法人本部

こんなお話をしました

ヒグマと人間のあつれきって何?

NPO法人EnVision 早稲田 宏一(わせだ こういち)


ヒグマと人間のあつれきは、大きく分けて、「人身被害」、「農業被害」、「人里(市街地)への講師が話している写真出没」の3つがあげられます。
このうち、ヒグマによる人身被害は、1950年代後半から60年代前半にかけて、今よりも高い頻度で発生していましたが、その後は減少し、最近は年平均2‐3件で推移しています。さらに、事故の内訳をみてみると、約半数は狩猟者が関係したものであり、一般の人が事故に巻き込まれる確率はさらに低いと考えられます。
ヒグマによる農業被害では、家畜への被害が1950-60年代に毎年数百頭のレベルで発生していましたが、その後大きく減少し、近年では100頭以下のレベルで推移しています。
一方、農作物被害は増加傾向にあり、最近ではその年間の被害額は一億円を越えています。また、ヒグマが被害をもたらす農作物の種類は、トウモロコシ(デントコーン、スイートコーン)、ビート、スイカ、果樹、養蜂などさまざまです。
人里(市街地)への出没も、北海道の各地で問題になっています。中には、学校や住宅地のすぐ近くに出没するケースもあり、社会生活に大きな混乱を与えています。札幌市を例にしてみると、出没情報の数は平成22年度までは100件前後で推移していたのが、平成23年度は大きく増えて250件におよんでいます。特に10月以降の出没件数がその半数近くを占めており、後段で話がある堅果類の豊凶の影響を受けていた可能性が示唆されます。
このようにヒグマと人のあつれきは、全般的に増加傾向にありますが、現行のヒグマ対策は、捕獲による対応が中心となっており、ヒグマの捕獲数も増加傾向にあります。特に被害に伴う許可捕獲の割合が増えています。また、対応の多くは、市町村役場の職員や地域の狩猟者(猟友会)が担っていますが、その体制にも課題が多くあります。つまり、ほとんどの市町村役場の職員は、ヒグマや野生動物についての専門的な知識や経験を持っていないため、問題が発生したときに的確な判断や対策の実施をするのが難しく、職員にとっても大きな負担になっています。また、狩猟者についても、高齢化に伴いその数が減少しており、ヒグマに対応できる人材の不足が懸念されています。人とヒグマのあつれきは今後も増加していくことが予想されますが、問題に対応できる新たな体制の構築が急がれます。

なぜヒグマは人間のところに出てくるの?

環境・地質研究本部 間野 勉(まの つとむ)

近年、クマ類の大量出没と大量捕獲が社会問題となっていますが、201講師が話している写真 1年には、ヒグマの捕獲数が1962年以来48年ぶりに800頭を超えました。1990年の春グマ駆除廃止後、全道のヒグマ捕獲数は増加傾向にあります。ヒグマの利用する食物資源を考慮した季節区分である春(1~5月)、初夏(6、7月)、晩夏(8、9月)、秋(10、11月)によって、捕獲の動向が異なりました。初夏および晩夏には顕著な増加が見られましたが、春と秋の捕獲数の増減は不明確でした。
ヒグマによる農作物被害が一年で最も顕著な晩夏の捕獲数は、農業被害対策で駆除された個体数を反映しています。この季節における急速な捕獲数の増加は、農作物の味を覚えて食物として認識した個体が急増していることを示唆しています。夏の捕獲地点が集中しているのに対し、秋の捕獲地点は広範囲に分散しており、それぞれ夏には農地が繰り返し食害を受けていること、秋には広範囲を行動することを反映しているものと考えられました。

 

森林研究本部 林業試験場 今 博計(こん ひろかず)

