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入浴中の体調変化と見守り~浴槽内見守りシステムの開発~

入浴中の体調変化と見守り~浴槽内見守りシステムの開発~(H27.11)

道総研ものづくり支援センター    桑野晃希   

一日の疲れを癒やしてくれる入浴はとても気持ちのいいものですよね。これから寒い季節にもなりますから、熱い湯に浸かって冷えた体を芯から温めたい…。そんな癒し効果が得られる入浴ですが、一方で恐い一面もあります。

厚生労働省から毎年発表される「人口動態統計」によると、2014年(H26)の浴槽内での溺死者数は全国で4,828名を数えました。なお、発見された時の状況によって病死〔(内因死)例えば「心疾患」〕として診られ、溺死にカウントされない場合があります。このことを考慮すると、浴槽内での溺死は1万数千人にも上るとも言われています。

入浴中の溺死の原因として、浴槽内で生じる発汗とそれによる脱水状態、水圧による心臓への負荷、冷えた脱衣所や浴室から浴槽への移動に伴う急激な温度上昇による血圧の低下などが、複合的に発生し脳への血流が滞り、意識障害が生じます。そしてそのまま気を失い、頭まで水没して肺に湯が侵入し、呼吸が停止して溺死に至るというメカニズムです。特に高齢者は室温や水圧の影響を受けやすく、東京都内の例では溺死者の8割を高齢者が占めています。

こうしたことから、安全な入浴方法が提唱されています。「半身浴により体にかかる熱や水圧による心臓への負荷を減少させる」、「浴室全体を暖かく保ち、41℃以下の湯温で入浴する、入浴中は家族が声をかける」などです。このような意識づけが進められて溺死のリスクを抑える一方で、道総研が民間企業と共同開発しているのが、センサを利用した溺死を回避する見守りシステムです。このシステムは溺水から溺死に至る間の呼吸や心拍の停止状態をセンサで検出し、自動的に湯の排水を行い、警報機で同居者に報知することができます。

システムの仕組みを説明します。ゴムチューブを2枚の板で挟み込んだ構造のセンサプレートを浴槽脚下に配置します。ゴムチューブの一端には高感度な空気圧センサが接続されています。入浴者の呼吸や心臓の鼓動によって微小な体動が生じると、体動は浴槽脚を通してセンサプレートに伝わり、ゴムチューブが呼吸や鼓動の周期で変形を繰り返します。変形に伴って生じるゴムチューブ内の空気圧をセンサで計測することで呼吸や鼓動の有無を判別できます。呼吸や鼓動が確認できない場合、センサに接続されたコントローラから自動排水栓に信号を発し、肺に湯が流れ込まないよう排水するとともに、警報を聞いた同居者が速やかに蘇生処置を行うことが出来ます。一般に、呼吸停止状態が10分続くと死亡率は50%に高まりますが、3分から4分以内に心肺蘇生法を開始すると高い確率で救命できると言われています。開発中のシステムは30秒程度で呼吸の停止を検出できる性能を有しています。

道総研では、超高齢社会を迎え、浴槽内での不慮の事故による高齢者の不幸な死がこれ以上増えることのないよう、できるだけ早い製品化を目指し開発に取り組んでいます。

見守りセンサシステムの概要(PDFファイル)
道総研(工業試験場)のホームページ