法人本部

サケ

第7話   サケの多様な魅力             

道総研 さけます・内水面水産試験場 伊澤 敏穂


 縄文時代からサケは北海道で生活する人々にとって、冬を乗り切り、命をつなぐ大切な食材です。最近、回転寿司やスーパーなどで、トラウトサーモンとかアトランティックサーモンというサケの仲間の名前をよく聞くようになりました。口当たりが良く安価なため消費が伸びています。これらはノルウェーやチリでオイルを添加した配合飼料や抗生物質を与えられ、生け簀で高密度に飼育されたものです。これらの養殖サーモンに対して、サケは北洋海域の天然の餌で成長し、数千キロも泳いで北海道に戻った魚です。世界で最も豊かな北洋の海で成長したわけですから、高い栄養価と、なにより天然食材としての安心感があります。また、近年サケには、ガンの予防や血栓防止、さらには老人性認知症予防効果があることがわかってきており、その優れた健康効果にも注目が集まっています。

 

サケ稚魚(青山氏撮影).jpg 

ここでサケの成長とその魅力について、お話をしましょう。多くの方は、サケは生まれた川に戻ることをご存知かと思いますが、それでは川に放流した稚魚のどれくらいが生まれた川に戻ってくるでしょう?100尾を放したと仮定すると、この川と前浜に戻るサケはわずか4尾です。川に放された稚魚は海に向かいますが、途中、川の魚(ウグイなど)や鳥(カモメなど)、海の魚(ホッケなど)に食べられ、その70~90%が死んでしまうと考えられています。沿岸を離れた稚魚は、餌の多いオホーツク海まで約1,000キロを泳ぎ、夏から秋を過ごした後、最初の厳しい冬を迎えますが、冬を越せずに死ぬものが多いと推測されています。冬を無事乗り切り若魚となったサケは、さらに約1,000キロを泳いでベーリング海に入り成長します。そして、ある時期に回帰の引き金が引かれて北海道の生まれた川に戻ってくるのです。放流時、稚魚の体重は約1gですが、3年後の秋には、約4kgの4年魚として戻ります。3年間で体重が4,000倍にもなる、その成長エネルギーの大きさに驚きませんか!?

 

河川遡上サケ(粟倉氏撮影).jpg 

川に戻ったサケの親魚は、次の資源をつくる種卵を確保するために捕獲されます。一部の川では放流しても捕獲をしておらず、このような川では親魚が中上流域まで遡上し、熊や狐、鷲鷹類の餌になります。一方、産卵してホッチャレになったものは、その命を全うし、水生昆虫等の餌となり、さらに分解が進むと河岸の栄養となって河畔林を育み、流下した栄養素は沿岸域の海草類などの成長を促します。このように、サケはベーリング海で蓄えた栄養を川の中上流域に運び、森や生き物、そして沿岸域まで豊かにしてくれます。また、サケが自然産卵出来るような川の環境は、私達の癒しの場にもなります。

 

このように魅力の多いサケですが、その一方でまだまだわからないこともたくさんあります。道総研さけます・内水面水産試験場では、近年、北海道にやってくるサケの数が年により大きく増減し、また地域によっても差が拡大する傾向にあることから、この原因究明に関わる調査を強化しています。また、自然の中で生まれたサケの状況調査や資源の管理手法の検討、来遊予測技術の精度向上等についても取り組み、北海道のサケが持続的そして安定的に来遊することを目指しています。

 

サケのおいしい季節です。道産サケを食べながら、サケが北海道の自然環境や生態系を育む大事な役目をしていることを思い出していただくとともに私どもの研究についてご理解をいただければ幸いです。

 

 

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<参考資料>

・「サケ学入門」(北海道大学出版会)

・「天然魚 秋サケの魅力」(北日本海洋センター) 

 

   次回は10月下旬の予定です。