渡島半島におけるヒグマの捕獲数は農作物が収穫期を迎える晩夏季講師が話してる写真 (8~9月)から増加し、年によっては11月以降も捕獲が続きます。特に秋季(10~11月)の捕獲数は年変動が激しく、その較差は6~7倍に達します。秋季の食物資源には様々な果実が含まれますが、現存量・栄養価・年変動などから考え、ブナ・ミズナラの堅果の生産量が秋季のヒグマの行動に大きな影響を及ぼしていると思われます。
ブナは数年に一度、広範囲にわたって一斉に結実し豊作となります。1990年から続く渡島半島のブナ林での開花・結実の調査結果によると、半島全域でブナの結実が豊作になったのは、1992年、1997年、2002年の3回で、その間はほとんど結実しない凶作や並作が続いています。一方、ミズナラの結実も年変動が大きくなっていました。しかし、ブナに比べるとミズナラは結実の同調範囲が狭く、樹木ごとに結実状況が異なる特徴があります。したがって、凶作年でもどこかの個体では結実することが多いようです。
ブナ堅果の落下は9月下旬から、ミズナラ堅果の落下は9月中旬から始まります。年によって10日間程度のずれはあるが、おおむねこの頃になると堅果を餌として利用できるようになります。また、時期別の捕獲パターンの解析結果からも、8~9月と10~11月では捕獲パターンに大きな違いがあり、晩夏から秋に行動が変化していました。したがって、ヒグマがブナ・ミズナラの結実に影響を受けるのは、9月中旬もしくは下旬以降と考えられました。
ブナとミズナラの結実がともに調査された1991年~2009年(2000年・2001年を除く)の17年間について、秋季(9月中旬~11月下旬) のヒグマ捕獲数と豊凶の関係を調べました。その結果、ブナとミズナラがともに凶作の年に、捕獲数が多くなることがわかりました。しかし、一方の樹種が凶作でない年には、こうした関係は認められませんでした。したがって、ヒグマはブナが凶作の年にはミズナラの堅果を食べ、ミズナラが凶作の年にはブナの堅果を食べて過ごしており、そして両樹種がともに凶作の年に、餌を求めて里へ出没すると考えられました。
秋季のヒグマ捕獲数がブナとミズナラの豊凶によって説明できたことは、今後の野生生物管理にとって役立つと考えられます。今後は、豊凶のモニタリングを通して、ヒグマ出没の注意を促す情報発信につなげていきたいと思っています。

人間とヒグマはどう折り合いをつければいいの?(討論)

NPO法人EnVision 早稲田 宏一
環境・地質研究本部 間野    勉
森林研究本部 林業試験場 今    博計

(解説)環境・地質研究本部 環境科学研究センター 釣賀 一二三(つるが  ひふみ)
(進行)森林研究本部 林業試験場 長坂   晶子(ながさか あきこ)

◆捕獲されたヒグマのその後の取り扱いについて

<長坂>講師が話している写真 
ではまず、最も多かった質問から。
「捕獲されたヒグマはその後どうなるのでしょうか?」という質問について、間野さんか早稲田さん、お願いします。

<間野>
捕獲されたヒグマは基本的に捕獲者のものとなります。その多くが、研究用資料(検体)として内臓や骨などが道総研の環境科学研究センターに送られてきて、それを様々な研究解析に使えるようデータとして蓄積しているところです。
<早稲田>
多くの方の関心として、捕獲されたヒグマを山に放さないのか?という疑問があると思いますが、現実にはほとんど殺処分されています。本州のツキノワグマでは放獣という試みもしていますが、ヒグマの場合(大型であるなどといったことから)困難さを伴うため放獣はほとんど行われていません。また多くの場合、被害を出すヒグマを捕獲しているので、そういうクマを放しても根本的な解決にならないのでは、と自分も考えています。

◆ヒグマの生息数について

<長坂>会場の写真  
では次に、生息数について「道内におけるヒグマの生息数についてだいたいの推定はできているのでしょうか?」という質問です。間野さんに。
<間野>
難しい課題ですが、全道で数千頭というオーダーであることは間違いありません。但し、これまでの推定方法にはいくつか問題点もあり、現在、より精度を上げるため道総研では重点研究に取り組んでいます。いきなり全道に広げることは難しいところですが、集約的に研究を実施している渡島半島域では、近い将来、信頼性の高い値を報告できるようになると思います。
<長坂>
推定の難しさとは、ヒグマという動物の特性から来ているのでしょうか?
<間野>
単独行動する、なかなか姿を直接観察できないなど、エゾシカなどの草食獣とは明らかに難易度が異なります。しかしそれを言い訳ばかりにするわけにはいかないと思っていて、私たちも新しい技術や推定方法などを導入して、精度を上げる努力をしているところです。
<長坂>
札幌市周辺の生息数についての情報は何かあるでしょうか?
<間野>
メスの行動圏が数キロ四方なのに比べると、オスは100kmを移動したりするので、「住民票」がどこにあるのか?ということも問題になってきます。それを考慮する必要はありますが、昨年市民の森で採取された体毛と捕獲された個体の遺伝子解析の結果では、13頭が識別されたという結果を得ています。

