法人本部

第24回 札幌地学探訪

札幌地学探訪

2012年4月18日
環境・地質研究本部 地質研究所 垣原 康之(かきはら やすゆき)

こんなお話をしました

  日本の中でも有数な大都市でありながら、身近に数多くの地質学的な見どころをもつ札幌の大地。今回はそのうちの代表的な5ヶ所を紹介します。

「豊平川扇状地」は、開拓期からの札幌の発展を支えてきました。

住居に適した安定した地盤であるとともに、扇状地の先端部(扇端)にあたる道庁周辺には、かつては多くの「メム(アイヌ語で湧き水)」が「水」を供給していました。知事公館・北大植物園・北大構内などの水路のような池はメムの名残です。

建材として利用されている「札幌軟石」は、かつては南区石山周辺でも採掘されており、その採掘場跡が藻南公園や石山緑地公園にあります。ここで見られる地層は、約4万年前に支笏火山が大噴火した時に降り積もり、溶結作用を受けて固まった火山灰です。札幌市内には、石としては軽くて加工を施しやすい、この「札幌軟石」を利用した多くの建造物が現存しています。

「簾舞(みすまい)周辺」は、800万年~500万年前頃、泥や砂が堆積する400~500mほどの深い海でした。そこにはサッポロカイギュウや貝が生息していました。2003年に小金湯で発見されたサッポロカイギュウ化石は、札幌市の調査の結果、世界最古の種であることがわかっています。また時代が下った500万~200万年前頃には、静穏な海の環境から一転して活発な火山活動が起こりました。美しい柱状節理が発達する火山岩岩体を簾舞御料橋付近や八剣山山頂などで観察できます。

「定山渓温泉」月見橋付近の豊平川河床には、多くの場所から温泉が自然湧出しています。湯温は高いもので80℃を超えており、石英はん岩の割れ目から湧出しています。この石英はん岩は、定山渓温泉の上流の「かっぱ淵」で直に観察することができます。

豊平川支流白井川上流の「豊羽鉱山」は、レアメタルの1種、インジウムを産出する鉱山としては、世界最大と言われたこともありました。道内に最後まで残った金属鉱山でしたが、残念ながら2006年に閉山しました。

地質研究所では、今回紹介した場所で観察してきた、地下水・地盤・砕石資源・地域地質・温泉資源・鉱床資源を研究対象として日々、調査や研究を行っています。この他にも、火山・地震や活断層・斜面災害・沿岸地質・地質汚染なども研究対象としており、その分野は多岐にわたり、我々の生活に密接に関わっているものです。

今回は、北海道庁での開催ということで、セミナーに参加されたみなさんになじみの深いであろう札幌について紹介しました。さらに北海道の大地には、活火山・鍾乳洞・湿原などの数多くの地質学的な見どころがあります。今回のセミナーにより、みなさんが北海道の大地にいっそうの愛着を感じていただければ幸いです。

質問にお答えします

質問回答
 変成岩の地帯、モナミ公園付近はどうですか? 岩石は堆積岩・火成岩・変成岩に大きく分類できます。変成岩は、地下深くに埋没したり、高温のマグマに接するなど、高い圧力や温度を受けて、内部構造や構成鉱物が変化した痕跡を残す岩石と言えます。北海道内には日高変成岩類や神居古潭変成岩類が日高山脈周辺およびその北方延長方向に分布しています。藻南公園付近には、高温のマグマが冷え固まった「火山岩」と泥岩や砂岩などの「堆積岩」が分布しており、残念ながら、変成岩は分布していません。

 北海道の地質図の入手方法を教えてください。

 

 道総研地質研究所の図書室では、道内の地質図を多数、蔵書しています。一部の例外もありますが、地質研究所所員以外の方々への貸し出しも行っております。外部の方々への図書の貸し出し業務は、祝日等を除き、毎週、火曜日と金曜日の9時~12時、13時~17時に行っております。
このほか、地質研の出版物を販売している「山の手博物館」でも地質図を購入できます。ただし、博物館で購入できる地質図の種類には限りがあります。詳しくは、地質研究所のホームページでご確認いただくか、博物館へお問い合わせください。
・地質研究所のホームページ:
現 エネルギー・環境・地質研究所
・山の手博物館
住所:札幌市西区山の手7条8丁目6番1号
TEL:011-623-3321
ホームページ:
http://www.yamanote-museum.com/access.htm
 札幌の地下活断層について教えてください。

 札幌市内の遺跡発掘調査では液状化の痕跡がたくさん見つかっており、直下型地震が繰り返し発生したためと考えられています。また、札幌付近の地下には、東西方向に働く力の影響で活褶曲とよばれる地層のたわみが形成されています。札幌市は、第3次地震被害想定において、活褶曲の下に伏在する活断層を想定し、最大震度7の予測を報告しています。2010年12月2日に北広島市や札幌市で震度3を観測する地震が発生しました。この地震は、小さい規模であるものの、これまで想定にすぎなかった震源断層が実在することがはっきりとわかったという点で非常に重要な地震と考えています。地震が「いつ」起こるか、こたえることはできませんが、直下型地震の存在を前提とした備えを日頃から行うべきでしょう。このほか、札幌市では地震防災マップをホームページで公開していますので、ご参考願います。

▼札幌市のホームページ:http://www.city.sapporo.jp/kikikanri/higoro/jisin/jbmap.html

 豊羽鉱山の再活用について、教えてください。 豊羽鉱山は閉山後、坑道内が既に水没していると考えられますので、再度の開発または再活用については、現在の技術では難しい面があると思われます。
 地質的に見た札幌(地域)の特徴、特色は? 札幌市街地は安定した地盤と豊富な地下水が存在した豊平川扇状地の上に広がっています。南区には、現在も建材として利用される「札幌軟石(支笏火砕流堆積物)」があります。中新世から鮮新世の膨大な火山岩類は、砕石・骨材として利用されています。さらに豊羽鉱山や手稲鉱山、さらには円山周辺にも金属鉱山がありました。体を癒す、豊富な湯量を誇る定山渓温泉もあります。積丹半島から連なる手稲山・砥石山などの山地は、北西の季節風を遮ってくれています。このような人が生活していくのに有利な地質学的特徴は、札幌が大都市へと発展してきた理由のひとつと言えるでしょう。
 豊平側の伏流水、地下水は、定山渓から道庁の池まで、何年かかって到達しますか。 豊平川からの伏流水・地下水は,豊平川扇状地の扇頂(藻岩下付近)から下流数kmの範囲で、扇状地を形成する砂や礫などからなる地層に浸透するといわれています。かつて道庁周辺にあった湧泉は,地下水位の低下(最近では地表から約8mくらい)にともない、現在では湧出していません。池の水は、地下水(施設設備機器で使用後の水も含む)により保たれているそうです。
池に湧出するのではありませんが、道庁付近の地下にある(浅層)地下水について考えてみます。定山渓から豊平川扇状地(浸透する地点)まで河川水として流下する時間を無視して概算しました。この地下水の流速を1日あたりおよそ10mと仮定し、扇頂から道庁までの距離5.4kmから計算すると540日となり、約1年半と計算されます。下流から浸透した場合には、浸透する地点から道庁までの距離が短くなり、さらに短い計算結果となります。

さらに詳しく知りたい方は・・・

  動画道総研公式チャンネル

  案内チラシ

 

ご協力いただきました

ドトールコーヒーショップ北海道庁店