法人本部

第29回 鳥を見よう

フィールドに出て鳥を見よう!
観察記録で希少鳥類を救えます クマゲラとシマアオジから

2012年9月20日
森林研究本部 林業試験場  雲野 明(うんの あきら)
環境・地質研究本部 環境科学研究センター   玉田 克巳(たまだ かつみ)

こんなお話をしました

(雲野より)

   北海道レッドデータブック(2001)は,絶滅の危険度に応じて,8つのランクで野生生物を区分しています。北海道で最も大きなキツツキであるクマゲラは,絶滅危急種に選定されています。しかし,北海道でのクマゲラの正確な個体数やその増減はよくわかっていません。

近年,研究者だけでなく一般の方々の情報を活用して野生生物保全に関する基礎情報を得ようという試みが行われています。 森林で仕事をする人に行ったアンケートから,クマゲラは都市部や広い湿原を除いた全道に生息することがわかりました。

クマゲラは見通しの利かない森林を広く飛び回っているので,生息地を訪れても見つけにくい鳥です。見通しの利かない森林に生息するため,クマゲラの生息確認のほとんどは声で行われます。

間接的ですが簡便な生息確認方法として, 晩秋から冬の間に木をつついて採餌した木を利用します。 新しいものであれば,この冬の間にクマゲラが採餌していたということがわかります。 クマゲラの採餌木としては,幹の低い場所に縦長に大きな穴をあけたもの,枯れたばかり木の樹皮をはいだもの,太い枯れ枝をつついたものなどがあります。しかし,クマゲラより少し小さなオオアカゲラも同じような採餌痕を残します。クマゲラとオオアカゲラの採餌木を識別する方法は,つついた場所や木屑に残るくちばしの痕の幅を測定することです。 くちばしの大きさはオオカゲラよりクマゲラのほうが大きいので, 6mm以上あればクマゲラのものです。 4~5mmの場合は,3つ測定して5mm以上が多ければクマゲラとなります。木の幹の低い位置に食痕があることが多く,くちばし痕が残りやすいので,札幌近郊であれば太い木のあるカラマツ人工林が見つけやすいでしょう。

「昔はよく見たけど,最近は見なくなった」という皆さんの声は数の減少を知る上で大切で,こうした情報は研究者が研究を始めるきっかけとなり,観察記録があれば,それは大切なデータとなります。 多くの人がフィールドに出かけていき,自然を見て感じて,まずは興味をもつことが野生生物や生息環境の保全につながる第一歩と考えています。

(玉田より)

  シマアオジは近年、急減しており、環境省のレッドリストにおいても最もランクの高い絶滅危惧IA類に指定されています。欧米では、さまざまな鳥類を対象に1960年代から全国規模の生息状況調査が毎年実施されていますが、わが国では環境省による鳥類繁殖地図調査が1974-1978年と1998-2002年に実施されただけで、約20年の間に起こった分布の変化が明らかになっている程度です。しかし、この結果を見てもシマアオジの生息情報は、52地点から15地点に減少しています。道総研では経常研究などの調査で、2002年ごろに生息情報のあった全道12地点において、2008-2011年ごろに追跡調査をしたところ、6地点で消滅した可能性が高く、減少傾向は、なお進行していることが明らかになっています。

では、減少傾向はいつごろから始まったのか。これを調べるために、道内各地で1970年代から行われている2,927回の探鳥会情報を調べたところ、1990年代前半から減少が始まっていました。また、ウトナイ湖ネイチャーセンターで記録されている、レンジャーや来館者による観察情報では、1990年代後半から減少していることが明らかになりました。

減少の原因については科学的根拠を示せる証拠がなく、「科学的には原因はわからない」というのが現状です。しかし、北海道でシマアオジが減少した地域の中には、減少が始まる1990年代より前から保護区に指定されている地域がたくさんあり、これらの地域では大きな環境の変化はありません。一方、IUCN(国際自然保護連合)のホームページでは越冬地での密猟が指摘されています。しかし、シマアオジの繁殖地は、北海道からスカンジナビア半島まで、ユーラシア大陸の北側に広く分布しています。越冬地で密猟されているシマアオジと、北海道で繁殖する個体群の因果関係は明らかでなく、北海道のシマアオジの減少の直接的な原因については、もう少し慎重に調査研究を進める必要があります。

北海道ではシマアオジのほかにも、アカモズ、エゾライチョウ、アカショウビン、ヨタカ、マキノセンニュウ、ウズラなどの減少が心配されていますが、生息状況ははっきりしていません。このようなことから、道民の皆様が自然に関心を持って、動植物の変化、自然の変化をみつめることが、生息状況を把握するための重要な基礎資料になり、これらの鳥を救うことにつながります。

質問にお答えします

 

