチョコレート色の粉(病原菌の別の胞子)で覆われます。「さび病」は、ハマナスにふつうに発生しますが、枝や株を枯らすことはありませんので放置しておいても大丈夫でしょう。ただ、毎年、激しく発生するようであれば、株が衰弱する可能性があります。
チョコレート色の胞子を形成した罹病葉が翌年の感染原になるので、病落葉をていねいに集めて焼却すれば翌年の発生は減るでしょう。
本病防除のための登録薬剤はありませんが、類似病害であるバラ類さび病の登録薬剤としては、マンゼブ水和剤(ジマンダイセン水和剤)、トリアジメホン乳剤(バイレトン乳剤)があります。
A8.「かさぶた状葉さび病」ではないでしょうか。この病気の場合、罹病した当年葉には、夏~秋にレモン色の退色部が形成され人目を引きます。翌春、プンゲンストウヒが芽吹く頃、黄変した罹病葉の葉裏には橙黄色の隆起(病原菌の菌体)が現れ(写真)、胞子を飛散させたのち落葉します。トウヒ類のなかでも、プンゲンストウヒはこの病気にかかりやすい樹種ですが、罹病の個体差が大きいように見受けられます。激害木は、着葉量が少なくなり、樹形も損なわれてやがて枯死するので、感染源を減らすためにも早期に伐倒除去した方がよいでしょう。
本病防除のための登録薬剤はありませんが、同じ針葉樹であるビャクシン類のさび病防除にはメプロニル水和剤(バシタック水和剤 75)が登録されています。
A9.「皮目枝枯病」かもしれません。この病気の場合、7~8月になると、枯死枝には肉眼でも容易に観察できる褐色の菌体が多数群生して現れます(写真)。本病はふつう衰弱したマツ類に発生して枝枯れや枯死を招きますが、健全に生育している木には発生しません。乾燥ストレスや根の成長不良などが発生誘因になるので、マツ類の植栽環境を整えて、健全に生育させることが本病発生防止につながるでしょう。なお,枯死枝上に形成される菌体が新たな感染源になるので、枯死枝は早めに切除した方がよいでしょう。
A10.5~6月にシンパクの枝が枯れる原因の一つに「さび病」があります。枯れ枝上に形成される病原菌の菌体は、水分を吸収すると橙黄色、ゼラチン状に大きくふくらむので、診断は容易です(写真)。
ところで、シンパクの近くにナシ、ボケ、ナナカマド、リンゴ、ズミなどのバラ科樹木が植えられていないでしょうか?これらの樹木に「赤星病」を起こす病原菌がシンパク当年生針葉に感染し、約半年の潜伏期を経て「さび病」を起こします。
対策としては、シンパク類とバラ科樹木の混植を避け、感染源を除去するためシンパクの枯れ枝を早春に切除するとともに、初夏からバラ科樹木に発生する「赤星病」の病葉を発生初期に摘み取るとよいでしょう。
ビャクシン類さび病の登録薬剤には、メプロニル水和剤(バシタック水和剤 75)と石灰硫黄合剤があります。
A14.これはミズキの樹液に菌が繁殖したものです(写真)。春先は樹液の流動が活発で、広葉樹では枝や幹に新しい傷があるとそこから樹液が漏れ出します。樹液は養分が豊富なのですぐに菌(カビや酵母)が繁殖しますが、中には赤っぽい色素を出す菌がおり、樹液の流れた部分がオレンジ色の物体で覆われたように見えます。サンプルを顕微鏡で観察したところ、オレンジ色の物体は酵母ではなくカビの一種であるフザリウム(Fusarium)菌の菌体であることが確認されました。この菌も樹液でよく繁殖し、オレンジ色の色素を出すことが知られています。ミズキはその名のとおり樹液が多く春先には傷口から大量の樹液が流下するので、こうした現象はほかの樹種より目につきやすいと思われます。なお、樹液で繁殖した菌が樹木に悪影響を及ぼすことはありません。
