法人本部

第15回 GISで「見分ける」

シリーズ 新しい地図が魅せる! 空からみた北海道の姿
「見分ける」

2011年6月29日(水)
本部 連携推進部   安積 大治(あさか だいじ)
森林研究本部 林業試験場   寺田 文子(てらだ ふみこ)

こんなお話をしました

(安積より)
  お米のおいしさを左右する主な成分には、アミロースとタンパク質があります。

アミロースはでんぷんの仲間で、アミロースの含量が少ないお米は、ごはんの粘りが強くなります。今話題の「ゆめぴりか」の美味しさの理由の1つは、他の品種よりもアミロースが少し低いことにあります。お米に含まれるアミロースの量は、品種や、お米が実るときの気温によって変わります。

一方、タンパク質が多いとご飯が固くぼそぼそとした食感になります。お米に含まれるタンパク質の量は、肥料の量や土壌の種類などによってかわることから、栽培方法を改善することでタンパク質を下げて美味しいお米をつくることができます。「ゆめぴりか」や「ふっくりんこ」などのブランド米も、タンパク質によって出荷の基準をきめています。

美味しいお米をつくるためには、美味しい品種を美味しくつくることが重要です。タンパク質の高い田んぼがあったら、翌年以降の栽培方法を改善することが必要ですが、産地全域のタンパク質の様子を調べるのは大変手間がかかります。そこで、人工衛星を用いて、産地全域を一度に調べる技術を開発しました。

人工衛星によるお米のタンパク質の推定方法は、まず田植えのあと(5月下旬~6月下旬頃)に人工衛星で観測を行い、その年の田んぼがどこにあるかを判別します。つぎにお米が実る頃(8月下旬~9月中旬)にもう一度観測を行い、タンパク質の推定を行います。指定では、おおむね20~30ヶ所程度の農家の田んぼのタンパク質を調査し、それぞれの田んぼの人工衛星で観測した値と、実際に調査したお米のタンパク質との関係について、3年間調べてみたところ、いずれの年も、人工衛星で観測した値(NDVI)が大きいほど、お米のタンパク質が高くなる傾向がありました。この関係を用いることで、人工衛星の値からお米のタンパク質を計算する式をつくることが出来ます。この式を使うことで、実際にタンパク質を測定していない田んぼについても、人工衛星の値からお米のタンパク質を計算することができます。

タンパクマップの利用場面としては、まわりに比べてタンパク質の高い田んぼを見つけて、栽培方法の改善を行うことで、効率的にタンパク質を改善することができます。また、タンパク質の高い地帯は、水はけが悪いなどの原因が考えられることから、こうしたところでは基盤整備などの対策を行う資料に役立てることができます。さらに解像度の高い人工衛星を使うことで、1つの田んぼの中においても、昔の河川の跡などの地形の影響や、栽培管理によってお米のタンパク質が変動する様子もわかります。

人工衛星をつかったお米のタンパクマップの作成は、これまで北海道の水田の約8割、10万ヘクタールで取り組まれているほか、新潟や茨城、佐賀など複数の県で利用実績があります。

北海道のお米が美味しくなったのは、なんといっても農家の方々の努力によるものです。それを支える技術としては、品種改良によって美味しい新品種がつくられたことが大きいですが、美味しい品種を美味しくつくるための技術の1つとして、宇宙からの目も利用されていたことを知っていただければと思います。


(寺田より)
   北米由来の外来種であるニセアカシアは、養蜂業にとって欠かせない蜜源である一方、その旺盛な繁殖力が問題視されることがあります。ニセアカシアの管理には、その分布を把握することが重要となりますが、足を使ってニセアカシアを探し、その分布を地図に書き込むことは大変な労力と時間がかかります。

そこで、ニセアカシアの分布域の把握と図示をより効率的に行うために、葉が開く時期が他の樹種より遅いニセアカシアの樹種特性を活かし、撮影時に高さに関する情報(高さ情報)を得ることができるデジタル空中写真を利用する手法を開発しました。

今回ご紹介する手法は、北海道美唄市を流れる美唄川の河畔においてニセアカシアが多く分布している場所を対象に検証しました。「画像」と「高さ情報」を得るためのデジタル空中写真撮影は、ニセアカシアが開葉する前でその他の広葉樹は葉が開いている時期(以下「開葉前」と呼びます)とすべての樹種で葉が開いた後(以下「開葉後」と呼びます)に行いました。この2回の撮影で取得した「画像」と「高さ情報」を使い、次の手順によってニセアカシア分布域を抽出することができます。