質問

回答

会場からの質問

4~5年前より野鳥が急激に減ったように感じますが、原因が気候の変動(温暖化?)によるのでしょうか?昔はサクラ鳥等が群れで電線に留まっていました。

イギリスやアメリカでは鳥類をモニタリングする仕組みがしっかりしており、1960年代ごろから毎年、全国的な調査が実施されていますが、日本では環境省(環境庁)が実施した自然環境保全基礎調査において、1978年ごろの全国の繁殖分布調査の結果があり、これを1998年ごろに追跡調査した程度のデータしかありません。また7~8年前からモニタリングサイト1000という事業がスタートしていますが、5年ごとのモニタリングで、まだ手法検討の域を出ていません。よって、いろいろな情報(たとえば今回のセミナーで紹介した探鳥会の情報や各施設で蓄積した情報)を広く集め、多角的に分析を進めて、増減を推し量る必要があります。今のところ、鳥類の増減は断片的にしか把握できていませんが、これらの鳥類が直接温暖化の影響をどの程度受けてるのか、わかりません。温暖化の影響は、局所的ではなく、広い範囲で、同時に起こるものと予想されます。とくに影響が強く現れる種は、オオハクチョウなどの冬鳥だと考えています。今後、注意深く監視していく必要があると思っています。サクラ鳥とはウソのことでしょうか?北海道におけるウソの繁殖分布(春から夏にかけての分布)は、おもに標高500m以上あるような比較的高標高にある針葉樹林や針広混交林などで、冬には平地に降りてきます。春の桜が開花する時期は、ちょうど越冬地から繁殖地に戻る時期で、この時期に桜の花や芽が食害を受けることがあります。越冬地は、餌がとれるかが重要なことで、餌の有無によって、生息状況がかわることがありますが、繁殖する夏の分布は、餌以外に繁殖できる生息環境が整っているかが重要で、道内の比較的高標高にある森林はあまり大きな改変が進んでいない地域だと思っています。このように鳥類の生息状況は季節によっても、増減に影響する要因が変わるので、昔の生息状況についても、いつ(年月日)、どこで、何が、どの程度いて、それが現在どのように変化しているのかといた情報を記録しておくことが大事です。

 

2~3年前の春・夏に我が家の庭にクマゲラの雄が来て、松の木をつついていましたが、その後はみていません。場所は白石区菊水元町1条4丁目地内でした。

貴重な情報、ありがとうございます。春・夏ということは繁殖期ですから、近くで営巣していた可能性があります。ただし、観察場所が生息地であるまとまった森林からかなり離れており、この時期はクマゲラは同じ場所に定着している時期なので,珍しいケースと思います。繁殖相手や繁殖場所が見つからなかったオスかもしれません。貴重な情報として、今後の調査研究の参考にさせていただきます。ありがとうございました。

 

クマゲラはカラマツ人工林に採餌木が多いという話をされていましたが、クマゲラにとっていい生息域と考えてもよいのでしょうか。(餌条件以外でもいい生息域の条件があると思われますが、クマゲラにとっていい生息域の条件となるものがあったらご教示ください。)

冬の採餌木として立枯れ木やアリが木の中で越冬している木を利用するので,適度に立枯れ木のあるカラマツ人工林は,クマゲラにとっていい餌場になっていると考えています。ただし,カラマツは営巣木として選ばれない樹種なので,周辺に営巣木となる太い広葉樹やトドマツのある森林が必要と考えています。このようなクマゲラにとって良い生息域の条件についての解明をめざしていきます。

 

クマゲラの採餌木(カラマツ人工林)について樹齢○年以上だとか、径○cm以上になると採餌木になる木が多くなるとかありましたらご教示ください。

クマゲラにとっては、アリなどの昆虫が重要な餌資源であり、腐れのある木や立ち枯れている木が採餌木として重要です。空知にある3箇所の生息場所で調べた結果,カラマツでは直径16.8cmの木がもっとも細い採餌木でした。また,木が太くなるほど採餌木に選ばれやすく,樹齢40年以上のカラマツ林に採餌木が多くありました。
減少している鳥とは逆に増加している野鳥はいるのですか? 道東を中心に、ワタリガラスの越冬分布が拡大していて、1970年代には知床半島や野付半島などの海岸部に飛来する程度であったものが、近年では、阿寒湖畔や白糠丘陵部に多数飛来することが明らかになっています。このほか、ミヤマガラスやコクマルガラスの越冬数が増えているようです。また繁殖期の生息状況が増えているものとして、カワウ、アオサギなどがいますし、渡り時期ではマガンの飛来数が増えています。このほか、タンチョウは、数年前に個体数が1,000羽を超えて、なお着実に増えつつありますし、シマフクロウは1990年代には80~100羽といわれていましたが、最近では120~130羽程度といわれているので、少しずつですが増えています。オジロワシも繁殖の分布域が西側に拡大しており、石狩、空知管内でも繁殖するようになっています。タンチョウ、シマフクロウ、オジロワシは、環境省による保護増殖事業が展開されており、近年個体数が回復しているのは、保護活動の成果だと思います。一方で、今回紹介したシマアオジやアカモズは、レッドデータの指定はされていますが、具体的な保護事業は展開されておらず、減少が心配されています。今後は、減少種の保護対策が急務であると思っています。

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