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林業試験場

アカエゾマツハバチ

アカエゾマツハバチ

写真1 終齢幼虫。浦河、アカエゾマツ、1985/7。

写真2 終齢幼虫。新得、アカエゾマツ、1990/6/15。

写真3 亜終齢幼虫。美唄、1988/6/17.

写真4 繭。浦河、1985/7。

写真5 被害。浦河、アカエゾマツ、1986/5。

被害の特徴
樹 種 アカエゾマツ。エゾマツは食害しない。ドイツトウヒでの発生は少ない。
部 位 新葉(当年生葉)。
時 期 5月下旬~7月上旬(幼虫食害時期)。
状 態 幼虫は葉を先端から食害する。時に当年生枝も食害する。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真1)。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。 被害木下の落葉層中に繭や繭殻がある。
幼 虫 体長最大約13mm。 頭部は黄褐色。胸腹部は淡い黄緑色で(写真1~2)、終齢では側面下方に黒斑が現れる(写真2)。 単独性だが、特定の枝に集中する傾向がある。
ハバチ科では腹部に体液の分泌腺はなく、胸脚の爪に付属物はない。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
赤褐色、1層からなる。
注) トウヒ属の新葉を食べるハバチは他に数種あるが、体色等で区別できる。なお、エゾマツにはよく似たクロエゾマツハバチが発生する。

和名  アカエゾマツハバチ(文献2005)
別名 エゾマツハバチ(文献1977bなど)。エゾマツは食べないため、改称された(文献2005)。

学名 命名者・年   Pristiphora ezomatsuvora Togashi, 1977

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ハバチ科Tenthredinidae

形態  幼虫は上述のとおり(文献1979、1993、2005)。成虫は文献1977aに記載がある。幼虫については文献1993参照。 Pristiphora属の幼虫は触角が4節、頭楯刺毛が2対、大顎刺毛が各1本、腹部第1~8節背面の小環節数が各6、第2・4小環節に微毛を有し、胸腹部に突起はない。

寄主  アカエゾマツ(文献1977a、1977b)、マリアナトウヒ・プンゲンストウヒ・ヨーロッパトウヒ・ヤツガタケトウヒ・ヒメマツハダ・ルーベンストウヒ・トウヒ・グラウカトウヒ・シトカトウヒ(文献1979)。エゾマツに発生した例は知られていない(文献1979)。

生態  年1回発生;成虫はアカエゾマツが開芽する頃に出現する;道央では5月下旬~6月上旬である;雌成虫は芽鱗が取れたばかりの新芽の葉に1個ずつ産卵する。ただし、特定の新芽に産卵が集中する傾向がある;幼虫は6月に新葉を食べて成長する;餌不足になると当年性枝(青枝)をかじり、枯らすこともある;6月下旬頃に地上におり、落葉中に赤茶色の繭を作って、その中で前蛹になって越冬する(文献1979、1993)。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 成虫・卵          ‥◎ ◎‥                     
 幼虫(摂食・成長)           ‥ ◆◆◆ ‥                  
 幼虫・前蛹(繭内、休眠) ◇◇◇ ◇◇◇ ◇‥    ‥ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
 蛹         ‥++ ‥                      

分布  北海道(文献1977a)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  1970年に池田のアカエゾマツ造林地で初めて被害が発生した;10年生前後の幼齢林に発生する(文献1977b)。被害はそれ以降頻繁に記録されている。連年被害を受けると樹形が異常になり、成長も著しく阻害される(文献1979)。食害により幹先端や枝先が枯れることがある(文献1993)。

防除  森林では普通、防除の必要はない。庭木などでは幼虫を捕殺する。
 “まつ類”の“ハバチ類”に適用可能な農薬としてMEP乳剤(商品名スミパイン乳剤・普通物・魚毒性B)及びジフルベンズロン水和剤(商品名デミリン水和剤・普通物・魚毒性A)がある(2009年10月時点)。


文 献
[1972] 山口博昭, 1972. 昭和46年度森林害虫発生状況. 北方林業, 24: 230-232.(ハバチの1種)
[1973] 山口博昭・小泉力, 1973. 昭和47年度森林害虫発生状況. 北方林業, 25: 213-215. (ハバチの1種)
[1976] 山口博昭・小泉力, 1976. 昭和50年度に発生した森林害虫. 北方林業, 28: 97-101.(ハバチの1種)
[1977a] Togashi, I., 1977. Description of a new sawfly, Pristiphora ezomatsuvora (Hymenoptera, Tenthredinidae) injurious to Picea glehnii in Japan. Applied Entomology and Zoology, 12: 1-3.
[1977b] 山口博昭・小泉力, 1977. 昭和51年度に発生した森林害虫. 北方林業, 29: 160-164. 北方林業会, 札幌.
[1979] 小泉力・富樫一次, 1979. エゾマツハバチの幼虫の形態と生活史. 日本林学会誌, 61: 105-106.
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真)
[1993] 原秀穂, 1993. トウヒ属を加害するハバチ科Pristiphora属3種の区別点と生態について. 第41回日本林学会北海道支部論文集: 85-87.
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. マツハバチ科(Diprionidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 277-278. 学習研究社, 東京.(幼虫や生態の概要)

2010/3/31