A15.ツツジに着いているのは普通のコケ(蘚苔類)ではなく、地衣類だと思われます(写真)。地衣類は菌類がその体の中に藻類を取り込んだ複合体で、菌類は藻類にすみかと水分やミネラルを与え、藻類は光合成によってできた養分を菌類に与えるといった、持ちつ持たれつの関係(共生)にあります。ですから地衣の体の大部分は菌で構成されていますが、この菌は着生植物から養分を奪わなくても生きていけます。また、地衣を構成している菌が植物体内に侵入している例はほぼ皆無です。地衣体に含まれる水溶性成分が植物に悪影響を与えることを示唆する文献も一部にありますが、一般に地衣類は樹木に対して無害であると考えられています。ツツジが弱るのは病虫害や生育不適な環境条件(特に土壌条件)など様々な原因が考えられます。原因特定のためには詳しい観察が必要です。地衣類を駆除するための登録薬剤は無く、防除の必要性も認められませんが、どうしても気になるならタワシか歯ブラシ、竹べら等でこすり落とすとよいでしょう。
A17.「ハマナスてんぐ巣病」(写真)の可能性があります。本病は北海道のハマナス自生海岸では大なり小なり発生が認められます。この病気であれば、次の症状が株全体に現れます。すなわち、開葉間もない葉に橙黄色の斑点が現れ、青臭いにおいがし、初夏になると葉が褐色の粉(病原菌の胞子)で覆われます。枝が密生し、葉の色がうすくなるのもこの病気の特徴です。本病はさび病の一種ですが、中間宿主はありません。登録薬剤がなく、被害も全身性なので防除は困難です。ただ、被害株には大量の胞子が形成されますが、隣接株が健全な場合も多く、実際、被害株は点在し、集中的発生がみられないことから、被害が急速に蔓延する病気のようには思えません。被害株は回復の見込みがなく、いずれ枯死するので、景観上問題になるなら被害株は発見次第抜き取って焼却するとよいでしょう。
A19.「フジこぶ病」です(写真)。地際から枝先まで大小さまざまなこぶが形成され、枝枯れや樹勢低下を招きます。著名な樹木病害ですが、北海道では極めて珍しい発生事例と思われます。北海道ではフジは自生せず、公園や庭園の藤棚も数が少ないからでしょう。病原は細菌の一種で、ツルや葉柄にできた小さな傷から侵入感染すると考えられます。完全な防除は困難でしょうが、発病初期で患部(こぶ)が少ない場合は、罹病したツルや枝を切り取るか患部を削り取るとよいでしょう。この場合、使用する剪定バサミやナイフは、1回ごとにアルコール等で消毒した方がいいでしょう。
A20.被害葉の褐変は葉脈に沿って拡大進行する特徴がみられ、褐変部の葉の表裏には白色~淡褐色の微小な胞子塊が認められます。こうした特徴や胞子の顕微鏡観察結果などから、この被害は「プラタナス炭疽病」(写真)と考えられます。本病は葉枯れや枝枯れを起こし欧米では著名な病害ですが、日本での発生実態は不明です。本病は、気象条件などによって被害の目立つ年があっても数年のうちに回復することが多く、苗木や幼木以外では特別な防除は必要ないと言われています。落葉の除去や罹病枝の剪定は、感染源を減少させるという意味で被害軽減に一定の効果があるでしょう。なお、一般に街路樹や公園に植栽されているプラタナスは本病に抵抗性のスズカケノキ(Platanus orientalis)と感受性のアメリカスズカケノキ(P.occidentalis)の交配種モミジバスズカケノキ(Platanus × acerifolia)で、本病に対する抵抗性の程度は個体によって様々なようです。
A21.症状は当年伸長枝の枝枯れで、被害部にみられる菌体(分生子)の形態からみて、「スギ軸枯病」(写真)と思われます。本病に関する情報は少ないのですが、凍害などの気象害が誘因になって発生すると考えられており、毎年被害が継続拡大する可能性は小さいと思います。できる範囲で枯死した枝幹を剪定し、しばらく経過観察してはどうでしょう。
