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林業試験場

衛星データによる有珠山周辺の降灰分布と森林被害の把握

概要

2000年3月31日の有珠山噴火により、火口周辺の道路や建物が崩壊し、森林についても降灰による枯死などの被害がありました。今回、噴火による被害を受けた森林の復旧対策を支援するために、衛星画像と森林GISを利用して有珠山周辺の森林の現況把握を行い、火山灰の降灰分布図と森林被害区分図を作成しました。なお、衛星データは(株)リモートセンシング技術センターの衛星リモートセンシング推進委員会から提供を受け、解析したものです。

(2003年4月25日 森林情報室情報解析科)

1 森林GISによる有珠山の森林の把握

現況確認のため、2000年4月3日撮影のSPOT衛星と重ね合わせました。

(1)森林の人工林・天然林区分(画像1-1)

人工林を茶色、天然林を緑色で表示しています。衛星画像との重ね合わせ表示により、森林現況を容易に把握することが可能です。今回の噴火口周辺の森林については天然林が多く存在していました。

森林の人工林・天然林区分


(2)森林の樹種別区分(画像1-2)

トドマツを緑、カラマツを赤、その他の樹種を黄色で表示いています。噴火口周辺は、一部にトドマツが見られるのみで、その他の樹種がほとんどとなっています。

森林の樹種別区分


2 衛星データによる降灰分布図の作成

噴火から3日後に得られたSPOT衛星画像の反射輝度値データをもとに画像分析を行い降灰分布図を作成しました。

(1)噴火前の有珠山(画像2-1)


撮影日時:2000年3月31日午前10時37分

衛星:インドIRS(PAN画像)

空間分解能:約6メートル

説明:噴火直前の有珠山周辺の様子です。薄い雲がかかっています。噴火は約3時間後の午後1時7分から始まりました。

噴火前の有珠山


(2)の1 画像判読による降灰分布図(画像2-2)

撮影日時:2000年4月3日午前10時25分

衛星:SPOT2(XS画像)

空間分解能:約20メートル

説明:3月31日は黄色の分布域で洞爺湖温泉、壮瞥町、北湯沢、支笏湖方面に向かっています。

4月1日は赤色の分布域で海岸線に沿って虻田町、伊達市と太平洋が分布域となっています。

4月2日は橙色で、有珠山から伊達市西関内町、紋別岳を越えて登別市に向かっています。

画像判読による降灰分布図


(2)の2 反射輝度値を使用し画像分類した降灰分布図(画像2-3)

撮影日時:2000年4月3日午前10時25分

衛星:SPOT2(XS画像)

空間分析能:約20メートル

説明:衛星画像を基に反射輝度値で画像分析を行って作成した降灰分布図です。画像2-2で示したとおり、東から南東方向に噴煙が流れていったのが確認できます。噴火直後の現地調査から、赤色の範囲は5ミリメートル以上、橙色の範囲は1ミリメートルから5ミリメートル以下、黄色の範囲は1ミリメートル以下の降灰があったと推定しました。

反射輝度値を使用した画像分類


3 衛星データによる森林被害図の作成

(1)の1 森林の被害区分想定図

撮影日時:2000年5月16日午前10時28分

画像:SPOT1(XS画像)

空間分析能:約20メートル

画像3-1aの説明:森林や草地など緑に覆われていることがわかります。有珠山の左上に2箇所の噴煙が確認できます。赤枠は国有林界、細い黒線は民有林の森林計画区の小班区画、茶色は治山施設です。

森林の被害区分推定図


画像3-1bの説明:衛星データの近赤外線域の反射輝度値から、健全林分と不健全林分、枯死林分の識別が可能です。観測値から森林被害の状況を激害(未開葉)、中害、微害に3区分しました。噴煙域周辺に被害林分があり、特に激害林分では樹木が存在しないと考えられます。

反射輝度値を加味した被害区分すいていず


(1)の2 森林の被害面積の算出

6月13日から14日、胆振支庁林務課の協力を得て、周辺から遠望による現地調査を実施しました。その結果、噴煙下、激害(赤色の範囲)と中害(橙)箇所については区分どおり被害を受けていました。微害箇所(黄色の範囲)は樹木の生存が確認できました。

画像3-1cの説明:調査結果をもとに、画像3-1bの森林被害区分推定図を次のとおり修正し、森林被害区分図を作成しました。

1 画像3-1bから微害林分(黄色の範囲)を削除

2 小班界をもとに被害箇所を画像上で切り取り

3 被害面積はコンピュータ上で自動計算

森林被害区分図

被害面積は次のとおりです。

国有林:噴煙下16.5ヘクタール、激害12.1ヘクタール、中害6.3ヘクタール

民有林:噴煙下6.1ヘクタール、激害11.8ヘクタール、中害31.9ヘクタール

面積合計:84.7ヘクタール


火口の現況写真

写真1 西山火口付近の激害林分

西山火口付近の激害林分


写真2 金比羅火口付近のサクラ植栽地

金比羅火口付近のサクラ植栽地


(1)の3 森林の被害区分図の3次元鳥瞰図の作成(画像3-1d)

画像3-1cの被害区分図と標高データを使用して、西側から見た西山火口付近の三次元鳥瞰図を作成しました。

被害区分図の3次元鳥瞰図

左側が被害分布図の俯瞰図で、右側が同一視点から撮影した現況写真です。視点の位置は画像3ー1Cで示しています。


(2)2001年の森林被害区分図(画像3-2)

撮影日時:2001年5月29日午前11時1分

衛星:SPOT1(XS画像)

空間分析能:約20メートル

説明:2001年の衛星データから森林被害分布図を作成しました。樹木の枯死している箇所を被害区域としました。被害面積は国有林が32.3ヘクタール、民有林が38.5ヘクタールの計70.8ヘクタールで、国有林がほぼ変わらず、民有林が約10ヘクタール減少しました。森林の回復傾向が見られますが、写真3のトドマツ人工林のように、噴火活動が収束してきた2000年末頃からの地熱活動による新たな被害箇所が見られました。この区域では噴火から半年を過ぎた頃から地熱活動が活発になり、約90度の噴気も見られる状態でした。

2001年の森林被害区分図


火口付近の現況写真

写真1 西山火口付近の樹木

西山火口付近の樹木


写真2 金比羅火口付近のサクラ植栽地

金比羅火口付近のサクラ植栽地


写真3 噴気によるトドマツ人工林倒壊

噴気によるトドマツ人工林倒壊