◆木の実の豊凶とヒグマの出没について

<長坂>
では次に、木の実の豊凶と出没について。これも大変多かった質問です。今さんの発表は渡島半島域の解析と言うことでブナの分布域での結果でした。では、「ブナがない地域では、どんぐり(ミズナラ)の豊凶と出没の関係について何かわかっているのでしょうか?」
<今>
それは私も知りたいところです。解析ができない理由としては、渡島半島で使ったようなデータが他の地域ではとられていないことが大きいといえます。使いたいデータは自分でとるしかないというのが実情です。そんなこともあり、自分で日高地方で調査を始めて10年くらいになりますが、きちんとした解析結果を得るには、もう少し年数が欲しいところです。もう少し蓄積ができたら、解析にとりかかりたいと思っています。
<長坂>
今回の間野さん、今さんの発表は、捕獲数、豊凶それぞれについて20年以上のデータをもとにした研究で、この共同研究のアピールポイントにもなっています。しかし20年前というと、我々はまだ現役の研究者ではなく、我々の先輩たちが始めた調査なんですね。今まで何もしていなかったわけではなく、こうした調査が引き継がれて、20年の蓄積でもって初めてものがいえるようになった、というのが今日の発表なのだと思います。これはまた逆に、対策が講じられた後の効果を追跡する場合にも、長期モニタリング調査は有効なのだということを示しているといえると思います。ぜひ長期モニタリング調査というものに理解をお願いしたいと思います。

<長坂>
一方で、「長期データが蓄積されてくれば、豊凶予測もできるのでは?」という期待が高まってきます。これは実際のところどうなのでしょう?可能なのでしょうか。
<今>
予測は「できる」のではという感触を持っています。ブナに関しては既に毎年の豊凶予報を林業試験場HPで発表しています。ミズナラについても近い将来、可能になると思います。但しその際のポイントは、やはり観察などによるデータの蓄積が不可欠ということ(当年だけでなく前年のデータが必要)です。気象条件と樹木のもっているエネルギー(実をつけるのに必要な体力)で豊凶が決まってくるので、前の年にどのくらい体力を使ったかについて情報がないと、正確な予測ができないということなんです。そういう意味でも、データの蓄積が必要だといえます。

<長坂>
木の実についてもう一つ。「ブナ、ミズナラ以外の餌資源(コクワやヤマブドウなど)と出没の関係はありますか?」と言う質問についてはいかがでしょうか。
<間野>
影響はあると思いますが、ヒグマの場合、何でも食べる、ある意味ジェネラリストなので、多様な食物の多寡、年変動がどう効いているのかチェックするのは難しいと思います。しかしそういう中で我々の解析で見えてきたのは、ジェネラリストであるクマだが、ブナ・ミズナラの豊凶(とくに凶作)は出没に明らかに影響をあたえるほどのインパクトがあるということです。

◆ヒグマそのものの特性(個性・個体差)について

<長坂>
では次にヒグマの個性について。「出没するヒグマには何らかの特徴があるのでしょうか?」
<早稲田>
市街地に出てくるケースか、農地に出てきて被害を及ぼすケースかにもよりますが、前者の場合は、小型の、若いクマが多いように思います。後者の場合は大きく2つあり、農業被害の歴史が長い、昔から出没が認められている地域では、大型のオスの個体が、農作物にありつける場所を知っていて、繰り返し出没するという場合が多いといえます。一方、最近になって農業被害が出てきたという地域、今まで被害報告がなかったのに、ぽっと被害が出始めたような地域だと、小型の若い個体が多いように感じています。
<釣賀>
オスとメスの行動圏からみた特徴もあります。間野さんの発表のなかでオスの行動圏は100kmを超えるという話がありました。であれば、農地に当たる確率もメスより増える可能性が高く、そのためにオスのほうが農地に出没しやすいということを示していると考えられます。

<長坂>
ヒグマは大変学習能力が高い動物とのこと。ということは、「農作物なり、美味しいものの味を覚えてしまったら、「お仕置き」は効かないのでしょうか?」
<間野>
そのことは、その餌に対し、その個体がどの程度執着しているか、という執着度によって変わってくるといえます。早い段階で「嫌な目」に遭って、「あの食物は美味しいけど、あんな嫌な思いしてまで食べに行く気はしないな」とクマが判断すれば、繰り返し出てくることはないかもしれませんが、そういうことがなく、何回も、何年もその農作物にありつければ、多少痛い目にあっても「でもあれは食べたいんだ」となって、効き目もなく繰り返し出没することになるかもしれません。ある意味、それはヒグマに対する「躾」のようなもので、人間の側も対応を誤ると躾がうまくいかないということになるといえます。

<長坂>
ではここで、「出没するヒグマ」への具体的な対応策について、釣賀さんから紹介していただきます。その後で、対応に関する質問にまたお答えしたいと思います。では釣賀さんお願いします。

人間とヒグマはどう折り合いをつければいいの?