まず、撮影で得た高さ情報について、開葉前・後の違いを確認します。ニセアカシアの開葉前のデジタル空中カメラによる撮影では、既に葉が開いている広葉樹の区域は木の一番上(樹冠の上面)を高さとして計測し、葉が開いていないニセアカシアの区域は樹冠や枝、幹ではなく地面近くを高さとして計測します。一方、開葉後の撮影では、ニセアカシアと広葉樹はともに葉が開いているため、両樹種ともに木の一番上を高さとして計測します。このカメラが計測した高さの情報の差がポイントです。開葉前と開葉後の高さ情報を比較すると、広葉樹ではほとんど変わらないのですが、ニセアカシアでは明らかに異なります。

この手法で求めたニセアカシアとその他の広葉樹を区別する精度(分類精度)は、約83%でした。この値は、対象地のおおよその状況を把握・推定することが可能となる精度で、苦労の多い現地調査の省力化に貢献できると考えます。

今回ご紹介しました「高さ情報」を利用する分布図作成手法は、ニセアカシアの管理のみならず、森林資源の把握・管理にも応用が可能であると考えます。

質問にお答えします

 

質問

回答

会場からの質問

道内の稲作地域の中でも、タンパク質が低い良好な地域はどの地域ですか? 反対に不適な地域はどこですか?

衛星情報から作成したタンパクマップや全道的な実態調査によって、タンパクの地域変動の様子はわかりますが、タンパクが低い=良好ということではなく、お米の用途等に応じ、好適なタンパクレベルになるように栽培が行われています。

 

お米の味はアミロースの量とタンパク質の量が関係しているとご説明され、タンパク質のついてお話をしてくださいました。もう一方のアミロースをリモートセンシングで見る試みは進んでいるのですか?

リモートセンシングでタンパクを推定できるのは、稲の葉の色合いの違いからタンパクの程度を判別することができるからです。アミロースについてはリモートセンシングで推定することは困難ですが、穂がでてから成熟までの積算温度からアミロース含量を推定することができます。

サクラの開花予報やシラカバの花粉飛散予報にも応用できますか

 今回の手法をサクラの開花予測やシラカンバの花粉飛散予報に直接応用することは難しいと考えます。サクラの開花予測は自動定点観測などで周辺樹種の開葉・開花状況と比較する方法が考えられます。シラカンバの花粉飛散に関しては、樹種特性と衛星画像などの反射輝度値の特性などを総合的に判断してシラカンバが存在する場所を特定し、その位置情報と林業試験場が出している花粉飛散予報を併せることでより詳細な予報が行える可能性があります。

外来樹としてのアカシアの山林への進入状況もわかりますか? また増加していますか? 道内で問題となっている地域はありますか?

 これまで、春・花の咲く時期・夏と3時期の写真を使用した平坦な土地での把握方法が行われていますが、山地域での調査事例などが見られないことから山林への侵入状況については今後の検討が必要となります。林業試験場では、ニセアカシアの生態や管理技術などについて研究した成果をまとめております。近日中にホームページで公開する予定となっておりますのでご覧いただきたいと思います。

ニセアカシアの分布を把握した後、その成果をどのように活用する予定でしょうか?

今回の研究は、河畔のニセアカシアの分布把握を行ったものです。河川の管理を行っている行政機関や会社において、ニセアカシアの分布拡大の傾向をつかんだり資源量の把握を行うことが可能となり、河川の流量管理に利用できると考えます

ニセアカシアの場所の決定についてどのくらいの確率で当たりますか? だいたいの場所が当たっているのはわかりましたし、現地調査の省力化にはとても有効な方法だと思います。確率の向上をするための工夫を教えてください。

 林業試験場で行った研究では、最も高いもので約95%正当率があります。ニセアカシアの樹種特性(展葉や開花の時期など)と周辺にある樹種の特性を知ること、不正解となる原因(ニセアカシアと同様の特性を持つ樹種の存在など)を確認することでより高い確率が得られると考えます。ただ、現在のリモートセンシングの技術では樹種の分類において100%の正当率を得ることが困難なため、80%程の正当率があれば良好とされているのが現状です。

さらに詳しく知りたい方は・・・

  動画道総研公式チャンネル

当日の資料宇宙からお米のおいしさを見分ける.pdf(17Mb) /デジタル空中写真を利用して樹木を見分ける.zip(12Mb)

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  案内チラシ

  

ご協力いただきました

ドトールコーヒーショップ北海道庁店
AIR DO(北海道国際航空株式会社)