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マツノキハバチ

マツノキハバチ

写真1 終齢幼虫。美唄市、アカマツ、1993/7/2。

写真2 雌成虫、写真1を含む集団を飼育。

写真3 雄成虫、写真1を含む集団を飼育。

被害の特徴
樹 種 マツ属(アカマツ、ハイマツなど)。
部 位 葉。
時 期 5月~6月(幼虫加害時期)。
状 態 葉が食害される。 食害は通常、隣接する枝から枝へと連続的に発生する。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真1)。 糸、蛹、蛹の抜け殻はみられない。 被害部位の下に虫糞がある。糞は細長く、たいてい長さは直径の2倍以上(針葉樹を食べるハバチ亜目の特徴)。 夏から秋までは被害木下の落葉中や土の浅いところに繭がある。
幼 虫 体長最大約20mm。 頭部と胸脚は黒色、胸部と腹部は暗い灰色で白や黒の縦縞が数本ある(写真1)。小さなときは胸部と腹部は全体的に灰色から緑色。腹脚は腹部第2~8節と10節(尾端)にある。腹部の第1~8節は小環節数が6(背面の横じわが5本)。集合性、通常数十頭の集団を形成する。
マツハバチ科では、触角は3節(基部2節は盤状、第3節は円筒状)、上唇には溝がなく、腹部に体液の分泌腺はない。胸脚の爪に付属物はない。
ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。

和名  マツノキハバチ(文献1916など)

学名 命名者・年   Neodiprion sertifer (Geoffroy, 1785)

分類  ハチ目(膜翅目Hymenoptera)、ハバチ亜目(広腰亜目Symphyta)、マツハバチ科(Diprionidae)


形態  北海道の幼虫は上述のとおりだが(文献2005)、胸腹部の色彩には変異がある。文献1957、1959によれば胸腹部は平地のものは若齢ではほとんど黒色に近く、老齢では黒色で白い縦縞がある、高山のものは若齢では濃い緑色、老齢では緑色から黄緑色、若・老齢ともに黒い縦の縞模様がある。一方、文献1934によれば若齢期では淡黄緑、成長すると体は黒く黄緑色の縦線がある。なお、繭を造る直前に脱皮して終齢になるが、頭部は紫褐色、胸腹部は紫灰色、背面中央両側と気門の上下に黒斑列が並ぶ(文献1936)。
 成虫は雌(写真2)が体長8~9mm、雄(写真3)が体長7~8mm(文献1936)(詳細は文献1940)。
 卵巣内の卵は黄白色で長卵形、長さ1.86mm、中央幅0.55mm;;繭は褐色から黄褐色で2層からなり、雌では長さ10.5mm幅4.7mm、雄では長さ8.9mm幅3.8mm(文献1934)。

寄主  マツ属(アカマツ、クロマツ、ハイマツ);カラマツの記録は誤りと思われる(文献1967)。

生態  年1回発生;葉内において卵で越冬;幼虫は早春孵化し、集団(14~58頭)で葉を食べるが、新芽を害することはほとんどない;幼虫は雌雄ともに5齢または6齢を経過し、室内では1ヶ月前後で繭になる;十分成長した幼虫は木から落下あるいは幹を下降し、多くは地表の落葉・落枝の間で繭になる;繭内の幼虫は秋に蛹になり、2~3週間後に成虫になる;成虫は葉上で交尾する;雌成虫は葉の基部から先端に向けて1卵ずつ、規則的な間隔で産卵する;1葉あたりの産卵数は平均5個;産卵数は1雌あたり平均36個(文献1934)。終齢幼虫は葉を食べることなく繭を造る;産卵数は1雌あたり平均62個;室内での平均生存日数は雌6.9日、雄4.7日(文献1936)。 なお、高地では2年に1回発生する(文献1957)。

分布  北海道、本州(文献1940)、九州、朝鮮半島(文献1940)、ロシア、ヨーロッパ(文献1940)、北米。

被害  国内では明治時代から害虫として知られている(文献1940)。発生はアカマツに多く、クロマツには少ない;庭園のマツ、苗畑の苗木、植栽間もない幼齢林で被害が多い(文献1936)。被害は突発的で、1~2年で終息する(文献1994a)。被害木は生育が害され、全葉を食害されて枯死することがある(文献1943)。
 北海道ではまれに庭や公園で多発し、葉を食べ尽くすことがある。森林では屈斜路湖近くの硫黄山にある低地のハイマツ林5haで1990~1995年に多発し(文献1991"タイセツハバチ?"、1992、1994b、1995、1996)、大規模な発生は道内ではこれが初めてである(文献1992)。道内では被害木が枯れた例はないようである。

防除  幼虫集団を小枝ごと切り取って、駆除する(文献1936)。 “まつ類”の“ハバチ類”に適用可能な農薬としてMEP乳剤(商品名スミパイン乳剤・普通物・魚毒性B)及びジフルベンズロン水和剤(商品名デミリン水和剤・普通物・魚毒性A)がある(2009年10月時点)。


文 献
[1916] 矢野宗幹, 1916. 松葉蜂類の学名. 昆虫世界, 20: 179-181.
[1934] 鈴木篤, 1934. マツノキハバチNeodiprion sertifera (Geoffroy)に就いて. 応用動物学雑誌, 6: 254-272.(形態、生態)
[1936] 生野誠, 1936. 松類の害蟲マツノキハバチに就て. 日本林学会誌, 18: 326-330.
[1940] Takeuchi, K. 1940. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese Empire (III). Tenthredo, 3: 187-199.
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除の概要;なお、上記引用箇所の出典は確認していない)
[1957] 奥谷禎一・伊藤武夫, 1957. ハイマツを加害するマツノキハバチ(広腰亜目の研究VIII). ニューエントモロジスト, 6(4): 1-3.
[1959] 奥谷禎一・石井梯・安松京三, 1959. 膜翅目. 江崎悌三・石井梯・河田党・素木得一・湯浅啓温(編), 日本幼虫図鑑: 546-590. 北隆館, 東京.
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49. (宿主)
[1991] 小泉力・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1991. 平成2年度に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 43: 155-161. ("タイセツハバチ?"、文献1992参照)
[1992] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1992. 平成3年度に北海道に発生した森林昆虫. 北方林業, 44: 271-274. 北方林業会, 札幌. 
[1994a] 滝沢幸雄, 1994. マツノキハバチ. 小林富士雄・竹谷昭彦, 編集, 森林昆虫, 総論・各論: 335-336. 養賢堂, 東京. (形態、生態、防除)
[1994b] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1994. 平成5年度に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 46: 291-294. 北方林業会, 札幌.
[1995] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1995. 1994年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 47: 166-169. 北方林業会, 札幌. 
[1996] 伊藤賢介・福山研二・東浦康友・原秀穂, 1996. 1995年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 48: 187-190. 北方林業会, 札幌.
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. マツハバチ科(Diprionidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 277-278. 学習研究社, 東京.

2010/3/31