A22.成熟葉(葉の大きさ、色とも全体的に異常なし)で、葉脈の間が葉表にやや盛り上がり、葉全体として波打っているような葉がありますが、これは「葉ぶくれ線虫病」の可能性があります。今は葉の中の線虫密度が低いせいか、顕微鏡観察ではセンチュウは確認できていませんが、葉脈の間が黄色くなってくれば「葉ぶくれ線虫病」(写真)とみていいでしょう。一部の葉に委縮、黄化症状がみられます。ブナはアブラムシの寄生によってこうした症状が現れることがありますが、アブラムシの痕跡(葉裏の脱皮殻など)は無く、この原因は不明です。葉枯症状を示す葉では、褐変部分すべてにクラドスポリウム(Cladosporium)属の一種と思われる菌がみられます。この属の菌には植物病原菌もありますが、病原性がほとんど無い種類もあり、今回みられた菌が葉の褐変(葉枯れ)の一因かどうかは即断できません。色がうすい新しい葉が今頃展開しています。春に展開した葉が虫害などによって消失した場合などにこのような現象が現れる事がありますが、原因については何とも言えません。以上が送付された被害枝葉についての所見ですが、現地をみないとわからない点も多くあります。なお、被害木にはゴマダラカミキリの穿入口がみられることもあるとのことですが、上記の諸症状はゴマダラカミキリと関わりがあるかもしれません。もう少し詳しく調べてみてください。
2.アカマツの枝にできた「こぶ」からオレンジ色の粉が吹きだしてきました。原因を教えてください。
A24.「マツこぶ病」(写真)です。橙黄色の粉は病原菌の胞子(さび胞子)で、これが中間宿主であるナラ類の葉に感染して「ナラ類毛さび病」を起こし、ナラ類の葉に形成された胞子(冬胞子-小生子)が今度はマツの枝に感染します。このようにナラ類が中間宿主になるので、近くにナラ類(ミズナラやコナラ)が植栽されていると、被害が拡がる可能性が高いと思われます。罹病枝(こぶから先の部分)は、すぐには枯れませんが、いずれ枯れてしまいます。マツの個体によってこぶ病に対する感受性がかなり違うようなので、近くにあっても今発病していないマツは、たぶん大丈夫でしょう。早期に発見して、枝が細いうちに罹病枝を切除すれば樹形を損ねる程度が少ないので、日頃の観察が大切です。
A26.「トドマツこうやく病」(写真)と思われます。直径数cm~20cmの類円形の菌体が幹に貼り付きます。成長が旺盛な菌体は周縁が白色で全体的に黄土色を呈し、表面は柔軟で比較的なめらかですが、古くなると菌体に亀裂が入り、やがて暗褐色となって剥がれ落ちていきます。菌体に覆われた樹皮の表面には必ず多数のカイガラムシ(トドマツニセカキカイガラムシ)が認められ、菌体に取り込まれたような状態になっています。トドマツこうやく病菌について詳しい情報はありませんが、一般に、こうやく病菌はカイガラムシと共生していると考えられています。こうやく病菌の菌体に覆われることによって、カイガラムシは天敵から身を守ることができ、不都合な環境条件からも保護される安全なすみかを得ることができます。一方、病原菌は菌体に取り込んだカイガラムシの体液や排泄物を利用して養分を安定的に得るほか、胞子がカイガラムシの幼虫によって分散を助けられるというメリットがあります。カイガラムシは菌の寄生を受けても死ぬことなく樹液を吸い続けるようです。トドマツの場合、こうやく病菌が着生した部分の樹皮は荒れてきますが、樹皮下の生きた細胞に病原菌の菌糸は認められていません。樹皮の荒れの原因はむしろカイガラムシの加害によるものでしょう。これらのことから、こうやく病が発生してもトドマツの成長に悪影響が生じるとは考えられません。なお、トドマツこうやく病菌の宿主はトドマツのほか、エゾマツ、ヨーロッパトウヒが知られています。
