法人本部

第7回 木の希少種・外来種

シリーズ講座 北海道の生物多様性と私たちの暮らし
~ 害獣・希少種・外来種とのつきあいかた
木々がくれる恵み-希少種も外来種もこんな効用がある-

2010年10月15日(金)
森林研究本部 林業試験場 真坂一彦(まさか かずひこ)
森林研究本部 林業試験場 脇田陽一(わきた よういち)

こんなお話をしました

(真坂より)
 在来植生を駆逐するとして要注意外来生物に指定されたニセアカシアですが、在来種が駆逐されたという報告はこれまでにありません。一方では、養蜂業における重要な蜜源として利用されてもいます。実際にニセアカシアとはどんな生物なのか、
①林業試験場で調査した在来植生との関係
②海外での取り扱い状況
③ニセアカシアが排除されると私たちの食生活が脅かされる
という3つの観点から見ていきましょう。

 在来植生との関係について、道央、道南、そして日高地方で植栽されたニセアカシア人工林と北海道にもとからある在来種のシラカンバ人工林において、下層植物の種数や在来樹種がどれだけ生えているか(侵入状況)について調査しました。その結果、ニセアカシア人工林とシラカンバ人工林を比べると、下層植物の出現数はほぼ同じで、外来草本はほとんど見られず、中には絶滅危惧種のフクジュソウが繁茂しているところもありました。また、ニセアカシア人工林には多数の在来広葉樹が生えており、林齢とともに大きくなっています。年数の経た林(高齢林といいます)では、ニセアカシアよりもサイズが大きい個体も確認されました。つまり、この結果は、ニセアカシアが在来植物を駆逐しているという証拠が見出せなかったことを意味します。

 ニセアカシアの海外での取り扱いは、どうなっているでしょうか? フランスやドイツなどで外来植物を研究している大学の研究室を訪問し、それぞれの国においてニセアカシアの取り扱いについて聞いてみました。フランスでは薪炭材や蜜源として利用しているほか、ドイツでは種数が少ない都市近郊林での重要な種であることがわかりました。ニセアカシアが増えていることは間違いありませんが、それと有害かどうかは別の問題といえます。

 私たちの食生活との関わりですが、養蜂業者は採蜜だけを行っているわけではなく、果樹野菜農家などに花粉交配(ポリネーション)用としてミツバチを貸し出しています。ただし、ポリネーションに使われたミツバチは、花粉交配を行う果樹野菜の蜜や花粉だけでは群(むれ)を維持することができません。そのため、野生植物からの採蜜・採花粉が必要になります。北海道では、ニセアカシアからの採蜜量が非常に多いです。このような樹木蜜源は、養蜂家のミツバチを養い、そして建勢したミツバチが果樹野菜の受粉に使われています。もし、ニセアカシアが排除されたらどうなるでしょうか? おそらく養蜂業は衰退し、農業にも甚大な影響を与え、きっと私たちの食生活にも影響を与えることになるかもしれません。

 外来種というだけで明瞭な理由もなく排除することは、私たち自身の生活を脅かすことになりかねません。もう少し冷静になってニセアカシアを見つめ直してはいかがでしょうか?


(脇田より)
  林業試験場緑化樹センターでは、新たな「北海道ブランド」となるような樹木の効率的な増殖技術の開発に関する研究を行っています。これまでに約30樹種100系統の優良個体の組織培養による増殖に成功しました。 選抜・増殖した樹木として、「花粉のできないシラカンバ(国営長野牧場に並木として植栽、第62回北海道植樹祭(帯広市)にて植栽予定)」や「濃紅色のチシマザクラ(「国後陽紅」として2007年に品種登録)」、「果実が大きく収穫性が高いアロニア(健康食品として注目を集める小果樹)」などがあります。