環境・地質研究本部 環境科学研究センター 釣賀 一二三(つるが ひふみ)

農業被害を予防するための具体的な方策として、第一に電気柵等による防除の講師が話している写真 推進があげられます。電気柵は1万ボルト近い高電圧の電流が流れるワイヤーで農地を囲い、ヒグマに電気ショックを与えることで侵入を防ぐことが可能です。周囲1kmほどの農地でも5、6人の労力が確保できれば、半日ほどで設置ができ、様々な地形に対応して設置可能です。その一方で、設置と定期的に必要なメンテナンスに係る労力、機材の購入費用の確保が課題となっています。
第二に、林縁の下草刈りなどで緩衝帯を整備し、ヒグマと人の利用する場所の境界が明確にすることによって、ヒグマの出没を抑制する方法があります。農地に限らず、人が頻繁に利用する場所へのヒグマの出没を抑制する効果もありますが、ヒグマが行動しやすい夜間には効果が期待できません。
これらの方策を効率良く運用するためには、ハザードマップを利用することが有効です。最も被害発生のリスクが高い場所に対して集中的に被害防除策を実施することによって、防除の効果を最大限にすることができます。農地のヒグマハザードマップ作成には、長期にわたる出没情報を蓄積する必要があり、出没や被害発生時に正確な出没地点を継続して記録を残していくことで、全道各地のハザードマップ作成が可能となります。
農業被害や人身事故の防止上最も重要なことは、誘引物を適正に管理することです。農業被害防止の観点からは、商品価値のない農作物(いわゆる廃果など)の管理は特に注意が必要です。ヒグマから見れば畑にある商品作物と廃棄作物との区別はつきません。廃棄作物を容易に手に入れることを学習したヒグマは、商品作物も利用するようになり被害発生に至ります。被害の拡大を予防する点においても、廃棄作物の適切管理が重要です。また、人身事故を防止する上で生ゴミの管理が非常に重要です。人里近くに放置されたゴミはヒグマを誘引し、人とヒグマの不用意な接触を招く恐れがあるばかりでなく、ゴミを利用することを学習したヒグマは人に対して攻撃的になることが指摘されています。
ここに紹介した予防策を積極的に運用することで、ヒグマとのあつれきの多くを回避することが可能になります。ただし、被害の防除を有効なものにするためには地域コミュニティーを挙げて防除に当たることが重要であり、一部の不用意な行動が、全体の不利益につながることを個々が自覚しておく必要があります。

-引き続き討論―


◆対策について①電気柵の設置に関して

<長坂>
今の説明で、釣賀さんから電気柵の紹介がありましたが、「札幌のような市街地で電気柵を設置することは可能でしょうか?」
<釣賀>
紹介したのは、農地のように限られた一定範囲のなかで設置するというケースを想定したものです。市街地を丸ごと囲うのは現実的には無理だと思います。できるとすれば、農地のように範囲を限定して囲うということでしょう。
<早稲田>
広範囲に設置する場合の問題として、技術的なことに加え、土地所有者に理解、許可を得るといった社会的な課題というものも(むしろ)あると思います。また、人の行き来もあるので、そういった場所でどう管理していくのかも課題です。但しそうしたことが一つずつクリアできれば、(場所によっては)可能になってくると思います。
<釣賀>
質問票の中に、「物理的な柵を設置して防除できないか?」というものがありましたが、クマの場合、シカと違って、2m、3mという柵は簡単に登って乗り越えてしまいますので、あまり効果はありません。但し、そういった既存の柵に電気柵を併用するといったことで対策を講じている事例もあるので、現場に応じて選択すると良いと思います。

