法人本部

第47回 豪雨と斜面災害

北海道の豪雨と斜面災害 ~災害から身を守る知恵~

 
2015年6月19日
環境・地質研究本部 企画調整部企画課企画グループ  
兼 地質研究所 地域地質情報グループ  主査  石丸 聡

こんなお話をしました

 北海道は、日本の中でも台風や梅雨前線の影響を受けることの少ない地域です。しかしながら、近年全国的に雨の降り方が変わってきており、昨年(2014年)8月の礼文・稚内や9月の札幌南部から支笏湖の土砂災害のように、道内でも豪雨による災害が多くなっています。北海道は、全国的にみると降水量が少なく、豪雨の頻度も低い地域で、特に、道東・道北地方では、日降水量が100mmを超えることはほとんどありませんでした。

 しかし、1990年代以降、その頻度は増加し、他の地域と比較しても、アメダス観測点の降水記録の更新が顕著な地域になっています。これまで雨の少なかった場所で、経験したことの無い大雨が発生すると、斜面災害は発生する可能性は高くなります。

 これまで北海道の豪雨災害は、前線が北海道付近にあるときに台風が接近した際に発生するケースが一般的でした。しかし近年は、付近に発達した低気圧や前線の見られない場合でも、暖かい湿った空気の上空に寒気が入るなど、大気が不安定になった際の豪雨が目につき、実際に災害も発生しています。2014年の礼文・稚内や札幌南部~支笏湖の豪雨もこうした条件下で発生しました。これら2つの災害時の降水域をレーダーアメダスで見てみると、線状に分布していたことがわかります。この“線状降水帯”は、積乱雲が形成されては風下に流され、流されては同じ場所に積乱雲が形成されるというサイクルを繰り返し、積乱雲が並び形成されていきます。真夏から夏の終わりに現れる“線状降水帯”が、付近にあるのをレーダーアメダスや気象衛星画像などで見かけたら、要注意です。

 それでは豪雨が発生したとき、どのような場所が被災しやすいのでしょうか。また、身を守るためにはどのような行動をとるべきでしょうか。これまでの災害事例を基に考えてみましょう。

 2003年に発生した日高豪雨では、沙流川流域や厚別川流域の広い範囲で斜面崩壊が発生しました。その中で印象的だったのは、沢の出口にできる扇状の緩斜面(沖積錐)上のほとんど全てで土砂の流出が見られたことです。沖積錐は、沢水を確保しやすく、かつ比較的広い平地を確保できるため、住宅が建つことが多いのですが、この扇状の高まりは過去に沢から土砂が流出・堆積を繰り返した痕跡で、今後も土砂災害にあう可能性の高い場所です。また、1999年の苫前町の古丹別や2010年の天塩・遠別の豪雨斜面災害では、浅い谷型斜面での崩壊が多数発生しました。これは、浅い谷型斜面には雨水が集まりやすく、また不安定な土砂がたまりやすいからです。豪雨時に被災しやすい場所は、これらのように、水が集まりやすい場所、あるいは不安定な土砂が斜面上に残っている場所になります。そのような場所に住居を建てるのは、極力避ける必要があります。

 2000年融雪期の豪雨で発生した東静内の災害では、沢の出口に面した1階の部屋で寝ていた住人が、沢から流出した土砂に押しつぶされて亡くなりました。これに対し、2006年の豪雨で旧門別町の平賀では、浅い沢型の斜面下に建っていた住宅が押しつぶされましたが、住人は2階で寝ていたため命は落とさずにすみました。2014年礼文町高山のがけ崩れでは、3名の住人が1階の同じ部屋で生活していましたが、斜面に近い場所にいた2名は亡くなり、少し離れた場所にいた1名は土砂に巻き込まれたものの、命は助かりました。これらの事例は、豪雨時には1階の崖に近い場所をなるべく避けて生活すべきことを示唆しています。特に周囲の音や変化に気づきにくい就寝時は、より気を使う必要があります。

 最近では、報道による気象状況や解説を確認するともに、インターネット・携帯電話・スマホなどから、気象庁やYahoo等の高解像度の降水状況や6時間後までの降水分布予想などが見られます。また、道庁建設部で管理している北海道防災情報システム等による局地的豪雨・地震情報の配信も行われています。これらのツールを有効に活用して、自分のいる場所がこの先数時間、豪雨に見舞われる可能性があるのか確認し、あらかじめ、どのような行動をとるべきか判断することが重要です。早めに避難をするとか、自宅にいるにしても2階や崖から離れたより安全な部屋で生活するなどの工夫をすれば、災害から身を守れる可能性は格段に高まります。

質問にお答えします

会場からの質問

質問

回答

各関係省庁、道、市は事前調査をしないのですか。

斜面崩壊(がけ崩れ)が発生するおそれのある地域については、道が調査を実施し、危険箇所を公表しています。現地調査は地質・斜面調査の専門家である民間コンサルタント会社の協力を経て点検を進めていますが、道や市町村の職員も視察を行なっています。

段丘堆積物と斜面堆積物の見分け方はありますか?

段丘堆積物は、川や海が運んできたものなので、運ばれてきた砂利に含まれる石の形は丸味を帯びています。細かいものは砂が多く、粘土分は少ないのが特徴です。それに対し、斜面堆積物は、岩山が破砕されたものが、斜面上を少しづつすべり(あるいは転がり)落ちてきたものなので、運ばれてきた石の形は角張っています。また、土壌などを取り込むため粘土分を多く含みます。

雨の災害は、大雨になり崩れてきたりしますが、災害が起きた山などを直すには何年かかりますか。

崩れ方や、規模、対策工法によります。狭い範囲の斜面表層を保護するだけであれば1年もかかりませんが、山奥まで治山ダムを建設するとなると、数年がかりになることもあります。
また、被災箇所周辺の守るべき対象物の重要度により、迅速性が求められることもあります。例えば、重要な幹線道路・鉄道路線の復旧であれば、昼夜を問わず、できる限り早い対応がとられることになります。

・砂岩は崩れやすいですか。
・防災の教育が不十分では。(洞爺湖ではやっている)
・にんじん雲が発生する条件は何ですか。

・雨による崩壊に限定すれば、一般に硬い砂岩は崩れにくく、軟らかい砂岩は崩れやすいですが、岩盤中の亀裂の様相や泥岩・凝灰岩をはさむなどの諸条件により、崩れやすさは異なります。
・人の生活や命に関わる問題なので、自らを守るという観点から、少しでも早い小・中学生の時期に、しっかりと取り組むべきものと考えます。
・にんじん雲は、気象衛星画像やレーダーアメダスで見ることのできる、にんじんのような形をした線状の降水帯のこと。これが発生した地域では、突風を伴う集中豪雨となることが多い。
温かい湿った空気の上空に冷たい空気が存在すると大気が不安定になり、上昇気流が生じて積乱雲ができやすくなります。風上側(にんじんの先端)で次々と発生する積乱雲が風下に流れることで、風下側に太くなる、線状のにんじん雲が出現します。

札幌の藻岩山は斜面災害は大丈夫でしょうか。藻岩山斜面付近が職場ですので不安です。

藻岩山の上部で発生する斜面崩壊(がけ崩れ)よりも、むしろ、住宅地のすぐ裏手に迫る斜面の崩壊や、沢の出口付近の土石流災害を警戒すべきと考えます。これらの場所においては、大雨の際に普段と違う様子が見られないか注意を払う必要があると思います。

 

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