法人本部

第36回 マツカワとニシン

マツカワとニシン
~幻の魚 復活への挑戦~

2013年7月19日
水産研究本部 中央水産試験場 星野 昇(ほしの のぼる)

こんなお話をしました

  太平洋のマツカワと日本海のニシンには、かつて「幻の魚」と呼ばれるほど資源量が少なくなった時代がありました。しかし、水産試験場をはじめ行政機関や現場の様々な取り組みにより、近年着実に資源が回復し漁獲が増加しています。

◆マツカワ
マツカワは70㎝にも達する大型のカレイで、東北以北の太平洋を回遊しています。1980年代にはほとんどが漁獲されなくなったため、1990年頃から種苗放流により資源回復を目指す試験研究が始まりました。生態についての情報が少ないうえに、採卵用の親魚不足や育てた種苗のほとんどが「雄」になってしまうといった、いくつもの難題にぶつかりましたが、研究者の努力により除々に克服され、2006年度から120万尾の大量放流がスタ-トしました。また、資源管理に関する研究結果から、全長35㎝未満の魚は速やかに放流することが適切と考えられ、漁業者や遊漁者に実践を促しました。
これらの取り組みにより、放流開始の2年後から漁獲量は飛躍的に増加し、今では、漁獲量150トン、水揚げ金額1~2億円を超える水産資源として復活しました。

◆ニシン
ニシンは1897年には漁獲量が100万トンに及んだ巨大な資源でしたが、1950年代に北海道への来遊が途絶えました。当時のニシンはサハリンに主産卵場のある「北海道・サハリン系」と呼ばれる系群で、その衰退は、水温の高温化に代表される海洋環境の変化が一因と考えられています。一方、石狩湾周辺を主産卵場とする「石狩湾系ニシン」の漁獲が1990年代後半から著しく増加しています。この背景には、海洋環境の好転に加え、道が1996年から実施した「ニシン増大プロジェクト」の取り組みがあります。プロジェクトで取り組んだ、若齢ニシンを獲り残す資源管理方策が実を結び、産卵親魚量や資源の発生量が著しく増加しました。種苗放流も年200万尾放流の生産体制が確立され資源回復を下支えしました。そして、2013年の冬、石狩湾系ニシンの漁獲量は史上最高の2,300トンとなり、雄の精液で海面が白濁する群来(クキ)が石狩湾内の随所で見られました。


復活途上にある二つの資源ですが、今後も資源水準を維持していくためには、資源管理の徹底による産卵親魚の継続確保、種苗放流体制の維持、海洋環境と漁獲動向の把握等、たくさんの課題があります。水産試験場はこれらに貢献できる試験研究を今後も進めていきます。

 

質問にお答えします

 

会場からの質問

質問

回答

・マツカワの種苗生産で、「飼育(水温管理)の仕方(育て方)で、雄ばかりになった」という説明に驚きました。その点の説明について、あらためてWEBに掲載してください。

・マツカワは放っておくと「雄」になってしまうというお話があり、要因として「水温」を挙げていました。
どのタイミングの水温がどのような状態になっていれば雄になりやすいのですか?
 (例えば・・・産卵前水温が、×××℃未満、産卵後生育環境水温が×××℃程度)

一般に、ふ化直後の仔魚の場合、遺伝子の中で将来の性(雌になるか、雄になるか)は決まっていますが、生殖腺(卵巣や精巣)は未だ分化していません。一方、魚の中には、生殖腺が未分化な時期に不適当な環境刺激(例えば、水温やストレス因子)を受けると遺伝的性と異なる型の生殖腺を形成してしまう種がいます。(「環境依存型性決定」といいます。)マツカワは、これに相当します。
種苗生産技術開発を始めた当初、マツカワの生理や生態学的知見がほとんどありませんでした。そのため、ヒラメの飼育技術を模して高水温条件下でマツカワの仔魚を飼育していました(およそ18℃)。しかし、育った種苗の性比が著しく雄に偏るといった問題が表面化し、北海道大学とともに、その原因と解決策について研究しました。その結果、冷水性カレイであるマツカワの場合、仔魚期に高水温条件で飼育すると、本来雌になる個体(遺伝的雌)の生殖腺が精巣に分化することを解明しました。また、条件を変えて飼育実験を繰り返した結果、雌雄がほぼ均等になるには14℃以下の水温で飼育する必要があることがわかりました。特に、水温への感受性が高まる全長約10㎜から生殖腺の分化が完了する全長35㎜頃までは適正な水温管理が不可欠です。

 

石狩湾系ニシンが増えているということでしたが、他の系群はどうでしょうか?

セミナ-の際には詳しくお話することができませんでしたが、かつて100万トンの漁獲をもたらした北海道サハリン系群は、実は今でも道北~オホ-ツク海にかけて漁獲されています。年変動は大きいものの、平均的には石狩湾系ニシンをはるかに上回る漁獲量があります。1986年には7万トンの漁獲があり、復活の期待が高まりましたが、一過性に終わり、2000年以降は1,000~8,000トンの幅で、大きく変動しながら推移しています。
また、サハリン方面に主産卵場のあるもう一つの系群、テルペニア系の北海道への来遊は近年ほとんどありません。一方、厚岸湾や網走管内など、道内数カ所の湖沼系ニシンは、もともと漁獲が多くないため何とも申し上げられませんが、厚岸湖では資源増大に向けた取り組みが進んでいます。

道南地域(特に檜山)で、江戸時代のような「群来」が到来する可能性はありますか?

江戸から明治にかけての来遊量を、今の資源状態や海洋環境から期待することは極めて難しいと考えます。しかし、往時の隆盛とまではいかずとも、石狩湾のような漁獲回復への期待を込め、檜山への種苗放流も進められ、天然の稚魚も調査で見つかるという嬉しいニュ-スもありました。
セミナ-でお話させていただきましたように、ニシンのような魚の資源量が増えるためには、海洋環境が好転して生き残りが多くなった生まれ群が発生し、それをベ-スに徹底した漁獲管理で親魚を残し続けることが必須です。これからも、漁獲状況と海洋環境の継続監視(モニタリング)を続けながら、時間はかかるかもしれませんが、群来の再来の兆候を早期につかむことが重要となります。
 

 

さらに詳しく知りたい方は・・・

動画(道総研公式チャンネル)

案内チラシ