◆対策について②狩猟者の育成・後継者対策

<長坂>
では次に、早稲田さんの仕事に関連した質問として、「狩猟者の育成・後継者対策は何かあるのか?」という質問ですが。
<早稲田>
実は自分の周りでは、比較的若い狩猟者が最近増えつつあり、それほど危機感は持っていません。そもそも狩猟というのは趣味のひとつ(捕殺が仕事なわけではない)です。狩猟を趣味とする人たちを増やし、裾野拡大を図ると言うことは悪いことではないと思います。あとはそれに加えて、捕獲に協力してくれる狩猟者に対し、何らかの手立て(報酬など)や措置などを図る、あるいはそういった人たちに対し、(ヒグマの)いろんなことを学んでもらうといったシステムが必要かと思っています。今はそういったものがないままに、趣味で狩猟している方々に、ある意味「お願い」をしてやってもらっているので、そこに問題があると感じています。
<長坂>
人材育成に関しては、質問票の中にもいくつかありました。(今のお話にもあったように)この問題は研究機関が解決する問題というよりも社会全体で考えるべき問題、たとえばそういう必要性を訴えていくとか、行政がそうしたニーズを把握するといったことが同時に必要なのではないでしょうか。

◆対策について③土地利用の変化と出没の関係は

<長坂>
対策に関連して、もうひとつ「土地利用の変化」についての質問がきています。つまり「森が伐採などによって少なくなったから、クマの出没が増えているのでは?」という指摘ですが。
<間野>
かつて、自分自身もそう考えていたことがありました。たとえば、1960年代、拡大造林という言葉に象徴されるように、大面積皆伐、一斉造林という林業政策がとられ、そのときに野生生物の生息場所も大きなインパクトを受けたと考えられています。早稲田さんの発表に、1960年頃の捕獲頭数が多いことを示すグラフがありましたが、それはそうした森林伐採の影響を受けていた可能性もあります。しかしその後は、むしろ我々人間の森林への働きかけはかなり少なく、弱くなりました。北海道でいえば、人口の大半が札幌市に集中し、地方では過疎化が進んでいます。一度拡大した土地利用(農地や人工林)が放棄され、人間の管理がなくなった、手入れされなくなった場所に、ヒグマだけでなく多くの野生動物が出没するようになっています。またこれは、北海道だけではなく日本全国で起こっている現象でもあります。過疎化が起きている集落では、出没などに対し対策を講じる体力もなくなってきています。そうしたことも踏まえ、どのようにこの問題を解決していくのか考えていかなくてはならないと思います。
<長坂>
森林の変化について補足を。北海道において森林資源が最も少なくなったのは1960年代から70年代にかけてといえます。その後は植えた木が育ったり、天然更新などで自然に再生したりして、最近50年間でみれば北海道の森林資源はかなり充実してきています。また、人工林、特にカラマツがいい例ですが、植栽初期にネズミ害などで植えた木の一部が枯れたりすると、そこに元々あった広葉樹が生えてきて、結果として広葉樹の混じった林になることが現実には多いのです。そういう森林では、コクワやヤマブドウなど果実をつけるツル類も多く見られるので、森林簿上は人工造林地だが、野生生物の生息環境としてそれほど悪くない状況になっています。こうした、林業上「不成績」と呼ばれる針葉樹と落葉広葉樹の混ざった林は、生息環境の評価をするうえで悩ましく、また実際にどのくらいあるのか、実態把握を急がねばならないと感じているところです。

◆最後に

<長坂>
残念ながら時間となりました。間野さんに、最後まとめていただきたいのですが。
<間野>
今回、このような場で話をする機会をいただき、またいただいた質問の多さを見て、改めてこのテーマへの関心の高さを実感するとともに、我々の持ち得ている知見やデータ、仮に断片的なものがあったとしても、可能な範囲で発信し、共有していくことの重要性を実感しました。たとえば、対策などについても、できるところで試行しつつ、やってみてどうだったかといった情報を共有し、また発展させ、適用範囲を広げていくということも大事だと感じました。このような機会があれば、今回お答えできなかったことについて発信できるように、また今回示したことと異なる事実が発見された場合には、実はこんなことがわかったとお示しできるようにしなければならないと考えています。さらに、我々だけの力でできることには限りがあります。そこでいろいろな方々との連携も模索しているところです。長期モニタリングについても地域で継続していくために、連携は不可欠と考えています。一つ一つの力は小さくても、連携、情報共有を行うことで大きな力にすることができるし、調査や対策への理解者を増やすことにもなるでしょう。今日はそのようなことも実感しました。私からは以上です。本日は貴重な時間をお集ま?いただき、ありがとうございました。