法人本部

第33回 大気汚染物質

空に棄てられたもの
~汚染物質はどこから来るの?~

2013年4月19日
環境・地質研究本部 環境科学研究センター 秋山 雅行(あきやま まさゆき)
山口 高志(やまぐち たかし)   

こんなお話をしました

(山口より)

・雪はきれいに見えるけど~積雪中の大気汚染物質~ 

雨や雪には大気汚染成分が溶け込んでいます。その量や濃度の変化を把握するために1988年から4年に一度、全道の積雪調査を行っています。対象としている汚染成分の一部を以下に示します。
 
nss-SO₄²⁻:海水由来以外の硫酸イオン。 主に化石燃料の燃焼や火山から排出される。
NO₃⁻:硝酸イオン。主に自動車の排気ガスから排出される。
 
ヨーロッパやアメリカで酸性雨による植物や魚などへの悪影響が報告されました。同様の現象が北海道では起こっていないか確認するために調査しています。
雨や雪の汚染成分の一つであるNO₃⁻は植物にとって栄養成分でもあります。しかし栄養が多すぎると生態系に悪影響を及ぼすことがあります。
北海道では雪解け時期に影響が出やすいと考えられ、雪に含まれる大気汚染物質の量や濃度の変化を把握するために4年に一度、全道の積雪調査を行っており、日本海側で汚染物質濃度が高くpHは低い(酸性度が高い)傾向にあることがわかりました。さらに、この地域は積雪量が多いため、雪中の蓄積量も多くなっています。
なお、nss-SO₄²⁻の蓄積量は調査開始以来、概ね減少傾向にあります。一方NO₃⁻は1996年以降増加傾向となっています。中国では石炭火力発電所に排ガスから硫黄分を取り除く脱硫装置の設置が進められていますが、窒素酸化物は増加しています。積雪調査の結果はこのような中国での大気汚染物質の変動を反映していると考えられます。

▼環境省「中国における環境汚染の現状と対策、環境対策技術ニーズ」

http://www.env.go.jp/air/tech/ine/asia/china/SeisakuCH.html

▼国立環境研究所特別研究報告(SR-95-2011)

http://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/setsumei/sr-095-2011b.html

越境大気汚染に含まれる物質は上記の二つ以外にも粒子状物質や、大気汚染物質が反応してできるオゾン等様々な物質が含まれます。また日本国内だけでなく、多くの国々で共同して取り組むべき問題となっています。北海道へどのような影響があるのかを正しく把握し、対策を講じるため、今後も調査活動を行っていきたいと考えています。

 

(秋山より)

・「PM2.5」をもっと知りたい!  

今年1月に入り中国国内で大気汚染が悪化した状況が連日報道されるようになり、日本においても大陸から流れる風により、汚染物質が運ばれてくる長距離輸送の影響で九州を中心に高濃度のPM2.5が観測されたことで、「PM2.5」が注目されるようになりました。
PM2.5とは、大きさが2.5マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1/1000)以下の小さな粒子のことであり、何百種類もの成分が混合しています。発生源としては自動車、工場、船舶など主に人為由来のものや黄砂などの土壌粒子、海のしぶき(海塩粒子)など自然由来の一次粒子と、気体として排出された化学物質が反応などにより粒子に変化した二次粒子があり、場所、季節によりその割合は異なります。
PM2.5は非常に小さい粒子のため、大きな粒子と比べて肺の奥深くまで入り込みやすく、呼吸器疾患や循環器系疾患などの健康影響を引き起こすといわれています。短期暴露(暴露とは、ここでは化学物質等を体内に取り込むこと)では35µg/m3、長期暴露では15µg/m3以上の濃度で何らかの健康影響が出現する可能性があるとの研究結果から、この数字が環境基準となりました。ただし、この濃度を超えるとすべての人に影響があるという意味ではないので、その点は理解しておくことが大事です。

PM2.5は全国500地点以上で測定され、基準を超えている地点もみられますが、ここ数年の濃度の変化をみると、実はディーゼル車の排ガス規制などの効果により年々減少傾向にあります。北海道でも2011年度から順次測定が行われていますが、広大な北海道の状況を知るためには、さらに地点数の拡大が必要と思われます。道総研では数年前よりPM2.5の測定を進め、春は道内全域で長距離輸送の影響が大きくなること、冬は地域的な発生源の影響で都市の濃度が高くなることがわかりました。また、含まれている成分を調べた結果、都市域では燃焼由来と思われる成分が多いことがわかりました。

北海道の大気環境の歴史を振り返ると、石炭ストーブからの排気、車粉など大気環境のよくない時がありました。粉じん濃度ももちろん今と比べて高い値で、実はその頃から「PM2.5」というものは存在していたのです。その後、石油へのエネルギー転換、スパイクタイヤの禁止などにより北海道の大気環境は大きく改善されていることも事実です。こうした大気環境の変化を考えると、PM2.5に対して過度に心配する(ストレスの原因)のではなく、濃度の状況を把握しつつ、体調を見ながらできる範囲で冷静に対応(マスクの準備など)していくことが望ましいと思われます。道総研としても、皆さんが安心・安全に暮らせるために効果的な削減対策に利用できる研究を進めていきます。

 

さらに詳しく知りたい方は・・・

動画(道総研公式チャンネル)

案内チラシ