A33.「アカエゾマツ葉さび病」(写真)です。白い袋状のものは病原菌の菌体の一部(銹子のう)です。この中には橙黄色、粉状の病原菌の胞子(銹胞子)が形成され、成熟最盛期には少しの動揺で胞子が飛び散ります。一般に本病の被害は軽微です。中間宿主はツツジ類またはシャクナゲ類で、これらに「さび病」を起こします。
A34.暗色雪腐病(写真)の場合、枯れた葉と土が菌糸でつづられた状態で発見されることが多いと思います。また、この時期にはふつう菌糸は消失しています。発生状況からは、暗色雪腐病とは考えにくいと思います。植栽当初から枯死が発生しているとのことなので、植栽時の苗木の取り扱い、植栽地の立地条件(乾燥、過湿)が原因と考えた方がいいでしょう。従って、改植にあたっては、暗色雪腐病の心配は不要です。
A41.枯葉や枯死枝には黒く小さな隆起が多数認められます。顕微鏡観察の結果、これらはスファエロプシス(Sphaeropsis)属菌の菌体(分生子殻)であることが確かめられたため、枝枯れの原因は「ディプロディア病」と考えられます(写真)。ふつう、外来のマツ類(特に二葉マツ類)に発生して時に激しい被害を与える病気ですが、国内自生マツ類でも何らかの原因で木が弱ると本病が発生するようです。すでに病原菌の胞子は成熟しており、降雨が胞子の分散を助けるので、できるだけ早く罹病枝を切り取り、落葉と一緒に焼却するとよいでしょう。罹病枝には「すす病」が発生しており、アブラムシの痕跡が認められます。アブラムシの加害がクロマツ衰弱の一因かもしれないので、アブラムシも防除した方がいいでしょう。
なお、ソメイヨシノはてんぐ巣病に罹りやすいので、伐採して新しいサクラを植える場合は、近隣のサクラを調査し、てんぐ巣病の発生が認められない品種を植栽するといいでしょう。
A45.送付いただいた被害標本を顕微鏡観察した結果は次のとおりです。一部の枯死枝には「黒点枝枯病」菌、「軸枯病」菌が認められます。また、Microsphaeropsis属菌?も認められましたが、この菌はスギの病原菌リストには無く、その病原性は不明です。葉枯れ症状の一部には「灰色葉枯病」菌が認められます。被害部に菌がまったくみられないことも多く、枝枯れ、葉枯れ等の症状と患部に認められる病原菌の対応関係が今ひとつはっきりしません。今回の被害は複数の病害による複合被害と見ることもできますが、枯れた枝葉にはいろんな菌(病原性の弱い菌や病原性が無い菌)がつくので、被害の一次的な原因が病害であるとは断定できません。特に症状と存在する病原菌が対応していないことは、病害以外の要因が原因であることを示しているように思えます。今のところ本被害の一次原因を特定することはできませんが、「黒点枝枯病」はスギの重要病害の一つとされており、今回の被害にこの病気による枝枯れが含まれていることは明らかです(頻度は別にして)。本病の防除には雄花の除去に加えて、枯死した枝とそれに隣接する健全部を剪定除去する必要があります。ただ、「黒点枝枯病」は、今回の被害の一部に過ぎず、労力と効果を考えると被害枝のせん定除去は現実的ではないでしょう。
A46.トドマツてんぐ巣病(写真)は、さび病の一種で、ハコベやミミナグサの仲間が中間宿主になります。被害率が少々高いように思いますが、林床にこれらの植物が多いのかもしれません。この場合、中間宿主を除去すれば今後の被害は軽減されると思いますが、こうした作業は実際には困難でしょう。てんぐ巣病の罹病枝はいずれ枯れますが、罹病枝数がわずかなら放置しても成長などへの影響は少ないと思います。ただ、幹の直近に患部がある場合は将来材質への影響が懸念されます。感染源を減らす意味でも、こうした患部を優先的に、罹病枝を剪定除去するのが望ましいと思います。