 本セミナーでは、希少価値の高い樹木、特に絶滅危惧樹木の増殖・利用に関する成果に関して、“ヤチヤナギ”という樹木に絞って説明しました。

 寒冷な湿地に生えるヤマモモ科の低木ヤチヤナギは、株全体に芳香を有し、中世ヨーロッパではビールの香り付けとして利用されてきました。その芳香にはストレスを低減させる効果があることを、私たちは実験を通じて明らかにしました。

 個体数が減少するヤチヤナギは、輸入が困難な状況にあります。国内では、本州に少なく、北海道には湿原を中心にいくつかの場所に自生しています。近年、湿原の減少に伴い、絶滅が危惧されています。こうした中、このヤチヤナギを新たな「北海道ブランド」につながるものとして捉え、自生地を荒らさず、効率的に増殖が可能な組織培養による増殖技術を開発し、本技術を民間等への移転により、化粧品など様々な製品開発が行われています。

 絶滅危惧種の植物を製品原料として利用することについて違和感を覚える人もいると思いますが、新聞やテレビ等に取り上げられる絶滅危惧植物の多くは、きれいな花を咲かせる山野草や高山植物ばかりです。樹木の場合は、人間の活動や開発によって環境が壊され、人知れず減少していくものがほとんどです。

質問にお答えします

質問

回答

会場からの質問

シンジュもニセアカシアと同様にあちこちで実生で生えていますが、これも「広がっているけど、有害ではない」のですか

 

シンジュが何に対してどのように有害であるかについての情報は、研究が進んでいないため、現在のところほとんどありません。本州では河川敷で広がっており、洪水時に流下阻害を引き起こすのではないかと心配する研究者がいます。そのような事態が現実問題として顕在化した場合には除去は必要と思われます。

ニセアカシアが他の植生を駆逐しないとのことですが、ニセアカシアがあることによって他の樹種等が侵入できない(アレロパシー?)ことで、一面の植生がニセアカシアのみとなるようなことはあるのでしょうか
私もニセアカシアを一概にすべて駆除するというのはどうかと思いますが、新たに植えるべきではないとは思います

ニセアカシアがあることによって他の樹種等が侵入できないという報告は、これまでに一件もありませんし、そのような状況になる理由が見当たらないため、あり得ないと考えています。
むしろ、林内には多数の在来樹種の侵入がみられるという報告が、日本のみならず、韓国やアメリカ(原産地外の地域)からありますし、実際に壮齢のニセアカシア林をみるだけでも在来樹種が一緒に生えている様子が観察できます。

日本及びアメリカからの報告では、侵入在来樹種がしっかり林冠層に達しています。韓国では地元の人々が燃料その他に利用するため、在来広葉樹が定着しにくいだけだそうです。日本以外で大きく問題視している国はないようで、たとえinvasiveとみなされていても積極的に利用されたりしています。日本語ではinvasiveを「侵略的」と訳しますが、実際の英語の意味はやや異なります。

ニセアカシアが在来植物を駆逐する理由として、窒素固定菌との共生やアレロパシーなどがあげられていますが、在来植物も同様な機能を持っているものが少なくありません。外来種問題を強調するあまり、invasiveの日本語訳も相まって、検証もされないまま、それらの科学用語が独り歩きして来たのだと考えています。
新規の植栽を禁止するかどうかは、私たちの生活がニセアカシアなくして成り立つかどうかにかかっていると思われます。つまり、ニセアカシアによって養蜂業が大きく支えられ、そのミツバチが農作物の受粉に利用されているという現状を変えられるかどうかです。
ニセアカシアを排除しなければならない明確な根拠がなければ、無理に現状を変える積極的な理由はないと考えます。

さらに詳しく知りたい方は・・・

  動画道総研公式チャンネル

  当日の資料ニセアカシア.zip絶滅危惧種.zip

※デスクトップなどにzipファイルを保存し、作成されたzipフォルダーからスライドファイルをデスクトップ等に移動して、ご覧ください。

  案内チラシ

   

ご協力いただきました

北海道森と緑の会
養蜂家 光源寺さん