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林業試験場

ルリチュウレンジ

ルリチュウレンジ

写真1 中齢幼虫。札幌、ツツジの1種、2003/9/5。

写真2 終齢幼虫、体長22mm、写真3を飼育。2003/9/15。

写真3 雄成虫。札幌、ツツジの1種上、2003/9/5。

被害の特徴
樹 種 ツツジ属(サツキ、ヤマツツジ、リュウキュウツツジ、レンゲツツジなど)。
シャクナゲ類での発生は知られていない。
部 位 葉。
時 期 7月~9月(幼虫加害時期)。
状 態 葉縁から食害され、主脈が残ることが多い。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真1~2)。 被害部位の下に虫糞がある。秋から翌春までは被害木下の落葉や表土中に繭がある。
幼 虫 体長最大25mm内外。 胸腹部は黄緑色から灰緑色、尾端背面は黒色、刺毛のある小黒斑が多数ある(写真1~2)。 頭部は若齢から亜終齢までは黒色、終齢では黄土色。 胸脚は基部が暗色。 腹脚は6対、腹部第2~6節と第10節(尾端)にある。 たいてい複数の幼虫が樹の一部に集中する。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節は小環節数が3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
繭は灰白色、長さ9~13mm。

和名  ルリチュウレンジ

学名 命名者・年   Arge similis (Vollenhoven, 1860)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫の形態は上述のとおり(詳細は文献1934、1959、2005)。成虫(写真3)は体長8~10mm、黒色で青藍色の光沢が強い(詳細は文献1932、1935、1939)。

寄主  サツキ・ヤマツツジ・キリシマツツジ・オオムラサキ・リュウキュウツツジ・ヨドガワツツジ(文献1934)、オオヤマツツジ・レンゲツツジ・モチツツジ・ミツバツツジ・コバノミツバツツジ(文献1967);シャクナゲ類は食害をみない(文献1967)。

生態  道内では成虫が6月下旬~9月中旬に採集されているが、生活環の詳細は不明である(文献2010)。
 本州では年3回発生(文献1959)。繭内で縮小した紡錘形の状態の幼虫(前蛹)で越冬する(文献1934)。成虫は5月上~下旬、7月上中旬、8月下旬から9月上旬に現れ、幼虫の加害は5~9月にみられる(文献1960、1977)。雌成虫は葉の縁に沿って葉裏側の組織内に卵を並べて産み付ける;1枚の葉に1~25卵程度(10卵以下が多い)を産む;卵は10日前後で孵化する;幼虫は葉を縁から食べ、孵化直後は1葉に数多くいるが、成長するに従い分散する;幼虫期間は20日前後であるが、9月では40日程度かかることがある;幼虫の齢数は雌では5~6齢、雄では4~5齢である;老熟すると地表下に入り繭になる;繭は土中の浅いところに作られる;繭期間は越冬の場合を除き、9~83日(文献1934)。幼虫は充実した葉を葉柄を残して食べ、新梢先端の葉を残すが、多発すると新梢葉・花・枝先の柔らかな樹皮をも食害し樹全体を丸坊主にする(文献1977)。
 主な天敵として卵に寄生するハチが知られ、他にヒメバチ科、ヤドリバエ科、菌類などがある(文献1934、1977)。

分布  北海道・本州・四国・九州・八丈島・対馬・屋久島・トカラ中之島・沖縄本島、朝鮮半島、中国、台湾(文献1989)。北海道からの初記録は文献1932と思われる。空知・石狩・胆振・渡島地方で確認されている(文献2010)。

被害  古くからツツジ属の害虫として知られている(文献1934、1960など)。キリシマやサツキなど葉に毛が少ない種の方が毛の多い種に比べ被害は大きい(文献1934)。大発生すると全葉を失い枯死することがある(文献1960)。
 北海道では被害記録はない;道央や道南の公園で時々食害が目立つが、樹全体の葉を食べつくすような被害は観察されていない(文献2010)。

防除  幼虫を捕殺する(文献1977)。“つつじ類”の“ルリチュウレンジハバチ”に適用できる農薬としてペルメトリンエアゾル(商品名サンフラパーA・普通物・魚毒性C)、 アセフェート・MEPエアゾル(商品名オルトランS・普通物・魚毒性A及びB)などがある(2009年10月時点)。


文 献
[1932] Takeuchi, K., 1932. A revision of the Japanese Argidae. Transactions of the Kansai Entomological Society, 3: 27-42. (分類、形態)
[1934] 井伊直弘, 1934. 躑躅の害蟲ルリチュウレンジArge similis Vollenhovenの生活史竝に習性に就きて. 応用動物学雑誌, 6: 273-289.(生態、幼生期の形態、天敵について詳述)
[1935] Gussakovskij, V. V., 1935. Chalastogastra (pt. 1). Faune de l'URSS (n. s. 1), Insectes Hymenopteres, II (1). XVIII+453pp. Edition de l'Academie des Sciences de l'URSS, Moscou, Leningrad.
[1939] Takeuchi, K., 1939. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese empire (II). Tenthredo, 2: 394-439.(分類、形態)
[1959] 奥谷禎一, 石井梯, 安松京三, 1959. 膜翅目. 江崎悌三, 石井悌, 河田党, 素木得一, 湯浅啓温, 編集, 日本幼虫図鑑: 546-590. 北隆館, 東京.(幼虫の形態、生態)
[1960] 井上元則, 1960. 林業害虫防除論下巻(I). 210 pp. 地球出版, 東京.(形態、生態などに関する過去の文献の整理・要約)
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.
[1977] 奥野孝夫, 田中寛, 木村裕, 1977. 原色樹木病害虫図鑑. 365 pp. 保育社, 大阪.(生態、被害、防除)
[1989] 阿部正喜・富樫一次, 1989. ハバチ亜目. 平嶋義宏(監修), 日本産昆虫総目録: 541-560. 九州大学農学部昆虫学教室, 福岡.
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. ミフシハバチ科(Argidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 276-277. 学習研究社, 東京.(幼虫や生態の概要)
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47:

2010/3/31